【ケイシーの映画冗報=2013年2月28日】1988年、1本のアクション映画が世界中のエンタティメント作品に大きな影響を与えました。いつも災難に巻き込まれてしまう運の悪い主人公、ジョン・マクレーンをブルース・ウィリス(Walter Bruce Willis )が演じた「ダイ・ハード」(Die Hard)です。
昔気質(むかしかたぎ)の刑事マクレーンが、クリスマス休暇で招かれた高層ビルで事件に巻き込まれ、孤立無援の状況で武装集団と戦うという「ダイ・ハード」のプロットは、さまざまなメディア作品に「ダイ・ハードモノ」というジャンルを立ち上げてしまったほどなのです。
自身の境遇を呪い、絶体絶命の状況でも相手をからかったり軽口を叩くという「世界一運の悪い男」ジョン・マクレーンの活躍は、体を張ったアクショ ンをこなしたウィリスの熱演も相まってシリーズ化されます。すぐに制作された「ダイ・ハード2 」(Die Hard 2:Die Harder、1990年)と「ダイ・ハード3」(Die Hard:With a Vengeance、1995年)、「ダイ・ハード4.0」(Die Hard4.0、2007年)と続き、今回の「ダイ・ハード/ラスト・デイ」となっています。
それなりに腕っぷしは強く、射撃も1発で犯人を打ち倒したことが幾度もあって、刑事としての直感もピカいちと、犯罪者にはめっぽう強いマクレーンですが、走り回っているうちに息が上がってしまったことから禁煙を意識したり(「2」)、妻との離婚騒ぎではアルコールに溺れて警察を停職となる(「3」)など、人間味あふれる部分もあり、決して超人的なヒーローというわけではなく、そんな要素も作品の魅力となっています。
また、派手なアクションシーンによって見落とされがちですが、各作品でマクレーンが直面するのはすべて、彼にとっての「異界」となっています。第1作ではコンピュータ制御のハイテクビル、2作目は大雪で閉鎖された大空港。3作目はクイズ・ゲームを仕掛けてくる知能犯(マクレーンは直情型なので複雑なものは苦手)、「4.0」ではサイバー犯罪といったぐあいに、勝手の違う世界に放りこまれながらも、必死かつ真摯(しんし)に(ギャグやボヤキも入れますが)、事件に立ち向かっていくマクレーンには、反目していた人物をいつのまにか味方につけてしまうという特技もあり、3、4作目では即席の相棒に助けられて事件を解決に導いています。
こうした魅力もありますが、個人的に「ダイ・ハード」シリーズがこれまでのアクション映画を根本から変えてしまった最大のポイントは、「主人公が傷だらけになりながら戦う」というシチュエーションを確立したことにあるのでは、と考えています。
やはり人気刑事アクションで、こちらも5本が制作された「ダーティ・ハリー」(Dirty Harry 、1971年から1988年)のハリー刑事は、散弾銃のタマがかすったり、暴漢に襲われて気絶させられたくらいで済んでいましたし、このぐらいでなければ犯人を追うことなどできないはずです。
シリーズを通じてマクレーンは銃で撃たれ、ナイフで襲われ、爆弾で吹き飛ばされ、高層ビルから飛び下り、4作目では自分のカラダに自分で銃を撃ちこみ、貫通させたタマで相手を倒すといった荒技まで披露しています。
冷静に考えてみれば、「間違いなく死んでいる」はずなのですが、「ダイ・ハード」という「しぶとい」や「簡単にはあきらめない」といったタイトルどおりのキャラクターなので、どこか観客も納得してしまうのでしょう。
本作はシリーズ初の海外遠征ということになっています。疎遠になっていた息子ジャック(演じるのはジェイ・コートニー=Jai Courtney)が、ロシアで事件を起こしたことで、父親であるジョンが身元引受のため、現地に飛んだところで事件に巻き込まれてしまうのです。
ジャックはCIA(アメリカ中央情報局)の人間で、ロシアで核兵器にかかわった陰謀を阻止するために活動していたのです。こうして、マクレーン父子は反目しながらも共同で巨大な敵と戦うことになるのですが、保護対象であるロシアの要人ユーリ(演じるのはゼバスティアン・コッホ=Sebastian Koch)には大きな秘密が隠されているのでした。
4作目で娘と、本作で息子と深く関わったジョン・マクレーンの次回作はあるのでしょうか。ウィリス本人も「(第6作については)イエス」と答えていますし、本作でマクレーンが子どもたちと一緒になるシーンを見ると、可能性は高いでしょ う。
マクレーンの家族が揃ったシーンは、第1作の劇中に写る家族写真のみなので、第6作で家族の肖像が完結するのでは?と鑑賞後、勝手に創作してしまいました。次回は先日の第85回アカデミー賞で作品賞を獲得した「アルゴ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します)。