困難を乗り越え、記念碑的大作の前日譚を描いた「ホビット」(99)

【ケイシーの映画冗報=2013年1月3日】新年明けましておめでとうございます。本年も映画冗報にお付き合いください。

現在、一般公開中の「ホビット 思いがけない冒険」(C)2012WarnerBros.Ent.TMSaulZaentzCo.)。J・R・R・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien、1892-1973)が1937年に発表した小説「ホビットの冒険」を原作とした「ホビット」3部作の1作目だ。すでに、3部作とも撮影を終えている。

新年第1回目は「ホビット 思いがけない冒険」で、総制作費が2億8500万ドル(約285億円)という超大作「ロード・オブ・ザ・リング(以下LOTR)」3部作(The Lord of the Rings、2001年から2003年)の前日譚(プリクエル)で、こちらも2014年まで続く3部作となっています。

両作品とも原作は、言語学者にして、神話・伝承の大家でもあったJ・R・R・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien、1892-1973年)によるもので、「LOTR」の原作小説「指輪物語」は、「ファンタジー小説」の開祖にして決定版とされ、現在でも多くの読者を楽しませています。

高い評価は映画の「LOTR」も同様で、3作でアカデミー賞に合計30本ノミネート、そのうち17本で受賞という記録を打ち出し、最終作の「王の帰還」(The Return of the King、2003年)では、ノミネート11部門のすべてで受賞するという快挙をなし遂げています。

当然のことですが、評価の確立した小説を映像化、それもおよそ300億円という予算で作るとなると、制作陣の苦労は、並大抵のことではなかったはずです。くわえて、この「LOTR」が成功するまで、「著名なSF・ファンタジー原作を超大作として映画化する」ことは映画界全体で鬼門とされていたのです。

1977年、まだ劇場用作品を1本しか撮っていなかったジョージ・ルーカス(George Lucas)が生み出した映画「スター・ウォーズ」(Star Wars)が記録的大ヒットとなったことで、こうしたジャンルの映画企画が動き出し、制作資金が投入されるようになりました。

1980年に制作費4000万ドル(当時の価値で80億円)で完成した「フラッシュ・ゴードン」(Flash Gordon) は、原作が有名な新聞連載マンガという著名なキャラクターでありながら、当時の特撮技術と作品の内容がマッチングせず、完成度、興行成績ともに芳しくない結果となってしまいました。

1984年には「デューン/砂の惑星」(Dune)が制作費5000万ドル(当時の価値で100億円)で映画化されます。フランク・ハーバート(Frank Herbert、1920-1986)による大河ロマンSF小説が原作でしたが、完成までに10年以上と時間がかかったこと、全6作の長編小説を2時間20分の枠におさめようとしたことなどの無理がたたり、「エレファント・マン」(The Elephant Man、1980年)でアカデミー賞8部門ノミネートという才人デヴィッド・リンチ(David Lynch)の監督作でありながら、興行は失敗、制作費の半分も回収できませんでした。

こうした状況を打破することに成功した「LOTR」3部作と、あらたに動き始めた「ホビット」シリーズを監督するピーター・ジャクソン (Peter Jackson)は、ニュージーランド出身。故国での監督デビュー作「バッド・テイスト」(Bad Taste 1987年)は、全編がギャグと血のりにつつまれたSFホラー作品でした。

デビューから一貫してSF色、ホラー色の濃い作品を作り続けていたジャクソン監督がいきなり、世界的に有名な名作ファンタジー小説を映画化するということに、企画がおおやけになったころ、「冒険」よりは「無謀」という評価も多かったと記憶しています。

「あれほどのスケールの大きな作品に取り組んだことがなかったので、毎日がサバイバルのよう。ものすごいプレッシャーだった」(読売新聞2012年12月21日付)とジャクソン監督本人が語っていますが、結果的に「LOTR」は大成功となり、長年あたためていた1933年の特撮映画「キングコング」(King Kong )のリメイクである「キング・コング」(2005年)に取りかかることができたのです。

今回の「ホビット」3部作では、制作スタジオの経営危機や、原作サイドとのトラブルといった紆余曲折、スケジュールの遅れによる予定された監督の降板など、制作する前から「思いがけない冒険」にさらされています。

「僕は僕のやり方を通した。10年前のあのときに戻って、新しい物語を伝えるんだ」(「TVブロス」2012年28号)。「自分の作りたいものを作る」その一方で、「トールキンが残したあらゆる文献に目を通し、あらゆる角度からキャラクターに厚みを持たせていった」(同)というジャクソン監督。

情熱を保ちつつ、一方では冷静に作品の構想を練る。大作を次々と成功させてきた秘訣は、このように単純なことなのかもしれませんが、「言うは易く 行うは難し」なのもまた事実でしょう。

「LOTR」以降も、大作ファンタジー映画には評価の低い作品も生まれているので。次回は「96時間 リベンジ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します)。