【銀座新聞ニュース=2013年1月18日】アメリカのシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics=PIIE)は2012年12月下旬に、環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement=TPP)の経済効果が東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership=RCEP、アールセップ)よりも9分の1ほど低いとした試算結果を公表した。米通商専門紙インサイド・US・トレードが1月10日に報じた。
PIIEは、現在TPPで交渉中の11カ国間で2025年までに全品目の96パーセントについて関税を撤廃すれば、国内総生産(GDP)が740億ドル(1ドル=90円で、約6兆6600億円)増える経済効果があるとし、このうちアメリカだけで240億ドル(約2兆1600億円)押し上げると予想している。
また、TPPに参加していない中国は210億ドル(1兆8900億円)の損失が生じるとの推計値も示した。TPP参加国のベトナムやマレーシアに比べ、繊維・衣類、電気製品などの輸出でアメリカ市場への参入が不利になるのが理由としている。
一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に、日本、韓国、中国、オーストラリア、ニュージーランド、インドを加えた16カ国で交渉をはじめるRCEPの経済効果については、2025年までに参加国全体でGDPが6440億ドル(約57兆9600億円)増えるとし、このうち中国だけで2970億ドル(約26兆7300億円)増えると予測し、RCEPに参加していないアメリカへの影響については、ほとんどないと分析している。
PIIEの客員研究員のピーター・ペトリ(Peter Petri)さんは、「アメリカはRCEP地域市場で締結国と競合する輸出品目がほとんどなく、輸出にほとんど影響は出ない。むしろ域内の生産性が伸びることで、アメリカは間接的に利益を受けることが期待できる」と述べている。アメリカの輸出には医薬品や医療機器、航空機器・部品などが含まれる。
TPPなどアメリカが主導する自由貿易協定(FTA)は、世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が途上国の反対で交渉の立ち上げを断念した競争や投資など多岐にわたる新分野を盛り込んでいることから、「WTO+(プラス)」と呼ばれている。だが、アメリカが参加しないRCEPの自由化の度合いは緩いものと予想されているにもかかわらず、その経済効果の規模はTPPよりも大きい点が注目される。
その理由として、1)TPP参加国はすでに関税率の引き下げや撤廃などを進めているため、貿易の障害となる施策が少ない一方、RCEP参加国ではさまざまな分野で貿易制限措置が講じられており、わずかな撤廃でも絶大な効果が期待できる、2)RCEPには日本、中国、インドといった経済大国が参加している、との2点を挙げている。
仮にTPP交渉を行っている11カ国に、日本、韓国、インドネシア、タイ、フィリピンを加えた計16カ国(TPP16)に拡大すれば、RCEPと同等の経済効果が見込まれるとも予想している。この中で、日本は1290億ドル(約11兆6100億円)、アメリカは1080億ドル(約9兆7200億円)の経済効果があるとし、参加しない中国は840億ドル(約7兆5600億円)の損失が出ると試算している。
こうした結果を踏まえ、PIIEはTPPとRCEPの参加国は、2つの自由貿易協定(FTA)を組み合わせて、アジア太平洋地域の広域経済圏をめざす「アジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of the Asia-Pacific=FTAAP、エフタープ)」の実現に取り組むべきだと強調している。
こうした大きな枠組みになると、アメリカには2670億ドル(約24兆300億円)、中国には6780億ドル(61兆200億円)の経済効果があると予想している(銀座新聞ニュースではこれからTPPなど貿易の自由化に対するアジア太平洋の取り組みを中心に随時掲載します。基本的にはリードのみ公開し、全文は会員のみ有料でお届けします。詳細はお知らせをご覧ください)。
注:ピーターソン国際経済研究所は国際経済問題について分析・政策提言を行うアメリカのシンクタンク(ワシントンDC)で、共和党のリチャード・ニクソン(Richard M.Nixon、1913-1994)政権で商務長官(1972年2月から1973年2月まで)を務め、リーマンブラザース会長兼CEO(1973年から1984年まで)、ニューヨーク連邦準備銀行会長(2000年から2004年まで)などを歴任したピーター・G・ピーターソン(Peter G.Peterson)さんが1981年に「国際経済研究所」(2006年に現名称に変更)として設立した。
無党派の非営利団体で、活動資金は団体、企業、個人からの寄付や出版事業、基金の運用益などで調達している。民主党ビル・クリントン(William J.”Bill” Clinton)政権で財務次官補を務めたフレッド・バーグステン(Fred Bergsten)さんが所長を務めていたことでも知られ、小泉純一郎(こいずみ・じゅんいちろう)政権で経済財政政策担当大臣(2001年4月から2005年10月)、総務大臣(2005年10月から2006年9月)を務めた竹中平蔵(たけなか・へいぞう)さんが客員研究員を務めていたこともある。
