インド在留者が見た、人混み減らない日本に危機感、イベルメ認可を(79)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年9月7日】8月も下旬に入って、雨季にもかかわらず日照り状態だった当オディシャ州(Odisha)はここ数日待ち望んだ雨に恵まれ、植物が生き返ったように潤っている。30度以上と蒸し暑かった当地プリー(Puri)も、気温が下がり、冷房不要で束の間の涼気に息をつかせてもらった。

雨の晴れ間のベンガル湾の夕映え。空を仰ぐと、雨雲がところどころに残っている。

が、本日21日は太陽が覗き、また暑さがぶり返してきた。インド全土(人口13憶6641万人)の陽性者数は、3万4457人(累計3240万人、死者43万4000人、新規死者375人)と、依然統制下にある。当オディシャ州(人口4600万人)の陽性者数は986人(累計99万9000人)と1000人を切ったが、死者は第2波中3倍増と増えて、累計7223人(新規死者69人)に計上された。おかげさまで、インドの感染状況は落ち着いているが、世界のデルタ株爆発は収まらない。

ワクチン接種が進んだはずのアメリカ(人口3億2900万人、2回完了50.8%)の新規陽性者数は20万人(累計3770万人、死者62万8000人)、新規死者1532人と、インドの新規死者の4倍強、ワクチン効果にも懐疑的になってしまう。陽性者数が多くても、重症化や死者数を抑えられれば、ワクチン効果ありとみるべきなのだろうが、ブレイクスルー感染が続出していることから、感染予防効果は今ひとつのようだ。

前々号に、インド人未接種者の62.3%(全体67.6%)に抗体がてきているとの調査結果に触れたが、推論通りなら、自然の免疫なので、変異前のウイルスを特定して開発された現行ワクチンによる人口抗体より、強いはずである。

世界最悪のアメリカはさておき、オリンピック開催の気の緩みか、ここに来て感染爆発が止まらない日本(人口1億2600万人)の現況も、つとに憂慮される。8月21日付け新規陽性者数2万5892人(累計126万人)、死者は1万5592人(新規39人)とまだ少なめだが、今後の重症化や死者数の行方が気になる。都内の自宅療養者数は2万4673人、中等症以上でも、入院調整がつかず心ならずも放置、結果亡くなるケース(8月22日時点で8人)が出てきているとは、信じられない。

オディシャ州首相、ナビーン・バトナイク(4期連続、72歳)さんは、州民自慢の辣腕チーフミニスター。コロナ対策でも、全国一の手腕を発揮、他州からも賞賛の的。

医療制度が脆弱なインドならまだしも、最新医療設備の整った先進国日本の首都で、こうした悲惨な実態とは、やはり政策に問題があるとしか思えない。この1年半、日本政府は何をやってきたのだろうか。何ら有効な抑制措置を見いだせず、第1波のぶり返しを3度にわたって招き(日本曰く第1波から第3波)、変異株による4・5度目の第2・3波爆発(日本では第4・5波)へとなし崩し的に自爆していった。オリンピックは確かに、末世的暗黒世相の中、勇気と希望の象徴でもあったか、強行突破したことで、国民に気の緩みを与え、感染爆発を招いた事実は否めない。

ネットニュースて、都内のコロナ患者受け入れ病院が、上階の全面ガラス窓に、「医療者はもう限界、五輪止めて!」と、大文字の貼り紙をしているのも見た。オリンピックは既に終盤に入っていたが、院長は今からでもいい、止めてほしいと訴えていた。まさに最前線で凶暴なウイルスと四つに組んで激闘している医療従事者には、オリンピックと浮かれているどころではなかったろう。

コロナ患者を診たがらない医師の風上にも置けない医者が多くいるのも、問題である。その一方、医家の鑑のような医者や、看護師は命の危険も顧みず、献身的な奉仕を捧げている。それを当たり前と思わず、限界ぎりぎりの闘いを慮んぱかれば、為政者のみならず、国民も自ずと自粛に身が入るのではなかろうか。

