超党派議員が「尊厳死法案」提出へ、最終案を公表(2)

(文章を追加するとともに終わりに「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」の全文を載せています)
【銀座新聞ニュース=2016年2月26日】超党派の国会議員196人で構成されている「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」(「尊厳死法制化を考える議員連盟」を改称)は2月25日夕に今通常国会に提出予定の「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」の最終案を公表した。

終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟が2月25日夕に衆議院第一議員会館で開いたシンポジウムであいさつする会長の増子輝彦さん(左)。参議院議員で議員連盟顧問の山東昭子(さんとう・あきこ)さん、衆議院議員で議員連盟幹事長の山口俊一(やまぐち・しゅんいち)さん。

終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟が2月25日夕に衆議院第一議員会館で開いたシンポジウムであいさつする会長の増子輝彦さん(左)。参議院議員で議員連盟顧問の山東昭子(さんとう・あきこ)さん、衆議院議員で議員連盟幹事長の山口俊一(やまぐち・しゅんいち)さん。

終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟は25日夕に衆議院第一議員会館でシンポジウムを開き、その場で「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」(通称・尊厳死法案)の最終案を公表した。

尊厳死法案は趣旨、基本的理念、国及び地方公共団体の責務、医師及び歯科医師の責務、定義、終末期に係る判定、延命措置の中止等、延命措置の中止等を希望する旨の意思の表示の撤回、免責、生命保険契約等における延命措置の中止等に伴い死亡した者取扱い、終末期の医療に関する啓発等、厚生労働省令への委任、適用上の注意等の13条で構成されている。ほかに施行日などを定める附則がついている。

過去の案と比べると、最終案では第2条の「終末期の医療は延命措置を行うか否かに関する患者の意思を十分に尊重し、医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と患者及びその家族との信頼関係に基づいて行われなければならない」としていたのを、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師」と歯科医師を加えた。

これに伴い第4条でも「医師の責務」だったのが、「医師及び歯科医師の責務」となり、条文でも「医師は、延命措置の中止等をするに当たっては、診療上必要な注意を払うとともに、終末期にある患者又はその家族に対し、当該延命措置の中止等の方法、当該延命措置の中止等により生ずる事態等について必要な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならない」とあるところを、冒頭の「医師及び歯科医師は延命措置の中止等」と歯科医師を追加した。

第5条3項でも「この法律において『延命措置の中止等』とは、終末期にある患者に対し現に行われている延命措置を中止とすること又は終末期にある患者が現に行われている延命措置以外の新たな延命措置を要する状態にある場合において、当該患者の診療を担当する医師が、当該新たな延命措置を開始しないことをいう」としてあるのを、「当該患者の診療を担当する医師又は歯科医師が」と歯科医師を追加した。

第6条でも「前条第一項の判定(以下「終末期に係る判定」という。)は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う判断の一致によって、行われるものとする」という条文の一部を「二人以上の医師(終末期に係る傷病が口腔がんその他の厚生労働省令で定める傷病である場合にあっては、二人以上の医師又は一人以上の医師及び一人以上の歯科医師)の一般に認められている医学的知見(歯科医師にあっては、歯科医学的知見)に基づき」とした。

これに伴い、第7条も冒頭の「医師は、患者が」という条文を「医師(終末期に係る傷病が口腔がんその他の厚生労働省令で定める傷病である場合にあっては、医師又は歯科医師)は、患者が」に修正した。

障がい者団体などから批判されてきた第5条の終末期の定義について、「この法律において『終末期』とは、患者が、傷病について行い得る全ての適切な医療上の措置(栄養補給の処置その他の生命を維持するための措置を含む。以下同じ。)を受けた場合であっても、回復の可能性がなく、かつ、死期が間近であると判定された状態にある期間をいう」はそのままにしている。

「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」の会長の民主党参議院議員の増子輝彦(ましこ・てるひこ)さんは超党派議員連盟の名称を変更したとした上で「拙速をさけながらも、今国会になんとか法案として提出したい」と語った。

超党派議員連盟は2004年に「尊厳死法制化を考える議員連盟」として設立し(2005年に総会により正式発足)、議員立法として法案の策定、国会での成立をめざすことにし、2007年5月に「尊厳死に関する要綱骨子案」を策定、6月に「臨死状態における延命措置の中止等に関する法律要綱案」を策定した。

2011年12月に「終末期医療における患者の意思の尊重に関する法律案」の原案を策定し、2012年6月に「終末期医療における患者の意思に関する法律案」第1案、第2案を策定したものの、その後、超党派議員連盟内部で法案の修正を行ったが、国会への法案提出は実現してこなかった。

ウイキペディアによると、尊厳死(death with dignity)とは、人間が人間としての尊厳を保って死に臨むことで、苦痛から解放されるためにペインコントロール技術の積極的活用が挙げられる。延命行為の拒否については、実際に死を迎える段階では意識を失っている可能性が高いため、事前に延命行為の是非に関して宣言するリビング・ウィル(Living Will)が有効な手段とされている。

