インド、回復率高く希望も爆竹鳴らず、静かすぎる旧正月(50)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年12月4日】11月14日(ヒンドゥの太陰太陽暦で新月)は、ディワリー(diwali、西インドでは旧正月祭)だったが、コロナ下爆竹が禁止されたため、例年にない静かな祭日だった。遠くで散発的にクラッカーが鳴り響くのみで、もちろん、観光客も少ないから、お祭りといっても、寂しい限りだ。

10月23日、7カ月ぶりに営業再開した我が宿「ラブ&ライフ」(東インド・オディシャ州プリー在)。スタッフも1人補充、非接触型体温計やサニタイザーも完備して臨んだが、まだ3組のローカル客しかゲットしていない。

日頃は、路の所構わずかんしゃく玉を破裂させて祝う、爆竹祭と改名したいくらい超過激なお祭りが苦手の私だったが、前代未聞の静かなディワリーは、ディワリーじゃないみたいで、なんだか物足りない。

当地プリー(Puri)の我が宿「ラブ&ライフ」は10月下旬、営業再開に漕ぎ着けたものの、開店休業状態に等しく、この2日間やっと祭り目当てのローカル客2組をゲットしたが、空きが目立って閑散としている。いっそのこと、こんなときこそかんしゃく玉を破裂させて、すっきりストレス解消したいものだ。

6連発くらいの強力なやつを投げたら、すーっとするかなと我ながら凶暴、半ばやけくそ気分である。

日本人行者が爆弾テロかと紛う戦々恐々の、めでたく正月を祝う爆竹祭がこう静かすぎては、まったく意気が上がらない。

この日はまた、美と豊穣と幸運の女神ラクシュミー(lakshmi、日本の吉兆天)のお祭りでもあるため、富貴神を歓迎するために、門前に何本ものろうそくや素焼きの灯油ランプ(ディヤ、diya)を並び灯して祝うのだが、どのホテルのゲートも真っ暗だ。州政府の自粛要請を受けてのことである。

ディーパ(灯)ワリ(列)と言われる文字通り、光のお祭りは、夫婦間で贈り物を交換しあって絆を深めたり、家電商品などを購入するにも縁起のいいときで、店も祭りにちなんでディスカウントしてくれる。

パナマ帽にサスペンダーズボンと、ニューファッションで、楽しいダンスを披露、息子・ラッパー・ビッグ・ディール(Rapper Big Deal)の新動画は必見!ミリオンヒットの兆しを見せている。(https://youtu.be/Lr2smiQM2oQ)

しかし、今年はそんな華やぎムードとは程遠く、近隣では、海辺のリゾートホテルが豆電飾のすだれで建物前面を飾り立てていたくらいだ。 爆竹のみならず、花火も楽しまれるが、路上に子どもたちの姿はない。

14日現在、インド全土の1日当たり感染者数は、4万人台と鈍化維持(総数877万人、死者数12万9000人)、最悪のマハラシュトラ州(Maharashtra)の実質陽性者数も13万人台まで落ち、以下、カルナータカ州(Karnataka)は4万人超だが、アンドラプラデシュ州(Andhra Pradesh)、タミルナドゥ(amil Nadu)、ウッタルプラデシュ州(Uttar Pradesh)はそれぞれ3万人前後と、回復率が高いせいで、実質数はどんどん減っている。

ただし、南のケララ州(Kerala)が第3波で、ウッタルプラデシュ州を抜いて5位に浮上、実質数では、最悪のマハラシュトラ州に次ぐ8万人台と急増した。

オナム(Onam)というケララ最大のお祭りのせいと、生活習慣病を抱えた高齢者が多いせいと言われる。とはいえ、回復者数が新規感染者数を上回り、希望が持てる現状だ。

なお、首都デリー(Delhi)も、PM2.5と日本の基準値の10倍の大気汚染と相まって、感染者数が1日当たり8000人超と急増、憂慮される状況だ。首都は毎年、11月からの冬季シーズンは、スモックが発生し、視界がきかなくなるひどさなのだ。肺の病気から重症化する人も今後増えることが懸念されている。

あと、このたびのディワリーで、市場に服や装飾品を求めて、人々がどっと買い物に繰り出し、密になったことから、さらなる感染拡大が危惧されている。

当オディシャ州(Odisha)は、総感染者数がついに30万人を突破し、死者数も1400人超と増えたが、1日当たりの感染者数は1000人を切り、2カ月半前の7月20日の水準まで落ち込んだ。まだ予断を許さないものの、喜ばしいことだ。

息子(職業はミュージシャン、芸名ラッパー・ビッグ・ディール=Rapper Big Deal)は昨日、カルナータカ州(Karnataka)都バンガロール(Bangalore)でのロケ撮影のため、当地を後にした。1週間前にリリースされたばかりの新動画が30万回突破と快調、コロナ下でも、撮影にやれ、州都だ、旧州都だと飛び回っていたが、4カ月半ぶりに州外に出ることになった。