しかし、パラリンピックを控えた今、小池百合子東京都知事は児童の観戦を敢行する意図のようだ。都民に帰省断念や買い物は3日に1度と、厳しい外出規制を強いる一方で、ダブルスタンダードとのそしりを免れないのではなかろうか。

私はインド在留邦人て、日本を離れているだけに、ネット経由の情報によるバーチャルしか知らないが、海外で厳格なロックダウン(都市封鎖)を体験しただけに、また違う観点から母国のコロナ失態について、意見を述べることができる。

政治的な利害から(ヒンドゥ保守層の票田)、インドのモディ(Narendra Damodardas Modi)首相が、著名な宗教大行事・クンブメーラ(Kumbh Mela)開催(4月)を容認して、第2波爆発を招いた失態は、記憶に新しい。

世界のどんな為政者であろうと、パンデミック(世界的大流行)下の有効な政策は難しい。専門家に第2波を警告されながら、無視したインド首相の大失策は、酸素不足で膨大な死者数を生じせしめた。それだけに、愛するわが祖国に同じ轍(てつ)を踏んで欲しくない。

増え続ける自宅療養者が、容態が急変しても適切な入院治療が受けられないのは、嘆かわしい。

ロックダウンを敷くべきだとの、地方知事の意見もあるようだが、現行法では難しいとのこと、しかし、災害級と危機感を煽るなら、超法規的措置が取られてもいいのではなかろうか。経済との兼ね合いもあろうが、ニューヨーク州だって、日本よりはるかに厳しいロックダウンで対処してきた。

日中が難しいなら、せめて20時から6時までの外出禁止令を敷かれないものか。夜間の人流を抑えるだけでも、ある程度の効果はあると思う。

欧米などの先進国にできて、日本にできないのが不思議だ。都市封鎖に効果があまりないとの意見もあるが、インドの例を見るなら、そんなことはない。

警官が目を光らせ、ルール違反者には罰金も科せられるから、表通りは閑散として、人流はほぼ抑えられる。企業もリモート推奨で、都会であっても、東京のように通勤者が群れを成して電車に詰めかける混雑はありえない。

この1年半ほとんどこもり切りの私には、緊急事態宣言が出されても、人混みが減らない日本の光景は、現地とのギャップがあまりに大きすぎて、信じられない。

日本人は、規則を守る人種ではなかったのか。インドは権力者の意向が絶対で、普段はいい加減でルーズなインド国民も、お上からの指示にはほぼ忠実に従う。逆らって警棒で打たれたり、罰金を取られたりするリスクは、長いものには巻かれろで、極力犯さない。

医療制度が脆弱な途上国では、日本のような緩い対策でお茶を濁す余裕もなく、厳しい措置で臨まざるを得ないのだ。

というわけで、TSUNAMI(ツナミ)級の第2波は、各州の厳しいロックダウンによって、ある程度、抑制効果はあった。あとは、「イベルメクチン」がデルタ株に効力を発揮したことだ(レムデシベルの4倍効くとのデータも)。この2点か功を奏して、ひと月という短期で抑制できたのだ。

日本の北里大学栄誉教授、大村智博士が発明した、ノーベル賞ものの抗寄生虫薬がもし、初期の段階で日本の自宅療養者に使われていたら、死に至ることはなかったかもしれない。

既に同薬をコロナ患者に用いている国内クリニックもあり、1回3、4錠(体重60キロ以上は4錠)で翌日改善を見た事例も報告されている(詳細は本文下の小コラム「コロナ余話」参照)。点滴投与の抗体カクテル療法よりはるかに簡便だ。副作用が少ないなら、駄目元で使ってみればいいのにと、素人の私など思ってしまうのだが。

日本では、インドのように酸素不足で人がバタバタ倒れ死ぬという悲惨な事態は免れると信じるが、早急に有効な政策を打ち出して、人命優先で、自宅で無惨な討ち死にという事態だけは回避してもらいたい。

●コロナ余話/アベノマスクならぬ、スガルメクチン?

