コメディに、シリアスがブレンドされた「ナイスガイズ」(207)

【ケイシーの映画冗報=2017年2月23日】1977年のアメリカ、ロサンゼルス。腕力で物事を解決する示談屋、ジャクソン(演じるのはラッセル・クロウ=Russell Crowe)は、謎の死を遂げた女優の行方を調べているうちに、探偵業のホランド(演じるのはライアン・ゴズリング=Ryan Gosling)と揉めてしまいます。

現在、一般公開中の「ナイスガイズ」((C)2016 NICE GUYS, LLC)。制作費が5000万ドル(50億円)、興行収入が5730万ドル(57億3000万円)で、一般に映画では制作費の3倍が採算ラインといわれているだけに、現状では厳しい状況だ。

このホランド、妻を亡くしたことからアルコールが手放せない、ズンだれた探偵でしたが、ジャクソンにないものを持っていました。探偵の許可証という、人探しには欠かせないものです。

ジャクソンはホランドを雇い、女優の死に関係しているらしい女性アメリア(演じるのはマーガレット・クアリー=Margaret Qualley)を共同で探すことにします。だらしない父ホランドを見かねた13歳の娘ホリー(演じるのはアンガーリー・ライス=Angourie Rice)も加わっての人探しでした。

しかし、彼ら3人の行くところ、なぜか死体と乱闘騒ぎという巡り合わせとなります。やがてこの訊ね人、アメリアの存在が、アメリカ司法省までからんだ巨悪へと繋がっていくのです。腕自慢の示談屋と酔どれ探偵、そしてその娘の3人はの運命は・・・。

本作「ナイスガイズ」の監督・脚本(共同)のシェーン・ブラック(Shane Black)は脚本家として映画界のキャリアをスタートしています。最初に手がけた映画の脚本「リーサル・ウェポン」(Lethal Weapon、1987年) がシリーズ化されるヒットを飛ばし、一躍人気脚本家となりました。

1996年公開の「ロング・キス・グッドナイト」(The Long Kiss Goodnight)の脚本は買い取り価格が 400万ドル(約4億円)と当時のハリウッドで最高の評価を受けています。残念なことに、作品自体は脚本価格ほどセンセーションな評価を残すことができませんでしたが。

ブラックの脚本作品はその多くがバディ(相棒)モノとなっています。第1作の「リーサル・ウェポン」は若い過激な白人刑事と老練かつ温厚な黒人刑事が、麻薬密売組織を追い詰める作品でしたし、「ロング・キス・グッドナイト」も、圧倒的な戦闘力を持つ1児の母である白人女性が、うだつのあがらない黒人探偵とともに巨悪を追うというストーリーでした。

対照的なコンビを活かす、最大のポイントはこの両者による「掛け合いの妙」にあると個人的に考えています。映画や演劇だけでなく、小説やコミックスもふくめて「セリフまわし」は会話表現というだけでなく、作品全体に関わる要素ではないでしょうか。もちろん無声映画やパントマイム、舞踊や映像のみといった作品群もありますが、多数派ではありませんので、ここでは一旦、除外させてください。

本作でも、ジャクソンがホランドに会いに行くと、トイレの個室にこもるホランドがコミカルに応対するシーンや、ホランドの娘ホリーが、ダメな父親を言葉でやり込めるだけでなく、ジャクソンにまで説教するシーンといった、小気味よい会話が随所に観られます。
ジャクソン役のクロウは、アカデミー主演男優賞を2000年の「グラディエーター」(Gladiator)で受けており、古代ローマの将軍(「グラディエーター」)から実在の天才数学者(「ビューティフル・マインド=A Beautiful Mind、2001年)までを演じ分ける偉才です。

ホランド役のゴズリングも、年齢はかなり離れている(クロウが52歳、ゴズリングは36歳)とはいえ、子役から演じ続けていることもあって、ドジばかりで仕事を忘れて酒に走ってしまうが、どこか憎めない迷探偵(?)を魅力たっぷりに演じています。その実力は、本年のアメリカ・アカデミー賞で台風の目となっている「ラ・ラ・ランド」(La La Land、2016年)の主演で実証されていますが、娘のホリーを演じるアンガリー・ライスも、この両者に引けをとらない、チャーミングな演技を見せます。

父ホランドに代わって運転(!?)し、大人びたコメントでジャクソンやホランドをやり込めたかと思えば、危険を脱した直後、安堵から素直に父ホランドに飛びつくなど、大人と子どもに揺れ動くというティーン・エージャーというキャラクターをみごとに表現しています。

とはいえ、コミカルな作品といっても、随所にシリアスな部分もはめこまれています。銃撃戦では市井の人々が流れ弾を被っていますし、死者も少なくありません。この時代にアメリカの都市部で深刻だった自動車の排気ガスが悪事の根本となっていますが、根本的な解決は、ずっと後年のことですし、それまでアメリカ経済の牽引役だった自動車業界の衰亡にも触れています。

「コメディの皮をかぶった社会派作品」というのは大げさかもしれませんが、楽しいだけの作品ではなく、コミカルにシニカルが絶妙にブレンドされた逸品でしょう。次回は「ラ・ラ・ランド」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。