予想外のラストに、シルバをもう一度見たくなる「マイル22」(255)

【ケイシーの映画冗報=2019年1月24日】アメリカ国内で活動しているロシア諜報機関のアジトを急襲したCIA(アメリカ中央情報局)極秘チームのリーダー、ジェームズ・シルバ(演じるのはマーク・ウォールバーグ=Mark Wahlberg)は、思わぬトラブルから味方に犠牲者の出る大銃撃戦のなかでも、冷静に対処できる優秀なエージェントでした。生き残った最後のひとりが不吉な言葉を残します。「後悔するぞ」「慣れてるさ」と引き金を引くシルバ。

現在、一般公開中の「マイル22」((C)MMXVIII STX Productions, LLC. All Rights Reserved.)。

16カ月後、シルバの率いるチームは東南アジアの小国インドカーで、危険な放射性物質セシウムの行方を追っていました。そんなとき、現地の警察官がアメリカへの亡命を求めてきました。その男ノア(演じるのはイコ・ウワイス=Iko Uwais)は、自身の安全と引き換えに、セシウムの情報を引き渡すと取り引きをもちかけます。

半信半疑であったシルバたちですが、厳重な警戒を破った刺客に襲われたノアの姿を見て、現状を悟るのでした。

アメリカ大使館から空港まで22マイル(およそ35キロ)、敵だらけの市街をノアを護って戦うシルバたちは、犠牲を強いられながらも任務を果たそうと全力で戦います。その状況を、ロシアの航空機が密かに監視していました。その監視対象とは。

本作「マイル22」(Mile 22、2018年)の主演(製作)マーク・ウォールバーグと監督(共同脚本・製作)のピーター・バーグ(Peter Berg)は、この5年間でじつに4作品も主演と監督というコンビで映画をつくっています。

制作費は3500万ドル(約35億円)で、興行収入が世界で3147万ドル(約31億4700万円)。

これまでの3本が、実際に起きた事件や事象をもとにした作品であるのに対し、本作は完全なオリジナルの映画となっています。

日本の紹介文で、「W(ダブル)バーグ」と表現されるほどのコンビであるウォールバーグとバーグ監督ですが、この作品も“共同作業”だったそうです。

「これまで実話に基づいた映画を3本作ってきたけど、そろそろなにか違うものを作りたかった。」(「映画秘宝」2019年2月号)

それは盟友であるウォールバーグも同様だったようで、「同じく僕(バーグ監督)らはフィクションで激しいアクションの映画を作りたいと思っていた。」(前掲誌)

そのきっかけが、かつて本稿でもとりあげた全編の90%が格闘・戦闘シーンというインドネシア映画「ザ・レイド」(The Raid、2010年)を知ったことだったそうです。ここで白羽の矢が立ったのが、警官ノア役のイコ・ウワイスでした。

「ザ・レイド」の主演であり、インドネシアの伝統的格闘技であるシラットの達人であるウワイスは出演だけでなく、母国から仲間を呼び寄せて本作の武術指導も兼ねており、(自身の出演シーンもふくめて)、積極的に関わったそうです。

「ピーター(バーク監督)は、僕を信頼し、格闘シーンを自由にやらせてくれたんだ。(中略)僕はつい攻撃的で凶暴なシーンにしがちだけど、ピーターの要求はそれ以上だった(笑)。」(パンフレットより)

本作ではシルバの部下サム(演じるのはロンダ・ラウジー=Ronda Rousey)にも女子柔道のオリンピック銅メダリスト(北京にて)が配役されており、こちらも本物の格闘家でアスリートです。

当然ながら、映画撮影の現場スタッフとして、ハリウッドのスタントチームも加わるので、プロフェッショナル同士の軋轢が想像できてしまいます。

自分もこうした“現場の異常な状況”を見聞しております。「スタジオのスタッフ間で意思の疎通ができておらず、ピリピリした空気に、慣れないキャストが萎縮してしまっている・・・」といった情景でしょうか。

バーグ監督もその点は気になっていたようです。
「みんな最初は互いに探り合っていたよ。(中略)でもイコはとても努力家だったから、スタントの連中も彼についていったんだ。素晴しい光景だったよ。」(パンフレットより)

私見ですが、映画監督というのは、癇癪(かんしゃく)をおこしたり、相手をさんざんに罵ったりする暴君(たとえば、本作の主役であるシルバのような)ではいけないと考えています。劇中のシルバは天衣無縫といいますか、頭も切れるが性格もキレ気味という、フィクションでは魅力的ですが、正直にいって、自分とその周囲には居てほしくない人物です。あくまでスクリーン上で活きる存在です。

そして、本作のラストは、正直、まったく想像していない展開となっていきます。派手なアクション・シーンに目を奪われてしまいがちですが、ストーリーにも工夫があり、すなおに「一本、とられたな」という感想を持ちました。シルバの大暴れ、もう一度見てみたいと思います。次回は「ナチス第三の男」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。