「情報ライブ・ミヤネ屋」(日本テレビ系ワイドショー)の8月12日放送分を動画で観た。尼崎でクリニックを経営している長尾和宏院長がバーチャルゲストとして招かれ、リモート画面越しにイベルメクチンの効験あらかたぶりを強調していた。

それによると、長尾院長はこれまで500人以上のコロナ患者を診てきて、100人以上に適応外使用として、医師の判断で投薬が認められているイベルメクチンを処方、診断当日服用してもらって、翌日には、改善を見たと述べていた。

長尾院長は、新型コロナウイルスの位置付けを今の2類(結核やSARSなど)から5類(インフルエンザや風疹など)に引き下げて、インフルエンザと同じ扱いで全国の診療所で即座に診断可能になれば、現行の自宅療養で重症化して亡くなるケースを減らせると提言、ガンと同じ、コロナも早期診断・治療が肝要と語り、アベノマスクならぬスガルメクチン(菅のイベルメクチンをもじった新造語)を、菅義偉首相主導で全国民に4錠ずつ配布すべきと、提唱した。ステロイドは糖尿病患者など、誰にでも投与できるわけでないが、イベルメクチンはオールマイティ、保険適用(ネットでは2000円前後で販売)、1回飲むだけだ。

インドのデルタ大爆発にイベルメクチンが効力を発揮した事例からも、日本の最前線でコロナ治療に携わる医師からのイベルメクチンお墨付きは、我が意を得たりで、賛同させられた。コロナ特効薬として、早期に承認されることを望みたい。

※イベルメクチンは北里大学と名古屋の医薬品メーカー・興和が共同で治験を進めているが、いまだ未承認(年内承認を目指す)。インドでは、イベルメクチンのおかげでメガ第2波の死者数が激減した経緯があった。ネットで個人的に入手することもできるが、偽造品の可能性もあるので、医者による正規処方が望ましい(ダニによる疥癬を扱うクリニックなどに、限られるようだ)。

医師がインフォームド・コンセントで患者の承認を得て使うのは認められているため、長尾医師は、ワクチン未接種の40代から50代の陽性者に処方、当日服用で翌日改善の事例を見、同薬服用で悪化したケースは1例もないと強調していた。

現場医師のイベルメクチンは効くとの太鼓判は、以前から同薬の効き目を幾度となくこの連載中述べてきたわが説を裏付けるようだが、個人で入手し、自己責任で服用するのは、副作用がないと言っても、高投与は下痢、嘔吐、めまいなどの症状が出るらしいので、医師介在が望ましい。

○トピックス/オディシャ州首相がコロナ対策No.1に

雑誌メディア「India Today(インディア・トゥデイ)」が本年8月に行った国民感情調査で、当オディシャ州首相、ナビーン・パトナイク(Naveen Patnaik)さんが、パンデミック対処において、トップにランクイン、次点以下はアッサム州(Assam)首相、ジャルカンド州(Jharkhand)首相と続く。

私見ながら、もしナビーンさんが中央政府の首相を務めていたら、TSUNAMI級の第2波は防ぎ得たと確信しているので、各分野からの賞賛はもっともと、うなずける。

まだ陽性者が少ないときから全国に3日先駆けて厳格なロックダウン発令、英断が、後に移民労働者の膨大な流入で累計数が激増しながらも、最終的にはコントロールへと持ち込み、至難な局面を巧みに切り抜けた。

災害防備や、市街発展においても、辣腕を発揮、当地プリーもヘリテッジタウンとして整備中で、見違えるように美しく生まれ変わろうとしている。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。2021年8月31日現在、世界の感染者数は2億1712万9451人、死者は451万0299人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が3276万8880人、死亡者数が43万8560人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3905万7459人、死亡者数が63万8711人(回復者は未公表)、日本は感染者数が149万1352人、死亡者数が1万6083人、回復者が123万2180人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。