インド、感染者が増える西部、少ない東部、14歳の予言当たるか(17)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年6月1日】インドの感染拡大はとどまることを知らず、5月23日で12万5000人(回復者5万1784人、死者3720人)と、1日で6198人とさらに記録を更新、最悪のマハラシュトラ州(Maharashtra)は3分の1を占める4万1642人(死者1454人)、2位のタミルナドゥ州(Tamil Nadu、1万3967人)の3倍以上、かく言う当オディシャ州(Odisha)も1103人とついに1000人を突破した。

樹氷を思わせるシルバーライトが並木を彩り、ムード満点の石川・金沢市の繁華街・香林坊(2019年11月に撮影)。

しかし、インドは広大な亜大陸、数字だけ見れば、全土真っ赤っ赤と誤解されそうだが、西インドに集中、南では、タミルナドゥ州が最悪である。 マハラシュトラ、タミルナドゥ、グジャラート(Gujarat)、デリー(Delhi)だけで、感染者数の8割を占めるのだ。

その他の州は、当オディシャを含め少ない方で、東インドの住民としては、一緒くたに見られることに抵抗がある。

いずれにしろ、日本の10倍以上の人口なので、15万人までは許容範囲だが、この分でいくと、軽く20万人を超えてしまいそうである。

外務省の渡航勧告も、渡航禁止のレベル3に引き上げられたし、このまま感染拡大が止まらなければ、成田での検疫強化必至、強制隔離を済ませて帰郷しても、インド帰りというだけで親族、友人からですら敬遠されそうだ。

日本の金沢にベースを持つ私は、事務的な所用が積み重なっているせいで、遅くとも8月初旬には、帰国の腹積もりでいるが、それも状況が許せばということで、現時点では、推量不可である。

昨秋、そぞろ歩きを楽しんだ犀川緑地公園(石川県金沢市)。川のそばに開ける紅葉した桜並木が美しい。

そんな中、中央政府は25日からの国内便再開を決定、感染最悪州のマハラシュトラや、南で最悪のタミルナドゥ州、サイクロンで空港が浸水した西ベンガル州(West Bengal)から反発を買っている。

領事館からのメールで、インド航空が27日、ムンバイ発成田の臨時便を運航する情報も届いた。これは、在日インド人の帰国のために臨時運航されるもので、ムンバイ(Mumbai)にいる日本人も利用可というもの。政府お抱えの赤字のエア・インディア、ちゃっかりしてるというか、自国人を運ぶついでに、在インドの日本人も運んで、復路の分も稼ごうという胸算用である。

それにしても、収束に向かいつつある日本にとどまれば、感染拡大が止まらないインドよりずっと安全なはずなのに、帰りたがるインド人がやはりいるんだなあ。その気持ちわからないでもないが。家族のことも心配だろうし、どんな状態であろうとも、自国に勝る安全地帯はない。

非常事態下に他国にいるのは不安だし、やはり自分が生まれ慣れ親しんだ環境のもとで家族と共に難を分かち合いたいと思うのが心情ではなかろうか。

一方、現地メディアは、いたずらにパニックを煽るようなことはせず、たとえば、アメリカ・ニューヨーク州(State of New York)が3日で10万人台に達したのに比べると、インドは13日かかっていること、また欧米各国に比べ、致死率が低いことなどを挙げ、冷静な分析を試みているが、ムンバイとニューヨークの比較論はお気に入りのテーマのようだ。

さて、15回目のコロナ余話でも触れたように、14歳の神童占星術師が予言したごとく、29日に歯止めがかかるか、あと6日推移に注目したい。

●身辺こぼれ話
合間を縫って、本年1月30日に死去した藤田宜永(ふじた・よしなが、1950-2020)氏の「邪恋」を、故人を偲びながら読み返している。直木賞作家の氏とは、同郷(福井)の遠縁にあたり、個人的に面談したこともあって、頻繁ではないが、メールやたまに手紙を交わす間柄だった。

宜永先生と呼んで慕っていた憧れの作家の第一印象は、ブルーのジャケットに黒い石のペンダント、サングラスが粋なダンディぶり、美声に惚れ惚れさせられたものだった。拙著「車の荒木鬼」の帯の推薦文を書いて頂いたこともあって、密かに私淑していただけに、突然の逝去にはショックを受けた。

昨年12月に、石川最大の地元紙・北国新聞社が刊行する季刊文芸誌「北国文華」に掲載されたわが短編小説「虹の女(ひと)」の好意的な感想をメールで頂いていたのだが、ちょうど夫を亡くしてまもなかった私は返事をする気になれず、やっと気を取り直して返信したのが、既に他界された翌日、後で知ってどんなにか悔やんだことか。

「邪恋」の男性主人公の職業は義肢装具士、事故で膝下切断の女性との情事は、倒錯的な匂いも。女性経験豊富な氏だけに、性描写は巧み。「邪恋」は実母に愛されなかった傷を持つ、女性に不信感を抱きながらも、その反動で狂おしく女を求めずにはいられない屈折した中年男、それは氏そのものの生い立ちを映し出したのものでもあったろう。ついに手にしえなかった母親の愛情の代償に女性遍歴を重ね、埋め合わせようとするが、空虚感は満たされようもなく…、そんな孤独な作家自身の姿が見える。非の打ち所のないうまさ、もっともっと評価されて然るべき、それに値する作家だった。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日までに延長することを決めました。これにより延べ67日間となります。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

5月31日現在、インドの感染者数は18万1827人、死亡者数が5185人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン」と総称しています)

注:「北国新聞社」と「北国文華」の「国」はいずれも正しくは旧漢字です。名詞については、原則として常用漢字を使用しています。