TPP参加が未来を拓く道、早期に参加決定しても交渉入りは9月か(3)

【銀座新聞ニュース=2013年2月15日】環太平洋経済連携協定(TPP)への参加をめぐって自民党内で次第に賛成論が強まっている。衆議院議員の小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)さんは国会で首相の安倍晋三(あべ・しんぞう)さんに参加を決めるよう強く求めた。

これに対して、安倍さんは近くアメリカで行われる日米首脳会談で大統領のオバマ(Barack H.Obama)さんが「聖域なき関税撤廃」について、例外品目を容認する発言をすれば参加を表明する意向を示した。

13日には自民党外交・経済連携調査会がTPP参加に反対する方針をまとめたが、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り反対」という従来からの安倍政権の方針と変わりなく、参加への判断を安倍さんに委ねた。

しかし、TPPは2012年11月から参加したカナダ、メキシコを入れて11カ国による交渉なので、アメリカが例外を容認したとしても、「例外なき関税撤廃」を強く主張するニュージーランドを説得するのは容易ではないし、11カ国の交渉で決まる国際協定なので、アメリカの大統領が、参加について国論が二分されている日本の首相に「聖域 」を容認する発言をするとはとても思えない。

TPPは昨年12月のニュージーランド会合で初めて本格的に鉱工業製品の関税撤廃を交渉テーブルに乗せたものの、まったく進まなかった。そのため、関係者の間では、2カ国間による水面下の交渉に入っているとみられている。そのため、おそらく各国とも3月のシンガポール会合までは、水面下で進められている交渉については関係国の間で憶測が飛び交っているはずで、事実をつかむことも難しい状況にある。

そうした背景を考えると、アメリカの大統領としていえることは、日本が早期に参加を決意して、自ら交渉のテーブルについて、参加各国に例外を求めるよう努力するべきだということではないだろうか。

TPPを推進するニュージーランドの貿易相、グローサー(Tim Groser)さんがWTO次期事務局長に立候補した際の会見で、「WTO(世界貿易機関)は今、世界経済との関連性を維持できるかどうかの瀬戸際にある。WTO交渉が機能不全のままでいけば、貿易問題に対応できる他の機関か別の枠組みがWTOに取って代わるだろう」と発言、現状のWTOに危機感を示したとすれば、将来TPPのような地域貿易協定(RTA)の貿易自由化ルールが、機能不全のWTOよりも上位にランクされる可能性が出ている。

また、13日にはアメリカとヨーロッパ連合(EU)の間で自由貿易協定(FTA)交渉に入ることで合意した。6月末から交渉をはじめ、およそ2年間で合意する算段だが、実は6日にアメリカ・ワシントンでEU通商担当委員のカレル・ドゥ・グヒュト(Karel De Gucht)さんとアメリカ大統領副補佐官(国際経済担当)のマイケル・フローマン(Michael Froman)さん、アメリカ通商代表部(USTR)代表のロン・カーク(Ron Kirk)さんとの会談が行われた。

終了後に当初、アメリカEU合同ハイレベル・ワーキング・グループ(HLWG:High‐Level Working Group)がまとめた両者の通商関係強化による経済や主要産業分野への影響に関する報告書が公表される予定だったのが、取り止めとなるハプニングがあり、その後、公表された。

アメリカ通商専門紙インサイド・US・トレードは、公表延期の理由は明らかでないとしつつも、予備交渉の段階で農業分野の非関税障壁の撤廃に対して、EUがどれだけ本気で取り組むのかアメリカ側が懐疑的な見方をしていると報じている。

また、仮に合意に達しても、アメリカは議会の承認が欠かせず、EUも加盟27カ国の承認が必要となる。それでも、こうしたハードルを乗り越えて実現すれば、大西洋は事実上、アメリカとEUのFTAが貿易のルールになる可能性をもっている。

それに対して、ニュージーランドやアメリカが意図しているのはTPPを「アメリカEU・FTA」の太平洋版とし、将来的にはWTO体制にとって代わる「貿易自由化ルール」の枠組み作りが最大の狙いともいえる。

日本におけるTPP反対派の指摘のひとつに世界最大の人口をもつ中国とインドがTPPに参加を表明していない点を挙げる人がいる。10億人を超えるこの2つの大国の入らない貿易の自由化が現実のものといえるかどうか、確かに疑問が出るところだろう。

