能登地震の衝撃下、ケガを押して息子のライブツアー初同行(144-1)

(当分の間、インドに一時帰国した話を書きます。タイトルはそのままです)
【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2024年1月23日】新年早々、我が日本の居住地・石川県は大変なことになってしまった。帰印後、YouTubeで日本のニュースはフォローし続けていたので、元旦に能登地方を襲った大地震についてもすぐ情報キャッチ、金沢市在住の親族にも安否を問い合わせ、無事を確認してほっとしたものだ。

プリーのベンガル海の初日の出の時刻は6時30分頃、濃いもやに覆われてなかなか太陽が現れなかったが、7時近くになってようやく、薄オレンジの丸貌を覗かせた。

そもそも、石川県の北端に位置する能登半島は2020年12月以降群発地震が続いていた地域で、去年の5月にも珠洲市(すずし)を震度6強の地震が襲い(同市は2021年来の連震)、この4年間で震度1以上の揺れが675回と、予断を許さない状況だった。

それにしても、よりによって元旦を震度7という最大級の地震(石川県羽咋群志賀町=はくいぐんしかまち=でM7.6)が直撃しようとは、思ってもみなかった。

大歳は息子が州都で仕入れたオーストラリア産の白ワイン「Jacob’s Creek(ジャコブ・クリーク)」(日本円換算で約2500円と物価の安いインドでは高級酒)を堪能しつつお喋りを楽しみ、明けてからは2階のベランダとルーフで大輪の花火が何十連発と打ち上げられる様を愛でながらケーキカット、現地の親族やスタッフにもお裾分けして、みなで新年を祝っていた。

私も久々にインドに戻って、息子や甥の家族とともに無事新しい年の幕開けを迎えられたことに感謝した。ちなみに、インドと日本の時差は3時間30分、現地時間の20時30分に日本では除夜の鐘が鳴り響いていたことになる。

夜更かし後、3時間ほど仮眠して、ベンガル湾の初日の出を拝みに行った。年明けの慶ばしい初日(はつひ)の恵みを期待していたが、曇りがちで太陽がなかなか顔を見せない。11月27日に帰着してからというもの、煙霧で大気は霞みがち、空気質指数(AQI=Air Quality Index)は250前後と最悪、視界が曇り排気ガスとの相乗悪影響で汚染が甚だしい。

2024年幕開けの浜に群れ集った観光客。聖なるガンジス河の流れ着く先の聖海で沐浴し、初日の出を拝む人々の姿も。ハッピー・ニューイヤー!

師走から折々日の出参拝がてらの早朝散歩を楽しんでいたのだが、年明けのサンライズの鈍い始まりには、嫌な予感がして失意を禁じえなかった。しかし、20分後やっとスーリヤ(Surya、太陽)神が神々しいお顔をお見せになり、生きとし生けるものに暖かい日の恵みを垂れて下さり、ほっとした。

昼食を済ませて、コーヒーを飲みながらスマホをチェックすると、能登地震の一報が飛び込んできて、愕然とさせられた。夜明けの空は白みながらも、なかなか顔を見せなかった太陽とつい重ね合わせていた。スーリヤ神がご機嫌斜めだったのは、幸先よくないことと感知したのだ。

金沢市在住の弟の自宅は食器が割れてぐちゃぐちゃになったと言っていたが、不在にしている我がマンションの部屋の散乱状態を想像して、2月まで戻れぬことを少しもどかしく思いながら、被災地に思いを馳せた。

厳寒期の停電・断水は辛い、私自身も長い現地暮らしで、インフラが整っていなかった1980年代から1990年代の停電・断水の頻発、1999年と2019年のスーパーサイクロン時の長期停電を思い起こし、辛酸を舐めさせられている被災者に、単に同情ではない体験者の共感から来るシンパシーを禁じ得なかった。

6人乗りの大型車で248キロ走行、ボウドのライブツアーへ。運転はインドの常で荒っぽくスピードが出しすぎ、しかし道はよかった(右端がわが息子、左がカメラマン)。

インフラ未整備のインドの場合、ホテルだと自家発電機の設備があるので、災害時も対処できるが、停電は災害時でもない限り発生しない日本では、ジェネレーターがなく、また快適さと便利さに慣れた日本国民も不如意さへの耐久力が乏しく、体感から来るしんどさはインドの倍と思う。

私は日頃から現地の不便さに鍛えられているので(水や電気のありがたみを常に痛感)、電気が切れてもまたかと思う程度で動じない。サイクロン時の酷暑期の停電も、ベランダにマットレスを引き出して夜風で凌いだ。海から来るナイトブリーズは心地よく、割と眠れたものだ。

後年は自家発電機も完備して、停電解消、水はインドでは村や一部の町でも井戸水があるので、ほぼ不自由がない。自家発電機があれば、モーターを稼働して、屋上タンクに水を吸い上げられるため、計画停電時のみならず災害時も対処可能だ。非常時は、インフラ完備の日本の弱さ、物理的にも精神的にも弱点が露呈する感じだ。