注:環太平洋経済連携協定(TPP)は2005年6月3日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国間で締結され、2006年5月28日に発効した。2002年にメキシコのロス・カボスで開かれたAPEC首脳会議でチリ、シンガポール、ニュージーランドの3カ国間により交渉がはじまり、2005年4月の5回目の会合で、ブルネイが交渉に加わり、2005年6月3日に合意、締結した。
この原加盟国4カ国を「パシフィック-4 (P4)」と呼び、拡大交渉中のTPP協定と区別するために、原協定 (original agreement) は「P4協定 (P4 Agreement) 」と呼ばれている。
2006年1月1日に加盟国間のすべての関税の90パーセントを撤廃し、2015年までにすべての貿易の関税を削減し、ゼロにすることが約束されている。その内容は産品の貿易、原産地規則、貿易救済措置、衛生植物検疫措置、貿易の技術的障害、サービス貿易、知的財産、政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、競争政策を含む、自由貿易協定のすべての主要な項目をカバーする包括的な協定だ。
加盟国間で、域外に対する競争力を強化するために、自由競争の妨げとなる関税や非関税障壁を撤廃し、経済的な国境をなくすことを主とし、目的のひとつは「小国同士の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げること」としている。
2008年2月4日にアメリカが投資と金融に関する交渉に参加すると表明、リーマン・ショックから1週間後にあたる同年9月22日に原加盟国4カ国と交渉の立ち上げの声明を出し、アメリカは最初に追加された交渉国となった。9月23日にオーストラリアが参加の検討を発表、2010年3月14日にペルーが交渉参加を発表した。
2010年3月の第1回の拡大交渉会合からアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4カ国が拡大交渉会合に加わり、2010年10月の第3回からマレーシアが加わり、2011年11月12日にアメリカ・ホノルルのAPEC会合で、交渉が大枠合意したとされ、1年以内の最終妥結をめざすことを表明し、2012年11月12日の会合からカナダとメキシコが加わった。ただ、2012年末現在、交渉は最終妥結に達していない。
日本は2010年10月8日にTPP交渉への参加を検討すると公表、11月13日にAPECで交渉参加に向けて関係国との協議に着手すると表明、2011年11月12日にホノルルAPEC首脳会合でTPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることを表明した。2012年1月26日までにベトナム、ブルネイ、ペルー、チリと事前協議を行い、日本の交渉参加に歓迎する意向を得たと公表した。現在、アメリカと事前協議しているものの、ほとんど進んでいない。
また、韓国は2011年11月16日に不参加を公表、中国は参加しないことを表明している。
注:農林水産省は「競合する国産品は、輸入品に置き換わる」、「競合しない国産品は安価な輸入品の流通に伴って価格が低下する」などを前提とし、全世界を対象に直ちに関税を撤廃し、何らの追加対策も講じない場合、日本の農業及び関連産業の国内総生産 (GDP) が7兆9000億円程度減少し、 就業機会が340万人程度減少すると試算している。
経産省は日本がTPPに不参加のままで、EU、中国とのそれぞれのFTAも遅延するとの仮定の下、日本がTPP、EUと中国のFTAいずれも締結せず、韓国がアメリカ(2012年3月15日発効)、EU(2011年7月発効)、中国とFTAを締結した場合、日本の自動車、電気電子、機械産業の3業種について、2020年に日本製品がアメリカ、EU、中国で市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響について、実質GDP1.53パーセント(10.5兆円)減少、雇用81.2万人減少と試算した。
注:東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の間の5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想で、2011年11月にASEANが提唱し、2012年11月20日にカンボジアのプノンペンにおいて、ASEAN関連首脳会議で交渉立上げ式が開かれ、交渉開始が宣言された。
RCEPが実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(約1800兆円、世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(約900兆円、世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現するとしている。
16カ国は物品貿易、サービス貿易、投資の自由化に関して、2013年早期に交渉をはじめ、2015年末までに交渉完了をめざす。