【ケイシーの映画冗報=2026年1月29日】今回は「ウォーフェア 戦地最前線」(原題はWarfare)です。2006年のイラク。アメリカ海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」(Navy SEALs)を中心とした8名が、もっとも危険といわれるラマディ(Ramadi)にて、現地の家屋に武装してのりこみ、任務につきます。その目的は国際テロ組織「アルカイダ」(Al-Qaeda)の幹部を発見し、狙撃を試みるというものでした。
指揮官であるエリック(演じるのはウィル・ポールター=Will Poulter)以下の兵士たちは、緊張しながらもどこかリラックスもしていましたが、占拠した家はいつのまにか、武装集団に包囲されており、攻撃を受けます。優秀な狙撃手エリオット(演じるのはコスモ・ジャーヴィス=Cosmo Jarvis)をはじめとして、負傷者が続出する戦場で、指揮官のエリックは上級部隊に支援を要請しますが、地域全体が攻勢にさらされたことで通信も錯綜しており、通信兵のレイ(演じるのはディファラオ・ウン=ア=タイ、D’Pharaoh Woon-A-Tai)は、無線を意図的に遮断してしまいます。
絶望的な戦況のなか、負傷者の救出のため、全力をあげるアメリカ軍の兵士たち。かれらは生きてこの戦場を離れることができるのか。
本作は2024年に公開された、「内戦によって秩序が崩壊し、暴力に支配されたアメリカ」を描いた「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(Civil War)を脚本、監督をになったアレックス・ガーランド(Alex Garland)が、この作品で軍事顧問であったレイ・メンドーサ(Ray Mendoza)と共同で脚本、監督した作品となっています。
次の作品について尋ねられたガーランド監督は、「次の映画にはストーリーはない」(「映画秘宝」2025年9月号)、「ただ、イラクで実際にあった戦闘をリアルタイムで再現するだけだ」(同)と応じたそうです。
その言葉どおり、本作は徹頭徹尾「2006年のイラクのひとつの戦場」を描いているのですが、そこには「エンターティメント的な描きこみ」や「反戦/非戦のメッセージ」といった部分は一切なく、本当に“最前線のいち兵士”の目線が貫かれています。
美女がセクシーに踊る映像で、出撃前の兵士たちが気勢を上げるシーンから、本作ははじまります。マシンガンやライフルを手に、ダンスする美女で盛り上がるという、不謹慎ともとられそうな情景ですが、メンドーサ監督によれば、本当にそうだったとのこと。たしかに、中東では飲酒や女性のヌード写真が厳禁なので、ギリギリのラインでこうした楽しみは欠かせなかったそうです。
深夜、ラマディの街へ侵入する兵士たちは、バカ騒ぎをしていた人物とは思えないほど、静かで確実な動きを見せます。この“動と静”のバランスが恐ろしくもありますが、優秀な戦闘員という一面を印象づけられます。
アメリカ軍が“接収”する家には、普通の暮らしをしている家族がいます。突然、重武装の兵士たちに踏み込まれ、自宅が前線基地にされてしまうのです。
この時期のイラクを取材した方にうかがったのですが、本当に銃声はしょっちゅう響きわたるので、住民たちは慣れてしまい、すっかり無関心になっていたそうです。「そうでないと、神経とこころがもたないんでしょうね」とのことでした。
作品内でもっとも重い「受傷」となるのは、手榴弾の爆発で負傷し、後方へ向かうための脱出中にIDE(手製の簡易爆弾)でさらにひどい傷を負った狙撃手のエリオット・ミラー(Elliot Miller)で、かれは通信兵のレイ(メンドーサ監督自身)の親友なのだそうです。
瀕死の重傷を負ったミラーは一命はとりとめたものの、両足の機能を喪い、声を発することもできなくなり、さらにこの「運命の日」の記憶も無くしているそうです。
「エリオットが2006年のあの日、なにが起きたのか覚えていないが、作戦に参加した彼の同僚のシールズ隊員たちは覚えている。居所を探し出して、あの問題の日についてみんなの記憶や見方を集めたかったんだ。そして生きた記録映像を創り出して、エリオットがあの作戦の間に何があったのか、体験できるようにしたかった」(パンフレットより)
戦争が国家間だけでなく、好戦的な団体によって引きおこされているいま、戦争の是非はともかく、戦場で生き残ること、そのために戦うことを全否定することは困難といえるでしょう。本作で再現された戦場で、本当に戦火にさらされたメンドーサ監督やミラーは、国家の軍人として、上部からの命令に従っただけなのですから。最後にメンドーサ監督のメッセージを紹介します。
「もし、この映画を観ても『戦争はいいね』と言う人は、自分の物事の見方を見直すべきです」(前掲誌)。
次回は「ランニング・マン」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
