インド、2割の地域で新規ゼロに、ワクチン外交で印中が拮抗(58)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年2月9日】インド政府は1月28日、新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがかかった旨を、公式発表、抑制宣言の裏には、全土の約2割の地域で1週間連続で新規感染者が報告されなかった事実による(調査によると、地域によっては、集団免疫を獲得している可能性もあるとか)。

冬季のベンガル海(Bengal)は波が穏やかなため、素朴な手漕ぎ舟が内海で漁に繰り出すことも可能になる。

ィンドの累計感染者数は28日現在、1070万人と1000万を突破してアメリカに次ぐワースト2位だが、既にお伝えしたように9月末をピークに鈍化、今現在、新規数は1万人台と、10万人近くまで上り詰めた4カ月前に比べると、大幅に減少している。回復率が高いせいで、実質30万人、13億人余という膨大な人口の割に死者数も15万人台にとどまっている。

バルダン(Harsh Vardhan)保健相は、過去24時間の新規感染者数が1万2000人を下回ったことから、「インドは、封じ込めに成功した」と発表、全土718地域のうち146地域で1週間新規数がゼロ、うち18地域では2週間皆無となった。

これを受けて、中央政府は、2月1日からプールの利用制限を解除、映画館や劇場も定員50%以上の収容を許可するに至った。

さる16日に、モディ(Modi)首相の旗振りで始まったワクチン接種計画も、今現在200万回に達した。感染爆発に歯止めがかかったことと、ワクチン開始で、2021年のィンドの経済成長率は、11.5%と、昨年のマイナス8%成長を補って余りある目を剥く高い数字が予想され、ムンバイ(Munbai)株式市場は、5万ポイントに迫る勢いで、コロナバブルに沸いている。

国内ワースト5州のうち、1位の西部マハラシュトラ(Maharashtra)は、累計感染者数が200万人を突破しながらも(202万人)、新規は2889人、2位のカルナータカ(Karnataka)、4位のアンドラプラデシュ(Andhra Pradesh)、5位のタミルナドゥ((Tamil Nadu、いずれも南部)と鈍化維持、ただし3位の南部ケララ州((Kerala)のみ依然第3波が猛威を振るい(累計数91万1000人)、新規数は、マハラシュトラの約2倍で5771人、この分でいくと、カルナータカ(累計数93万8000人)を抜いてワースト2位に踊り出そうだ。

退潮で汀が広範囲に現れたプリーのベンガル海。鏡面のような波打ち際を、ひたひたの潮に素足を浸して歩くのは楽しい。

当オディシャ州(Odisha)は依然収束ムード、累計感染者数が34万人を突破しながらも、実質数は2000人台と、ほとんどが回復している。人口4600万人で死者数も1900人超と低率にとどまっている。

わが居住当地プリー(Puri)は収束により、車の往来が急増、大気汚染と騒音がぶり返し、コロナ下の静けさとは打って変わって、またしてもロストパラダイスの兆しが見え始めている。喜ぶべきなのだろうが、環境破壊の側面から見ると、複雑な心境である。

もちろん、在留邦人の私がほっとしていることはいうまでもないが、コロナ禍を契機に、住民も旅行者も、自然環境保護にもう少し留意してもらえたらと、しみじみ思う。我が身をも戒めて、海辺のこぢんまりとした美しい聖地が、これ以上穢されることのないように、一人一人の意識変革を願う。

〇コロナ余話/周辺国へのワクチン無償供与で、印中拮抗

1月27日からミャンマー(Myanmar)で始まったワクチン接種計画で使われたのは、英製薬大手アストラゼネカ(AstraZeneca)がオックスフォード(Oxford)大学と共同で開発し、インド国内で製造されたコビシールド(Covishield)だ。

さる22日、インドが150万回分のワクチンを無償供与したものだが、既に11日に中国も30万回分のワクチンを提供しており、両大国と国境を接するミャンマーを始めとする周辺国へのワクチン供与を巡って、印中両大国が拮抗する形になっている。

昨年5月から印中間では、国境付近で小競り合いが長引いており、いわば、ワクチン外交においても、ぶつかり合う形となった。

インドは、20日に南アジアやインド洋諸国7カ国にワクチンの無償供与を開始しており、代表的なところでは、バングラデシュ(Bangladesh)に200万回分、ネパール(Nepal)に100万回分、今後、スリランカ(Sri Lanka)やアフガニスタン(Afghanistan)にも供与、計490万回分である。

インドは、世界有数のワクチン製造能力を誇る大国であり、中国より、優位に立てるとの見方も。南アジアやインド洋で巨大経済圏構想「一帯一路」による鉄道・港湾などのインフラ整備で勢力拡大を狙う中国を牽制する意図もあるようだ。

モディ首相は、「インドは世界の薬局」として、助けを求める諸外国には、いつでも無償供与する用意があると、寛大なところを示した。

〇国内ニュース/コロナ下の独立記念日

さる1月26日は、共和制に移行したことを祝う記念日「リパブリック・デー」だった。毎年大々的なパレードが催され、戦車やミサイルなど、行進で戦力が誇示されるが、コロナ下の今年は参加人数もが制限され、厳重な警備のもと行われた。

途中、農業新法に抗議する農家のデモ隊が治安当局と衝突するひと幕もあったが、大過なく式を終えた。

なお、主賓として列席予定だった英ジョンソン(Alexander Boris de Pfeffel Johnson)首相は、変異種で逼迫する国内事情から訪印を取り止めた。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年2月1日現在、世界の感染者数は1億0296万4706人、死亡者数が222万7923人、回復者が5704万9284人です。インドは感染者数が1075万7610人、死亡者数が15万4392人、回復者が1043万4983人、アメリカに次いで2位になっています。ちなみにアメリカの感染者数は2618万5476人、死亡者数が44万1319人(回復者は未公表)です。日本は感染者数が39万0687人、死亡者数が5766人、回復者が33万1124人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)。