しかし、この人たちは2008年7月にWTOのドーハ・ラウンドがどうして決裂したのかを忘れたのだろうか。

ドーハ・ラウンドは当初、農業分野で市場開放を主張するアメリカやオーストラリア、ブラジルなどの輸出国と、例外品目の容認を求めるEUや日本などの先進輸入国が対立構図にあったが、ドーハ・ラウンドが決裂する直前の2008年夏の段階では日本とオーストラリアはカヤの外に置かれ、農業市場開放に反対する新興輸入国の中国とインドがアメリカと激しくぶつかりあう局面に変わっていた。

つまり、中国、インドがTPPに参加すれば、ドーハ・ラウンドの農業交渉の繰り返しになり、TPPが農業分野なき自由化交渉という様相を呈するか、再び農業で対立し、TPP交渉が中断するかのいずれしかなくなる。それではTPPは当初の4カ国の条約にとどまり、拡大合意はありえない話になってしまう。

ドーハ・ラウンドの悪夢を知る農業輸出国のアメリカやオーストラリア、ニュージーランドが中国、インドに参加を呼びかけないのは当然だし、TPPの拡大合意を現実のものにするには、農業分野の包括合意が欠かせない点でも現在の参加国の間では一致している。

ただ、アメリカやチリなど、日本と同様に農産物の例外品目を主張する国もあれば、農業、鉱工業品の例外なき関税撤廃を主張しながらも、アメリカが要求する知的財産権の保護強化の影響で、結果的にジェネリック医薬品の使用制限につながれば国民の医療負担が増す懸念があるとして苦悩するニュージーランドは当然、アメリカにジェネリック医薬品問題で柔軟な対応を求めるだろう。マレーシアもニュージーランドと同じく、ジェネリック医薬品については制限を認めることには強く反対している。

また、投資家対国家の紛争解決(ISD条項)ではオーストラリアは議会で導入反対を決議しており、いかなる貿易交渉でもこの条項を認めない強い姿勢を打ち出している。アメリカとのFTAではISD条項を入れない代わりに、アメリカに対して砂糖などの除外品目を容認している。

アメリカは乳製品、砂糖、たばこなどがいわゆるセンシティブ品目とされ、途上国からの輸入については低率関税による輸入量を割り当てていることもあり、TPPでの関税撤廃には国内でも反対が根強い。

つまり、それぞれの国が強みと弱みをもっており、昨年12月以降、鉱工業品目の関税撤廃をはじめ、農業分野も含めて2カ国間交渉が水面下で行われているとすれば、それを3月のシンガポール会合で持ち寄り、各国による中間報告で進捗状況が明らかになる。その際に、おそよ20にわたる分野でどこまで包括的な合意が得られたかが参加国にわかるはずだ。

日本はアメリカとの事前交渉が大幅に遅れており、日米首脳会談でオバマさんが日本に有利な発言をするという前提で、安倍政権が3月から4月に参加を表明しても(有利な発言がなければ、参加決定はもっと遅れる可能性も)、実際に参加するのはアメリカ議会の90日承認ルールからすると、早くても7月以降になる。

つまり、7月の参議院選の時期では、参加を決めただけで、TPPの交渉のテーブルについていない公算が高いので、事実上何ら進展がなく、有権者に参加の是非が厳しく問われることにはならないだろう。

シンガポールの次の会合が5月にペルーで開かれる見通しで、今年は10月に予定されているインドネシア・バリ島のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合までに3回の交渉官レベルの会合が予定されている。そうなると、5月の次は9月になると見られ、参加国の間でオブザーバー参加を認めないことで一致しているため、日本が交渉のテーブルにつけるのは9月の会合になる公算が高い。

この段階で11カ国によってどこまで交渉が進展しているか見通せないが、少なくとも太平洋の貿易の自由化は、日本が率先して取り組むべき最大の課題のひとつといえるし、日本がその恩恵を受けられるように貿易のインフラを整備することが不可欠だ(銀座新聞ニュースではTPPなど貿易の自由化に対する取り組みを中心に随時掲載します。基本的にはリードと本文の一部を公開し、全文は会員のみ有料でお届けします。詳細はお知らせをご覧ください)。