インド人は日頃から鍛えられているのでたくましい。しかし、緊急時の今はそんな比較も無意味で、ただただ被災者の不安が少しでもぬぐわれ、安心して過ごせるようにと心から祈願せずにはいられない。

若いインド(平均年齢27.9歳)と違って、高齢社会の日本(同48.4歳)、能登地方は特に半数近くが高齢者、長引く避難生活のストレスは命取りになりかねない。救援物資は行き渡り出しているようだが、まだ孤立集落があることと、目下避難所では感染症も拡大しつつあるようで、憂慮を禁じ得ない。

2023年5月に加賀友禅ショーの舞台として夜間華麗にライトアップされた輪島市門前町のシンボル、総持寺祖院(開創700年)も、このたびの地震で大きな被害に見舞われた(金沢市在住時の2023年5月に撮影)。

さて、ニューイヤーのディナーは向かいのイタリアン(オーナーワイフは日本人のHoney Bee)で、息子や現地親族とともに、パスタやピザに舌鼓を打ったが、話題は日本の地震・津波のことに及び、オーナーにも訊かれた。現地のメディアにも、かなり大きく報道されたのだ。

以後、ずっと地震関連情報を漁り続けていたら、だんだん気持ちが沈んできて、2日の夕刻海辺に散歩に出かけた際、うっかり路上で転倒してしまった。

翌日は、息子のライブツアーに同行する予定になっていた。261キロ離れたボウド(Boudh)という小さな町で、州政府後援のショー(5月の州選挙キャンペーン絡み)が催され、インドは特にオディシャ州(Odisha)で超人気のラッパー(芸名はRapper Big Deal)である息子も、ゲストシンガーの1人として、出演することになっている。私にとっては、初めて我が子のパフォーマンスを目の当たりにする絶好の機会でもあり、1年8カ月ぶりに帰印したこのチャンスを逸したくない。

しかし、地震で気は滅入っているし、打ち身で体のあちこちが痛むので、よっぽどキャンセルして家で寝てようかと思ったほどだ。横になりながら、見続けるスマホの画面には、輪島の赤々と燃え続ける朝市が映っている。

昨年5月に義妹(弟の嫁)主宰の加賀友禅ショーが輪島の総持寺で開かれ、弟の車で訪ねたものだが、なかなか風情ある古刹だったことを思い出す。

インドで人気のラップスター、Rapper Big Dealは我が息子。初めて彼のライブツアーに同行することになり、母の私はワクワクだ。

その輪島市門前町のランドマークとも言える総持寺祖院も、回廊が全壊したほか山門や灯篭(とうろう)も倒壊、なんと国の文化財17棟が被害をこうむったとのことで、暗澹たる気持ちになる(開創700年の由緒ある古刹は、2007年の能登半島地震でも僧堂全壊の被害を受け、14年かけて復興したばかりだったそうだ)。

とにかく、その夜は体を労わって早めに就寝、よく眠れたことで、翌日はだいぶ気分が改善していた。

さて、どうしようか。出発は15時から16時の間で、11時頃までに行くかどうかを決めてくれと息子に言われる。ひと晩寝たことで気分は悪くない。両膝と、左の胸から腋にかけて痛いが、このまま家で休んでいても気が滅入るばかりなので、気分転換に行くことに決めた。

車で7時間ほどの遠出だが、今日は目的地のホテルまで座っているだけだし、なんとかなるだろう。同行者は、息子のパフォーマンスを陰でサポートするDJ(ディスクジョッキー)と、ビデオ・写真撮影のカメラマンの2人、途中で拾うとのことで、結局出発したのは16時をかなり回った頃で、遅いスタートになった。

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☆2024.1.05
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☆2024.1.12
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(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からはインドからの「帰国記」として随時、掲載します。

モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子の「Rapper Big Deal」はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2023年9月4日付で「CoronaBoard」によるコロナ感染者の数字の公表が終了したので、国別の掲載をやめてます。編集注は筆者と関係ありません)

編集注:空気質指数(Air Quality Index、AQI、大気質指数とも)は大気汚染の程度を示す指標で、大気汚染モニタリングにより空気中の粒子状物質(PM2.5)や二酸化硫黄などの汚染物質の濃度を測定し、空気の汚染度を指数化している。

AQIは6段階あり、指数が100を超過するとSensitive Groups(敏感なグループ)に影響が生じるとされる。100を超過するかしないかが健康影響の重要な判断基準とされている。

指数は「0-50」は「カテゴリ(健康影響)」が「Good(よい)」で、「51-100」が「Moderate(並)」。それより下の「101-150」が「Unhealthy for Sensitive Groups(敏感なグループにとっては健康によくない)」で、「151-200」が「Unhealthy(健康に良くない)」となり、さらに「201-300」が「Very Unhealthy(極めて健康に良くない)」、その下の「301-500」が「Hazardous(危険)」となっている。