西部劇を感じさせるも、映画の終結が気になる「金カム」(386)

【ケイシーの映画冗報=2024年2月1日】日露戦争(1904年から1905年)の旅順攻防戦を生き残り、“不死身の杉元”と呼ばれた日本陸軍の兵士だった杉元佐一(さいち、演じるのは山﨑賢人)は、戦後は北海道で砂金を探していました。ある目的のために大金が必要だったのです。

1月19日から一般公開されている「ゴールデンカムイ」((C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会)。興行通信社によると、1月19日から21日の初週は観客動員数が35万6000人、興行収入が5億3385万円で1位、26日から28日の2週目が累計で79万人超、11億円超で2位にランキングされている。

そんな杉元は「アイヌ民族が隠匿した莫大な金塊」の存在を知ります。網走監獄から金塊のありかを入れ墨として刻んだ24人が姿を消し、そのすべてを組み合わせたとき、金塊の場所が明らかになるというものでした。

隠された金塊に惹かれた杉元は、金塊を強奪した犯人に父を殺されたという、アイヌ民族の少女アシリパ(演じるのは山田杏奈、役名の「リ」は小文字)と行動を共にすることになります。

金塊を追うのはこの2人だけではありません。日本陸軍の一員ながら、独自の行動をとる、戦場帰りの怪異な陸軍中尉の鶴見篤四郎(とうしろう、演じるのは玉木宏)。さらには、幕末の戦乱で死んだはずの新撰組の元副長だった土方歳三(演じるのは館=たち=ひろし)まで、金塊の争奪戦に加わってきます。

野田サトルの筆による原作コミックは全31巻で、累計発行部数が2700万部というヒット作の実写映画作品がこの本作「ゴールデンカムイ」です。これまで4シリーズがテレビアニメ作品として放送され、こちらも人気を集めており、まもなく最終の5シリーズ目もお披露目されるとのことです。

広大な北海道の自然のなか、さまざまな背景をもった魅力的なキャラクターが生き抜き、対決するという骨子だと、どこか陰惨なドロドロしたイメージが浮かぶと思われますが、リアルとコミカルを絶妙にブレンドした、野田サトルの画風により、渾然一体となった、完成度の高い作品となっています。

原作、アニメと評価が高いことから、実写映画としての仕上がりにはプレッシャーも相当にあったと想像しますが、監督の久保茂昭、脚本の黒岩勉、そしてキャスト、スタッフ陣は、みごとに上質な映像作品を披露してくれたのです。

冒頭の旅順要塞「203高地」での杉元の鬼神のような戦いっぷりから圧倒されます。日本対ロシアの陣地戦は、銃弾が飛び交い、砲弾が炸裂し、敵味方がバタバタと倒されていくなかで、日露両兵が、小銃や銃剣で戦います。“命のやりとり”が実感できるおそろしい情景のなか“不死身の杉元”の力量と凄味が存分に発揮されるのでした。

その凄惨な戦場から一転、冬の北海道の情景で戦われる金塊を巡っての争奪戦には、人間だけでなく、ヒグマやエゾオオカミといった猛獣までも加わってきます。危険なヒグマや絶滅したとされるエゾオオカミはCG画像での登場が中心ですが、そこに違和感はなく、野生の象徴としてあることで、作品の世界観に厚みを増すことに寄与しています。

戦場とは異なりますが、「生きていくには死がかかわる」のが大自然です。ここでの生存と自活の能力は、先住民であるアイヌの知恵の能力が欠かせないのです。たったひとりで厳しい自然に身を置いたアシリパは、毒矢で巨大なヒグマを倒し、食料となる生き物を狩ることで自活しており、生命感を身にまとったかのような力強さがあります。それは戦場を生き抜いた杉元や、重い戦傷を負った鶴見中尉とはまったくことなるキャラクターとして見せることで、コントラストが鮮明な存在となっています。

そこには単なるノスタルジーではなく、アイヌ文化への理解と共に、明治時代との融合を感じさせるストーリーの組み立てにも好感を持ちました。単なる古式文化への礼賛ではなく、「いかに近代文明とうまく付き合っていくか」という視点もあるのです。

本作を鑑賞中、直感的に連想したのが、ハリウッドの西部劇です。陽光のまぶしい砂漠や、緑ゆたかな森林地帯ではなく、粉雪が舞う白銀の世界ですが、騎馬を操る兵士たち、先住民も加わっての激しい戦い、さらには世界を変容させることも可能な金塊など、西部劇的“冒険譚”が、明治時代の北海道にマッチするとは、想像もしていませんでした。邦画ならではの、あらたな世界観となる可能性を感じます。

ひとつだけ、気になる部分があります。原作が全31巻という長編で、本作が3巻ほどの映像化ということです。この流れをたもち、しっかりと完成させてほしいのですが、クライマックスがいつになるか?ということがどうしても気になるのも事実です。良作なら待たせていただきますので、純粋に楽しみにしたいですね。

次回は「身代わり忠臣蔵」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。