【ケイシーの映画冗報=2025年5月8日】今回は「サンダーボルツ*」(原題:Thunderbolts*、2025年)です。かつては闇の暗殺者であったエレーナ(演じるのはフローレンス・ピュー=Florence Pugh)、いまはアメリカのCIA長官のヴァル(演じるのはジュリア・ルイス=ドレイファス=Julia Louis-Dreyfus)からじかに命令を受ける環境にいましたが、仕事そのものは秘密の破壊任務でした。

5月2日から日本とアメリカなどで一般公開している「サンダーボルツ*」((C)2024 MARVEL)。今回がMCUとしては34作目。「Real Sound」によると、製作費は1億8000万ドル(1ドル=145円換算で約261億円)、5月2日から4日の初週で興行収入が7600万ドル(110億2000万円)で北アメリカの映画興行ランキングで1位だった。興収は海外では8610万ドル(約124億8450万円)で、総計は1億6210万ドル(約235億450万円)。
裏稼業に嫌気がさしたエレーナが引退を申し出ると、ヴァルは最後の仕事を提示します。ヴァルが経営していた軍需産業の“廃棄物を処理する”というものでした。“最後の汚れ仕事”として、砂漠の秘密施設に潜入したエレーナでしたが、現地で戦闘に巻き込まれます。
かつてスーパーヒーローの後継者と見込まれながら放逐された“幻のキャプテン・アメリカ”であったジョン(演じるのはワイアット・ラッセル=Wyatt Russell)、物質をすり抜ける能力を持つエイヴァ(演じるのはハナ・ジョン=カーメン=Hannah John-Kamen)、対戦相手の技量を一瞬にコピーできるアントニア(演じるのはオルガ・キュリレンコ=Olga Kurylenko)らと戦ううちに、自分たちがヴァルの狡猾な罠によって“まとめて処分”されそうになるという現実を知ります。
即席のチームで危機を脱したエレーナたちは、自分らを“不用品”あつかいとしたヴァルとの対決を決意しますが、相互不信の固まりのようなチームで、圧倒的に不利な状況ながら戦う“サンダーボルツ”の結末とは。
コミック・ブランドであるマーベルのキャラクターを映像で表現する「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe、MCU)」には、414回目(2月27日付、MCUの説明も参照)に取り上げた「キャプテン・アメリカ」(Captain America)をはじめ、スーパーヒーローが多数登場します。
天才科学者から本物の神様までが集う正統派の「アベンジャーズ」(原題:Marvel’s The Avengers、2012年)に対し、本作の「サンダーボルツ」のメンバーは名誉や栄光から見放されたと断言できるキャラクターです。
メインのエレーナも汚い仕事ばかりの現状に鬱屈しており、落ちぶれヒーローの父親のアレクセイ(演じるのはデヴィッド・ハーバー=David Harbour)とは不仲で、会えば口論となっています。自分のミスでヒーローに落第したジョン、父の実験の失敗で能力を得たものの不安定な肉体となったエイヴァ、家族を喪って天涯孤独となったアントニアなど、“実力はあってもマイナス面が強い”メンバーで、まとめ役となるバッキー(演じるのはセバスチャン・スタン=Sebastian Stan)も、過去には初代キャプテン・アメリカの親友ながら、洗脳されて幾度も命を狙っていたのですから、負の一面をおおいに内包している存在なのです。
キャラクター的には“いがみあい、ぶつかりあう”チームなのですが、撮影現場では一体感が強かったそうです。エイミー役のフローレンス・ピューによると、
「信じられないほど一体感がありました。みんな、プロ意識が高いし、一緒に遊ぶのも大好き。遅刻する人なんて誰もいないし誰も待たせないし、暑い日も辛い日も誰にも迷惑を掛けることなく全員集合していました。というのが普通であって、当然だと思うんですが、意外とそうでもないのが現実なのでね(笑)。その点、心構えの同じ人が集まり快適に仕事ができました」とのことです。
撮影現場や舞台公演などでは、そのタイミングでは濃密であっても、スケジュール的な制約などで、「みなが一体となって」というのは意外と難事だったりもしますが、本作ではクリアできたようです。
スタッフ・サイドもおなじような状況だったようで、監督のジェイク・シュライアー(Jake Schreier)も、このように述べています。
「ありがたいことに、この映画では率直に遠慮なく私に対して意見をぶつけ、自分たちのアイデアをしっかりと作品に反映させてくれるひとばかりでした」
マーベル作品で15年間にわたって出演しているバッキー役のセバスチャン・スタンのコメントも同様です。
「(前略)長年付き合ってきたスタッフと再会できるのが本当に嬉しいです。(中略)そんな家族のような仲間のおかげで、こういう現場は成り立っているんです。みんなのエネルギーがすべてに影響しますから」(いずれもパンフレットより)
劇中ではぶつかり合うキャラクターが、キャスト陣は良い関係を構築していたり、ライバル同士でも現場だけの関係であることは決して珍しくありません。そうした面で鑑賞すると、本作の「ギクシャクしながらチームとして活躍する」サンダーボルツのメンバーの、内面の深さを感じられるかもしれません。次回は「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。