【ケイシーの映画冗報=2025年2月13日】「野生の島のロズ」(2024年、The Wild Robot)は冒頭で、嵐の夜、作業用ロボットを輸送中の輸送機が無人島に不時着し、大破してしまいます。1機だけ残った「ロッザム7134=ロズ」(声の出演はルピタ・ニョンゴ=Lupita Nyong’o。日本語吹き替えは綾瀬はるか)は、野生動物からひどく警戒されます。
クマに襲われ、ロズは誤って渡り鳥である雁(がん)の巣を壊してしまいました。一つだけ残った卵から生まれた赤ん坊の雁は、ロズを母親として認識し、そばを離れなくなります。
翻訳機能で動物たちの言語を操れるようになったロズは、狡猾な赤ぎつねの「チャッカリ」(声の出演はペドロ・パスカル=Pedro Pascal。日本語吹き替えは柄本佑)や、子だくさんの「オポッサム(ピンクシッポ)」(声の出演はキャサリン・オハラ=Catherine O’Hara。日本語吹き替えはいとうまい子)らと協力して、雁の子ども「キラリ」(声の出演はキット・コナー=Kit Connor。日本語吹き替えは鈴木福)を育てていきます。
ロズは、大量のデータとロボットとしての機能で、「キラリ」を仲間の雁たちと一緒に島を旅立てるまで、育てあげました。その一方で、ロズが家族を奪った過去を知った「キラリ」は、育ての親であるロズに複雑な気持ちを抱きつつ、島を離れていきます。
やがて季節はめぐり、ロズは「キラリ」と再会します。長い旅からから島に戻り、群れのリーダーに成長した「キラリ」は、ロズの苦悩も理解できるようになったのです。
そんなロズに危機が迫ります。野生で活動していた製品の存在を知った製造元が、その貴重なデータを持つロズを手に入れようと無人島に向かっているのでした。
「ロボット」という単語は、近代の造語で、1920年にチェコの作家、カレル・チャペック(Karel Capek、1890-1938)の発表した戯曲「R.U.R.」(ロッサム万能ロボット会社)に登場する言葉です。
人間社会において、人間のかわりに労働するロボット(作中では人工生物的な設定)が一般化し、何もしなくなった人類とロボットが対立するというストーリーですが、戯曲ということもあってロボット役は俳優が演じたこともあり、後世にロボット=人間型のマシン、というイメージを確立させたのも、この作品の影響とされています。
「機械が人間にかわり労働する」という発想は、この「R.U.R.」の前から存在はしていましたが、その流れもまた、本作によって広く伝播したといえるでしょう。
本作に登場するロズのように、他者のコントロールや操縦を必要としない「自律型ロボット」の日本代表は「鉄腕アトム」でしょう。著名なマンガ家である手塚治虫(1928-1989)によって1952年に連載が開始され、1963年にはテレビアニメも放送され大人気となり、近年でも「アトム」を主人公とした作品が発表されています。
「アトム」のように「人間に近い表情や感情、そして矛盾や葛藤といった、本来のロボットにはなかった要素」が、日本でロボットを描いた作品に多く登場しています。
その一方で、海外、とくにキリスト教圏では、旧約聖書に「人間は神をかたどって世のすべてを支配するために生み出された」とあることから、“人間に近似した存在”としてのロボットは少数派となっている実感があります。とくに顔の表情や感情表現については、抑制の強いデザインが本流となっている印象が強いです。
本作の主人公「ロズ」も、頭部にレンズの両眼があるほかには、シンプルな造形となっています。監督・脚本のクリス・サンダース(Chris Sanders)は、そのシンプルさを強調してロズを構築したのだそうです。「私からみんなへの主な指示は、ロズの顔のディテールは少なくていいということ。口もない方がいいと思いました。ふるまいや動き、瞳からロズのすべてを感じ取れるようにしたかったんです。100%機械でありながら、目も表情豊かなものにしよう努力を重ねました」(パンフレットより)
機械であるロズの内面は、レンズの動きや、他者からの刺激などに反応して発光するライト、そして細やかな動きによって観客に伝わってきます。パントマイムを想起させる描写でしたが、これは有効に働いたと思います。
ロズが起動してから、人工物のない自然界で行動するうちに、傷や汚れ、機能の喪失などが蓄積されていきます。そのひとつひとつがロズにキャラクターとしての成長と変化をもたらし、キラリや島の動物たちとの交流から、「与えられた指示ではなく、生命をあたえられたように、自分で動く」ことを学んでいくのです。
私たちは、つい機械的な反応や対応となることもありますが、それでは面白みに欠けているのはたしかですから。次回は「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」の予定です。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
編集注:ウイキペディアによると、「鉄腕アトム」は1951年4月から1952年3月に連載された「アトム大使」の登場人物であったアトムを主人公として、1952年4月から1968年3月にかけて、月刊マンガ誌「少年」(光文社)に連載され、1963年から1966年にかけてフジテレビ系で日本初の30分テレビアニメシリーズとしてアニメ化された。このアニメ第1作は平均視聴率27.4%を記録し、その後、世界各地で放映された。
後に「アトム大使」を「鉄腕アトム」の設定に擦り合わせて改変した「鉄腕アトム 大使の巻」として組み込まれるなど、本編がスピンオフに歩み寄る逆転現象が起きた。