「昭和の奇想天外な雰囲気」に成功した新「ゴジラxコング」(393)

【ケイシーの映画冗報=2024年5月9日】本稿でもとりあげた「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」(監督・山崎貴)が、アメリカでアカデミー視覚効果賞を受賞する直前の3月4日、日本の興行収入が60.1億円となり、昨年公開された実写映画では最大のヒットとなったことが報じられました。

4月26日から一般公開されている「ゴジラxコング 新たなる帝国」((C)2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.)。

映画の世界で、傍流と見られていたSF怪獣映画が、観客に広く受け入れられたのは確実です。アニメ作品についても「ゴジラ-1.0」と同時にアカデミー賞の長編アニメーション賞を受けた「君たちはどう生きるか」(監督・宮崎駿)をはじめ、日本映画の重要なコンテンツになっていることに異論はないでしょう。

ハリウッドも同様で、現時点で今年の最大のヒット作となっているのが古典SF小説のシリーズ映画化である「デューン 砂の惑星PART2」(Dune:Part Two)で、これまでに7億ドル(およそ1000億円)を記録しており、それに追随して先月末時点で5億ドル(およそ750億円)の世界興収となっているのが本作「ゴジラxコング 新たなる帝国」(Godzilla x Kong:The New Empire)です。

前作「ゴジラvsコング」(Godzilla vs.Kong、2021年)から3年後。ゴジラは、人類の味方として地上世界で暴れる他の怪獣と戦い、コングは故郷である、地下の空洞世界で、孤独に生きていました。そんなおり、怪獣(劇中ではタイタン)の監視と研究をおこなう特務機関モナークが、コングのいる地下世界での異常を検知します。

調査のため、人類言語学の権威アイリーン(演じるのはレベッカ・ホール=Rebecca Hall)と彼女の養女で、コングと意思の疎通ができるイーウィス族の少女ジア(演じるのはケイリー・ホトル=Kaylee Hottle)と、怪獣専門の獣医であるトラッパー(演じるのはダン・スティーヴンス(Dan Stevens)らは地下世界へと足を踏み入れますが、そこには、コングと同系列ながら、群れをつくって仲間を強権で支配するスカーキングがおり、孤高の存在であるコングと敵対していました。

万物を凍らせる冷凍怪獣シーモや、配下を従えたスカーキングとの戦いに傷ついたコングを回復させるアイリーンたち。コングにとって、圧倒的に不利な状況は、地下世界に降り立ったゴジラによって一気に挽回されたかにみえたのですが、地上と地下で最強の存在であるゴジラとコングの共闘は不調でした。それを解決するために登場する怪獣があらわれ、怪獣同士の対決はクライマックスへ。

2014年の「GODZILLAゴジラ」(Godzilla)でスタートしたハリウッドの「モンスター・ヴァース(MonsterVerse)」では、ゴジラとアメリカのモンスターであるキング・コングが同時に存在するという世界観で、ストーリーが構築されています。これまでゴジラサイドの作品には、日本のオリジナル作品の怪獣たちが登場し、自分たちのような長年の怪獣ファンを楽しませてくれました。

コングとの共演が明確化した本作では、「モンスター・ヴァース」のオリジナル怪獣たちが一気に存在感を増しています。さらにはゴジラとコングという、怪獣界の2大スターの共演ということで、怪獣たちのシーン、とくにコングの活躍する地下世界では、怪獣たちのドラマが無声映画のように描かれています。

当然、会話はないのですが、顔つきや咆哮、そして胸をたたくドラミングをはじめとしたジェスチャーなどで感情が伝わってくるので、対立や仲たがいが違和感なく、描かれていたのも印象的でした。そしてコングと交流するイーウィス族の少女ジアは聴覚にトラブルをもち、養母のアイリーンとは手話でのコミニュケーションとなっていることも、表現の幅を広げるおおきなファクターとなっています。

監督のアダム・ウィンガード(Adam Wingard)は、前作からの続投となっていますが、ゴジラやコングのキャラクターへの味付けを本作ではかなり、変化させています。「問題は、『昭和の奇想天外な雰囲気を、現実感のあるものに変換できるか、80年代アニメのような雰囲気を現実に落とし込めるか』ということでした。」(パンフレットより)と語っており、意識的な変更であって、それは成功していると感じました。

「昭和の奇想天外な雰囲気」という文言が、ハリウッドの映画監督から発せられることに楽しさも感じるのは、自分だけではないでしょう。

2016年の「シン・ゴジラ」(Shin Godzilla)や昨年の「ゴジラ-1.0」のゴジラ像が“人知を超越した存在”(英語名に神ーGodーと)とあるのに対し、本作でのゴジラは光線を繰り出す怪獣でありながら、生物としての躍動感を存分に見せ、日本版とは異なったアプローチで、日本発のキャラクターの魅力を広げた佳作です。世界的ヒットにも納得の仕上がりを実感させられました。次回は、「猿の惑星/キングダム」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「モンスター・ヴァース」(MonsterVerse)は、レジェンダリー・エンターテインメント(Legendary Pictures Productions、 Legendary Entertainment、2016年以降に中国のコングロマリットである「万達集団」の子会社)が製作し、ワーナー・ブラザース・ピクチャーズが共同で製作・配給する、ゴジラとキングコングを主人公とした一連の怪獣映画を中心としたアメリカのメディア・フランチャイズであり、シェアード・ユニバースである。

第1作は「ゴジラ」のリブートである「GODZILLA ゴジラ」(2014年)、「キングコング」のリブートである「キングコング:髑髏島の巨神」(2017年)、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019年)、「ゴジラvsコング」(2021年)と4作が公開され、全世界で合計16億ドル(1ドル150円換算で約2400億円)の興行収入を記録している。

「GODZILLA ゴジラ」では坂野義光(ばんの・よしみつ、1931-2017)がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたが、2017年に福島第一原子力発電所事故をテーマとした映画「新ヘドラ」(仮称)のシナリオをまとめている段階でクモ膜下出血により死去した。