【ケイシーの映画冗報=2018年7月12日】1977年に制作された映画「スター・ウォーズ(Star Wars)」(以下SW)は、これまで“傍流”とされてきたSF(サイエンス・フィクション)という作品のジャンルを、一気にメジャーなものに押し上げた原動力といっても過言ではないと思います。
「SW」シリーズの成功がなければ、40年後にアカデミーの監督賞、作品賞に異形のモンスターがメインで登場する「シェイプ・オブ・ウォーター」(The Shape of Water 、監督はギレルモ・デル・トロ=Guillermo del Toro)が選ばれることも難しかったのではないでしょうか。
「SW」で屈指の人気を誇るキャラクターであるハン・ソロ。自称「銀河で最速の運び屋」のアウトローであるハンの若き日々を描いたのが本作「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」で、2年前の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(Rogue One:A Star Wars Story)に始まる「SW」のスピンオフ(外伝)の第2弾となっています。
銀河帝国で圧政が強まりつつる時代。辺境の星コレリアで“銀河最速のパイロット”を夢見るハン・ソロ(演じるのはオールデン・エアエンライク=Alden Ehrenreich)は、幼なじみの女性キーラ(演じるのはエミリア・クラーク=Emilia Clarke)を連れて、この星での最下層の生活を離れようとしますが、旅立つ寸前で、キーラと離ればなれになってしまいます。
3年後、銀河帝国軍の一員となり、パイロットの訓練を受けていたハンですが、持ち前の反骨精神の発露からただの兵士とされてしまい、惑星ミンバンにて泥まみれになって戦い続けていました。ひょんなことからニセ将校のベケット(演じるのはウディ・ハレルソン=Woody Harrelson)が率いる盗賊団と一員となります。
ここではもうひとつ、出会いがありました。ハンと生涯を供にする相棒チューバッカ(演じるのはヨーナス・スオタモ=Joonas Suotamo)です。この心優しき巨人は、毛むくじゃらの怪異な容貌から不当に低く扱われる存在でしたが、ハンは心を通わせることができたのです。
ベケットたちと“仕事”をするようになったハンは、新しい仕事を受けるために犯罪組織“クリムゾーン・ドーン”の幹部と会うのですが、その相手は生き別れたキーラでした。再会した彼女の提案で、ハンはのちの自身の愛機となる高速密輸船“ミレニアム・ファルコン”に乗りこむことになるのでした。
これまでのシリーズでハンを演じてきたハリソン・フォード(Harrison Ford)の印象が強く、またハン自体もキャラクターとしてのアイコン(偶像)が広く知られています。近作「レディ・プレイヤー1」(Ready Player One)でも、主人公のネット上での姿にハンのイメージが取り入れられています。
本作でハンを演じるオールデン・エアエンライクは決してハリソンに似た風貌ではありません。個人的には演技は“演じる”のであって“形態模写”ではないですし、映画は“そっくりさんコンテスト”でもないのですから、容姿よりも“(その人物なら)こうするだろう”といった雰囲気の方が大切だと考えています。
オールデンも撮影前に「SW」のシリーズを見直し、オリジナルのハリソンにも助言を得たそうですが、「バランスが大事だと思った。ものまねだけでは、空っぽで中身のない作品になってしまいますから」(読売新聞6月22日夕刊)という結論に至ったようです。
もともとハンというキャラクターは西部劇の拳銃使い(ガン・シュリンガー)が投影されています。初登場でも本作でも、危険が迫るとさりげなくレーザー銃(ブラスター)のホックをはずし、抜きやすくするのは西部劇の定番ですし、本作でハンの師匠といえる存在のべゲットは西部劇のような二丁拳銃で、銃そのものを巧みに回転させるガン・スピンを幾度も披露しています。
前回の外伝「ローグワン」が戦争映画の要素が強いものでしたので、本作では西部劇のモチーフが濃いように感じます。中盤で繰り広げられる燃料輸送列車を襲うシーンは、西部劇の列車強盗がモデルとなっているのは確実だと想像します。
監督のロン・ハワード(Ron Howard)は、撮影終了の3週間前からの参加という“緊急登板”でありながら、見事に本作を仕上げています。アカデミー監督賞(「ビューティフル・マインド=A Beautiful Mind」)を手にしたハワードですが、子役時代には大スターであったジョン・ウェイン(John Wayne、1907-1979)と西部劇で共演しており、西部劇の要素が強い本作には、結果として格好の人選だったのではなかったかと思います。
次回は「ジュラシック・ワールド 炎の王国」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。