【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年5月26日】ロックダウン(都市封鎖)60日目に入る5月20日、当オディシャ州(Odisha)と北隣の西ベンガル州(West Bengal)をスーパーサイクロン(Cyclone Amphan)が襲うとのニュースが2日前に入った。あわててネットをチェックすると、予報では当地は直撃地から外れ、州境を少し北上した西ベンガル州のビーチリゾート地・ディガ(Digha)がターゲットのようだが、予断を許さない。
昨年5月のスーパーサイクロン(Cyclone Fani)時も、当地を逸れる予報が出ていたが、現実にはもろ直撃されて、ホテル街は甚大な被害を被ったのである。
それにしても、コロナ禍でロックダウン下にあるこの時期とはあまりにタイミングが最悪すぎる。長い封鎖に気が緩みかけていた私もさすがに、身が引き締まった。
すぐにスタッフに命じてホテルと、隣接する私邸の全窓の把手にロープをくぐらせ、きつく結わえて補強させ、屋上の貯水タンクの蓋が強風で飛ばされないように同様にロープで結わえさせた。電光ボードは外して屋内に仕舞い、全室のバスルームのバケツに貯水、それから、飲料水と食糧の備蓄に走らせた。
ネットで進路を確認しながら、当地を通過する19日夜を戦々恐々の思いで過ごしたが、幸いにも、今回は住民の神頼みが効いたようで、風の威力はファニの半分以下、ただファニがたった1時間のうちに蛮行の限りを尽くしたのと違って、ひと晩中雨風が吹き荒れ、停電が翌昼まで続いた(ファニ時は2週間の大停電だったから、復旧も最速だった)。おかげさまで、当ホテルは被害ゼロ、しかし、向かいの小宅の簡易屋根が吹き飛んでいた。
ベンガル湾一帯はサイクロン多発地域、1999年にもスーパーサイクロンが襲撃、大豪雨に見舞われ、1万余人の死者が出たが、記憶に残る限りでは、昨年5月のものが最強、時風速200キロの猛威(車が吹き飛ぶ威力)にはただただ圧倒された。
身に迫る危険をひしひしと感じ、生きた心地もせずにじっと狂嵐の通過を耐え忍び、事後、根こそぎ覆された街灯のポールがオフィスの屋根に突き刺さっている惨状には心底驚かされたものだ。
このトラウマ経験が1年たって癒えかけたこの時期、しかも悪いことにはコロナ禍による封鎖下の当州を襲うのだから、恐怖はいや優った。
避難センターでは、何万人という住民が、コロナ禍にはタブーの密な環境でひしめき合っているに違いなく、悪しき状態が感染に一役買うと思うと、憂慮は募るばかりだったが、とりあえず、昨年の二の舞いにならなくてよかった。
西ベンガル州や隣国・バングラデシュ(Bangladesh)の被害に遭われた方々には、心からお見舞い申し上げたい。サイクロンとコロナのダブルショック、誰だって、勘弁願いたいワーストだ。
本日20日、全土の感染者数は11万2000人(4万5300人回復、3435人死亡)、28州中最悪は変わらず、マハラシュトラ州(Maharashtra)で3万7136人(死者1325人)、当州は978人(死者5人)と急増中だ。
(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、本人は感染していません。
また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日までに延長することを決めました。これにより延べ67日間となります。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。
5月25日現在、インドの感染者数は13万8536人、死亡4024人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン」と総称しています)