【ケイシーの映画冗報=2024年9月26日】1979年7月21日(アメリカでは5月25日)、1本のSF宇宙映画が日本で公開されました。長編映画は2本目というリドリー・スコット(Ridley Scott)監督の「エイリアン」(Alien)です。
1977年(日本では1978年)に公開され、一大ブームとなった「スター・ウォーズ」(Star Wars)に連なる作品ではなく、「ブームの宇宙SFものに想像を絶するミステリーとサスペンス、恐怖とスリル、ショッカーの要素を加えたまったく斬新な発想による意表をついた作品である」(公開時のパンフレットより)と記されているとおり、宇宙船の内部という閉ざされた空間で、「あの生物は素晴らしく純粋だ。良心も後悔もモラルの迷いもない(劇中のセリフ)」恐ろしい地球外生命体と乗組員たちの闘いは、ホラー映画的な緊張感にあふれ、部分的にしか見えない敵“エイリアン(ビック・チャップ、またはゼノモーフ)”のデザインとキャラクター造形は、多くの作品に影響を与えています。
シリーズ2作目の「エイリアン2」(Aliens、1986年)では、大量にあらわれるエイリアンと未来の兵器で武装した人類との戦争アクション、3作目の「エイリアン3」(Alien3、1992年)は、宗教的な“戒律”のある閉鎖空間を舞台とした、ミステリー色の強い作品でした。
「エイリアン4」(Alien: Resurrection、1997年)では、3作目で死亡したシリーズのメイン・キャラクターがクローン技術によって復活し、ヒロインである“リプリー”が前面に出た作品となっています。
他にもスピンオフ作品や、1作目の監督による「エイリアン誕生」の前日壇も作成されていますが、本作「エイリアン:ロムルス」(Alien: Romulus)は、1作目と2作目の“空白の20年間”にフォーカスをあてた作品です。
西暦2142年。過酷な自然環境のジャクソン星の鉱山で働くレイン(演じるのはケイリー・スピーニー=Cailee Spaeny)は、彼女を姉と慕うようプログラミングされたアンドロイドであるアンディ(演じるのはデヴィッド・ジョンソン=David Jonsson)のほか、4人の若い男女とともに、ジャクソン星の上空をただよう、廃棄された宇宙ステーションに向かいます。そこにあるはずの冷凍休眠装置を使えば、長距離の宇宙飛行が可能で、快適なユヴァーガ星に向かうというのが最終目的でした。
宇宙ステーション「ルネサンス」に入ったレインたちは、ここが何かの研究施設であり、大きな殺戮がなされたことを知ります。唯一の生き残りであった半壊したアンドロイドのルーク(演じるのはダニエル・ベッツ=Daniel Betts)を再起動させ、そのデータをアンディにコピーします。それにより、「ルネサンス」で起きた事件と、その原因の一部を知るのですが、仲間のひとりに異変が起きたことから、生き残るための闘いがはじまるのでした。
1作目を監督し、本作でも製作を担当するリドリー・スコットは、最初の「エイリアン」のストーリーについて、こう述べています。「私は宿命というテーマに心ひかれる。『エイリアン』の中にあるのしかかって来る運命と云ったものにひかれる。誰もそこから逃げだすことはできない。そこを表現しなければならない」(1979年公開当時のパンフレットより)
本作の監督・脚本(共同)・製作総指揮のフェデ・アルバレス(Fede Alvarez)は、1978年生まれなので、1作目をリアル・タイムで鑑賞されてはいないでしょうが、高く評価しています。“創造主”ともいえるスコット監督との対談でも、1作目についてこう述べています。
「SF映画ってすぐに古臭くなってしまうことが多いですが、あなたの『エイリアン』はまったくそう感じさせません。まさに不朽の名作です」(パンフレットより)
1970年代の特撮では、宇宙船はミニチュア、怪物は小型タイプをワイヤーやポンプで動かし、ヒト形や巨大なものはモンスター・スーツが定番で、ときには実物大の模型も使われていました。
やがて、CG技術の発達により、文字通り“存在しないキャラクター”が登場しますが、本作のメイキングを見ると、極力、造形した模型やスーツ・アクターによる表現となっており、アルバレス監督の過去作への強い愛情と敬意を感じさせます。
「これはサバイバル・ホラーだ。シリーズのルーツである1作目に回帰している。そして間違いなく2作目に通じるものがある。非人間的な何かが自分の行く手に立ちはだかり、生き残るためにそれと戦う人間の精神が描かれている」(「映画秘宝」2024年10月号)。時を経ても、物語の根幹が残るという真理なのでしょう。
次回は、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。