2014年10月6日に末期の脳腫瘍と診断されたアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコに住む1年前に結婚したばかりの29歳のブリッタニー・メイナード(Brittany Maynard)が動画投稿サイトで「11月1日に服薬で死ぬ」と予告し、尊厳死(自殺幇助)が合法化されているオレゴン州に移住し、医師が処方した致死量を超える鎮痛剤を服用し、11月1日に自宅寝室で家族らと最期を迎えた。

安楽死(euthanasia)とは、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じて、患者の自殺を故意にほう助して死に至らせる「積極的安楽死(自殺幇助=尊厳死)」と、患者本人の自発的意思に基づく要求に応じ、または、患者本人が意思表示不可能な場合は親・子・配偶者などの自発的意思に基づく要求に応じ、治療を開始しない、または、治療を終了することにより、結果として死に至らせる「消極的安楽死」がある。日本では「積極的安楽死」は法的に認められてなく、これを行った場合は刑法上殺人罪の対象となる。

終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(全文)

(趣旨)
第1条 この法律は、終末期に係る判定、患者の意思に基づく延命措置の中止等及びこれに係る免責等に関し必要な事項を定めるものとする。

(基本的理念)
第2条 終末期の医療は、延命措置を行うか否かに関する患者の意思を十分に尊重し、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と患者及びその家族との信頼関係に基づいて行われなければならない。

2 終末期の医療に関する患者の意思決定は、任意にされたものでなければならない。

3 終末期にある全ての患者は、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられなければならない。

(国及び地方公共団体の責務)
第3条 国及び地方公共団体は、終末期の医療について国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(医師及び歯科医師の責務)
第4条 医師及び歯科医師は、延命措置の中止等をするに当たっては、診療上必要な注意を払うとともに、終末期にある患者又はその家族に対し、当該延命措置の中止等の方法、当該延命措置の中止等により生ずる事態等について必要な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならない。

(定義)
第5条 この法律において「終末期」とは、患者が、傷病について行い得る全ての適切な医療上の措置(栄養補給の処置その他の生命を維持するための措置を含む。以下同じ。)を受けた場合であっても、回復の可能性がなく、かつ、死期が間近であると判定された状態にある期間をいう。

2 この法律において「延命措置」とは、終末期にある患者の傷病の治癒又は疼痛等の緩和ではなく、単に当該患者の生存期間の延長を目的とする医療上の措置をいう。

3 この法律において「延命措置の中止等」とは、終末期にある患者に対し現に行われている延命措置を中止すること又は終末期にある患者が現に行われている延命措置以外の新たな延命措置を要する状態にある場合において、当該患者の診療を担当する医師又は歯科医師が、当該新たな延命措置を開始しないことをいう。

(終末期に係る判定)
第6条 前条第一項の判定(以下「終末期に係る判定」という。)は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(終末期に係る傷病が口腔がんその他の厚生労働省令で定める傷病である場合にあっては、二人以上の医師又は一人以上の医師及び一人以上の歯科医師)の一般に認められている医学的知見(歯科医師にあっては、歯科医学的知見)に基づき行う判断の一致によって、行われるものとする。

(延命措置の中止等)
第7条 医師(終末期に係る傷病が口腔がんその他の厚生労働省令で定める傷病である場合にあっては、医師又は歯科医師)は、患者が延命措置の中止等を希望する旨の意思を書面その他の厚生労働省令で定める方法により表示している場合(当該表示が満十五歳に達した日後にされた場合に限る。)であり、かつ、当該患者が終末期に係る判定を受けた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、延命措置の中止等をすることができる。

(延命措置の中止等を希望する旨の意思の表示の撤回)
第8条 延命措置の中止等を希望する旨の意思の表示は、いつでも、撤回することができる。

(免責)
第9条 第7条の規定による延命措置の中止等については、民事上、刑事上及び行政上の責任(過料に係るものを含む。)を問われないものとする。

(生命保険契約等における延命措置の中止等に伴い死亡した者の取扱い)
第10条 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項に規定する生命保険会社又は同条第八項に規定する外国生命保険会社等を相手方とする生命保険の契約その他これに類するものとして政令で定める契約における第七条の規定による延命措置の中止等に伴い死亡した者の取扱いについては、その者を自殺者と解してはならない。ただし、当該者の傷病が自殺を図ったことによるものである場合には、この限りでない。

(終末期の医療に関する啓発等)
第11条 国及び地方公共団体は、国民があらゆる機会を通じて終末期の医療に対する理解を深めることができるよう、延命措置の中止等を希望する旨の意思の有無を運転免許証及び医療保険の被保険者証等に記載することができることとする等、終末期の医療に関する啓発及び知識の普及に必要な施策を講ずるものとする。

(厚生労働省令への委任)
第12条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

(適用上の注意等)
第13条 この法律の適用に当たっては、生命を維持するための措置を必要とする障害者等の尊厳を害することのないように留意しなければならない。

2 この法律の規定は、この法律の規定によらないで延命措置の中止等をすることを禁止するものではない。

附 則
1 この法律は、○○から施行する。
2 第6条、第7条、第9条及び第10条の規定は、この法律の施行後に終末期に係る判定が行われた場合について適用する。
3 終末期の医療における患者の意思を尊重するための制度の在り方については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況、終末期にある患者を取り巻く社会的環境の変化等を勘案して検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置講ぜられるべきものとする。