最悪州のマハラシュトラに次ぐ感染爆発地なので、マスク常着とソーシャル・ディスタンスを守るよう、口を酸っぱくして言い聞かせて送り出した。

●政界こぼれ話/米大統領選の混乱、インドとの比較

11月3日に行われた米大統領選は、大混戦で、民主党のバイデン氏(Joseph R.Biden,Jr)が勝利を収めたが、共和党の現トランプ大統領(Donald J.Trump)がいまだ敗北を認めておらず、不正があったとして法廷闘争に持ち込んでいるのは、周知の事実だ。

どこの国でも、多かれ少なかれ、選挙に不正はつきもの、インドはその点極端で、巷に札束が飛び交うことで悪名高い。有権者を酒やサリーなどの物品で買収するのは日常茶飯だ。

人口の67%、9億人という有権者を抱えるインドでは、投票にあたって、電子投票機(国産)が20年以上用いられてきたが、近年不正疑惑がしばしば持ち上がるようになった。

EVM(Electronic Voting Machine)は、左に党名とシンボルが縦列に並び、右に青いボタンのプッシュ選択型、文盲でも党シンボル、与党のインド人民党なら蓮だが、絵柄で選べるようになっている。

野党の告発によると、不正ソフトウェア、マルウェアなどでプログラミングやメモリーカードを感染させて操作するのはわけがないとかで、そのたびに投票用紙復活の声が高まるが、選挙後しばらくすると、うやむやになってしまう。

余談だが、インドの政治家は汚職三昧、人民そっちのけで私腹を肥やす業欲な輩ばかり、映画でも政治家といったら、悪役と相場が決まっている。権謀術数の限りを尽くして、政敵退治、ご都合主義の変わり身の早さにも驚かされる。昨日の友は今日の敵で、保身のためにころころ連携党を変えるのには、呆れ返る。

ただし、手腕はなかなかのもので、弁も立つし、ユニークで個性が際立つ。インドでは、政治家は70代から、80代も珍しくなく、60代はまだひよっこ、がために、老齢政治家が跋扈(ばっこ)しているのだ。

所詮、政治はきれいごとでは済まず、選挙には膨大な資金がいることからも、裏金が動くことは必至、政治とはそういうものだと割り切ればいいのかもしれない。

●極私的動画レビュー/ドラマ「劇的紀行深夜特急」1・2部

大沢(おおさわ)たかお主演のドキュメンタリードラマ「深夜特急」(名古屋テレビ制作・テレビ朝日系列、1996年、沢木耕太郎=さわき・こうたろう=原作、1986年)を観た。

アップされていたのは、「96~熱風アジア編」1と、「97~西へ!ユーラシア編」2で(3のヨーロッパ編は未公開)、香港から始まりタイ、インド、ネパール、パキスタン、イランなどの中央アジアまで周遊する主人公をドキュメントタッチで追ったもの。

大沢たかおがナチュラル演技で非常によい。ウィキペディアによると、ご本人も海外放浪歴があるらしく、どおりで英会話も悦に入っているし、旅慣れた感じではまり役だ。

英語は、発音などは本格的でないが、いわゆる旅行者英会話で、もの慣れており、現地人や同じ外国人バックパッカーと話すときも自然態だ。

私自身、元祖バッグパッカー、また後にインドに安宿を開業し、大勢のバッグパッカー客のお世話をしてきたことから、振る舞いやしぐさ、いかにもそれらしい身振り手振りが懐かしく、若い頃を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。

駅で手持ち無沙汰に列車を待つシーンでは、大沢が沢木に見える一場面もあり、よく原作を、作者を掴んでいるなと、唸らされた。タイのロケ地は、アユタヤなど、亡夫と共に旅した思い出の数々がよぎり、切なくさせた。

沢木の「深夜特急」は、1980年から1990年代のバッグパッカーのバイフルでもあった。もちろん、私も読んでいる。

まだまだ行き残したところがあると、口惜しみつつ、わが青春と重ね合わせて、郷愁と共に1・2と3時間以上の長編を観終え、余韻が長く残った。老いのとば口にあるけれど、行き残した所をクリアするのは、まだ遅くないだろうかと改めて、ポストコロナの海外旅行に思いを馳せた。

インド国内だって、まだ見残したところがある。手始めは、居住州1周だろうか。オディシャは、自然豊かで、奥地には原住民エリアもある。コロナ囚人で身動き取れないだけに、旅への憧憬が余計募った。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

11月27日現在、インドの感染者数は930万9787人、死亡者数が13万5715人、回復者が871万8517人、アメリカに次いで2位になっています。アメリカの感染者数は1288万3264人、死亡者数が26万3454人、回復者が487万1203人です。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)