「ホームズ・ワトソン」コンビの青くささに好感の「陰陽師0」(392)

【ケイシーの映画冗報=2024年4月25日】最近、昭和の時代と令和の現在とをタイムスリップするテレビドラマが話題となりました。かつては当然であった事象が、現状では多大なさしさわりとなるということで、そのギャップを愉しめた作品でしたが、たしかにこの数十年で、とくに放送界での“シバリ”は増えています。先述のドラマでも“コンプライアンス(法令遵守)”をお笑いのネタへと昇華させていました。

4月19日から一般公開されている「陰陽師0」((C)2024映画「陰陽師0」製作委員会)。4月19日から21日の初週は観客動員数が18万7000人、興行収入が2億5500万円で3位にランキングされた。

よく言えば“おおらか”、悪く言えば“やりたい放題”だった時代、テレビでもオカルト色の強い番組が放送され、霊能者や口寄せ(降霊術)や占い師がメインの番組があり、陰陽師(おんみょうじ)を名乗る人物も出演していました。

10世紀の平安時代。平安京で、帝に仕える陰陽師を育てる陰陽寮でまなぶ安倍晴明(あべのせいめい、921-1005、演じるのは山﨑賢人)は、呪術の才にすぐれなから学問に熱心ではなく、“狐の子”とも噂される人物でした。

ある時、晴明は貴族で雅楽家の源博雅(みなもとのひろまさ、918-980、演じるのは染谷将太)から、宮中に起きた変事の解決への協力を求められます。皇孫である徽子女王(よしこじょおう、929-985、演じるのは奈緒)の自室で、和琴が勝手に鳴るというのです。

晴明はその部屋にひそむ金の龍を呪術で捕えますが、これはさらに大きな変異の予兆でした。徽子女王が行方しれずとなり、晴明と博雅がその捜索に乗り出しますが、この一連の事件は、晴明じしんの過去にもかかわった壮大なものだったのです。

本作「陰陽師0」(2024年)は伝奇小説「陰陽師」(原作・夢枕貘)を原作としていますが、小説には描かれていない、若き日の晴明と博雅が出会うという、前日談的なストーリーとなっています。

監督・脚本の佐藤嗣麻子によれば、「実はこれまでに何度も映像化の話があっては消え、という感じだったんです。なので、ああやっと作れるんだな、年を取ったなぁと思いましたね(笑)」とのことで、念願の映画化なのだそうです。

原作の夢枕貘も「僕は佐藤監督がプロになる前、19歳頃からの知り合いで、その頃から『いつか俺の小説を映画にしてよ』と言っていたんですね」(いずれもパンフレットより)ということなので、いわば“相思相愛”という環境にあったようです。

原作で描かれている世界では、当代きっての陰陽師となっていた晴明ですが、本作はそこから十数年、さかのぼっているという背景もあってか、過去の映画化作品の老成した晴明、かれの個性を充分に理解した博雅という“完成されたコンビ”ではなく、若さというか、ある種の“青くささ”を両人が漂わせているところが、過去の映像作品を見ている自分には、好感がもてました。

さらに、呪術だけではなく、現代的な観察力を披露し、真相を追ってまっすぐに進む晴明と、とまどいながらもそれに従う博雅。この2人に“平安の名探偵シャーロック・ホームズと助手のワトソン”を連想したのは、筆者だけではないハズです。

もちろん、作中の事件は単なる怪異ではなく、人間のもつよこしまな部分から発生しているのですが、平安期の陰陽道は、天文学や自然科学、吉凶を占う未来予測の分野までを取り込んだ当時の最先端技術でしたし、まつりごと(政治)の世界にも大きな影響力をもっていました。

いまでは往時ほどの勢いはありませんが、安倍晴明というキャラクターが存在していたことは確実とされていますし、さまざまな伝承から、エンターテインメント界にイマジネーションを与えています。

とはいえ、先述した「過去の作品」で霊能力や呪術、陰陽道を扱った作品には、いわゆる“ヤラセ”や“仕込み”が少なくなかったのも事実です。こうした番組に関わった方から、“正直、ガッカリ”な逸話もうかがっていますし、“デタラメ”な映像操作も教えていただきました。

では、本当に、こうした怪異はまったくないのでしょうか?学生時代の実習公演で“九尾の狐”を扱ったグループで稽古にはいってから「衣裳が破かれる」「稽古中に異音がする」といった事象があったと聞きました。その演目の記録係として、ビデオ撮影をしていたのですが、こちらも原因不明のトラブルにみまわれ、“狐役”の画像が突然乱れたり、勝手にテープが止まっていたりしました。

本番直前に近所の神社に有志が詣でたところ、少々のトラブルはありましたが、無事に公演を終えることが出来ました。自分ともうひとりが深夜の劇場に忍びこみ、お清めのお塩をまいたのも有効だったのかもしれません。どう解釈されるかは、みなさまにおまかせいたしますが。次回は、「ゴジラXコング 新たなる帝国」を予定しています。

編集注:ウイキペディアによると、「不適切にもほどがある!」は2024年1月26日から3月29日まで10回、TBS系「金曜ドラマ」で放送された。宮藤官九郎さんが脚本を担当し、1986年から2024年にタイムスリップする学校教師の主人公「小川市郎」を阿部サダヲさんが演じている。平均視聴率は7.4%(関東地区・ビデオリサーチ社調べ)だった。