粗削りな世界観も監督の想いが結実した深みのある「IkeBoys」(396)

【ケイシーの映画冗報=2024年6月20日】“ものづくり”において「好きなモノを好きなようにつくる」というのは、だれもが理想とするでしょう。一方、その願望が充足することは、じつに難事です。日本を代表する世界的な映画監督がこんな言葉を発しています。「上映する作品はつねに、直したいところだらけです」。

6月14日から一般公開されている「IkeBoys イケボーイズ」(((C)Ike Boys MOVIE. LLC.)。

資金や締切といった制約は、どんな世界にも存在していますし、状況によってはスタッフだけでも100人単位で関わってくるのが映画の世界ですので、“折り合い”や“妥協”をさけて完成させるのは至難の業でしょう。

本作「Ike Boysイケボーイズ」の監督、脚本のエリック・マキーバー(Eric McEver)は、幼少期から日本のアニメや特撮が大好きで、ついには日本の大学に留学して“本場”を体験したとのことで、生粋の好事家(こうずか)といえるでしょう。俳優、翻訳家(日本語も堪能)、アニメーション関連といった過程を経て、「自分の好みを詰め込んだ」のが本作です。

1999年のアメリカはオクラホマ州。アメリカでもローカルな町の高校生ショーン(演じるのはクイン・ロード=Quinn Lord)とヴィクラム(演じるのはローナック・ガンディー=Ronak Gandhi)は、日本産のアニメや特撮をこよなく愛する親友同士でしたが、スポーツも勉強もイマイチのため、学校ではマイナーな存在でした。

年末のクリスマス休暇に、ヴィクラムの家に日本からの留学生ミキ(演じるのは比嘉クリスティーナ=Christina Higa)がやってきます。“本場”からの来訪者に喜んだショーンとヴィクラムは、日本産のマイナーなアニメ作品「行け!虹の世紀末大決戦」をミキと見ていると、突然、画面が光りかがやき、3人はその電光に直撃されてしまいます。

翌朝、目覚めたショーンは手からビームを放てるようになり、ヴィクラムは強靱な体力を与えられていました。そして、ミレニアム(西暦2000年代)をひかえたこの地では、世界の終末を望むカルト集団が暗躍しており、その活動に3人は巻き込まれていくことになるのです。

アメリカ本土には一度しか行ったことがありませんが、渡航先が西部ユタ州の地方都市で、ノンビリした風情でした。本作の舞台設定と重なる部分もあり、鑑賞中、ついニヤリ、としてしまうことも。

ストーリーをなぞるだけだと、「だれもが思いつきそうな」展開となっていますが、ショーンが父子家庭で父親との関係に悩み、ヴィクラムもインド系移民の家系という葛藤を抱えており、単純な組み立てではありません。日本人のミキも、オクラホマがインディアン(ネイティブ・アメリカン)の多かった場所ということで憧れを抱いて来たのですが、現在の彼らの生活(カジノ運営で生活している人々が多い)や過去の歴史(ヨーロッパからの入植者と先住民はしばしば、対立していた)を知ることで、心を打ち据えられてしまいます。

そして、暗躍するカルト集団の装束は、アメリカの暗部である“クー・クラックス・クラン”(白人至上主義で黒人を弾圧した集団)のイメージでしょう。

マキーバー監督もオクラホマ出身なので、作品にも自身の実体験が反映されており、ミキ役の比嘉クリステーィナの見事な日本のカタカナ英語(本人は英語に堪能)といったキャストの好演もあって、若干、粗削りな世界観ながら、深みのある作品となっています。

監督の通っていた学校でロケをして、日本のかつての特撮映画にかなり寄せたデザインのキャラクターや怪獣(セリフでも“カイジュウ”でした)を、伝統的な撮影技法で表現するなど、単純に「マニアが高じてつくった趣味的作品」とはならず、気持ちのこもった仕上がりも楽しい気分にさせてくれます。

「10代の頃に抱いていた空想は、日本語を学び、東京に移住し、そこで映画を製作するという夢へと発展しました。そして大人になった私は、この映画を製作する事で子供の頃の野望を貫き通しました」。

「『IkeBoys イケボーイズ』は、私の大好きな映画と、“良い人生の秘訣はただ自分らしくあることである”という、私が最も大切にしている信念との融合を表しています」(パンフレットより)

単なるオマージュ的なものではなく、マキーバー監督の想いが結実した作品であることに好感を抱きました。なお、先述のユタ州でのエピソードをひとつ。10代の少年が緊張しながら、話しかけてくれたのです。
「日本の人とニンジャやサムライについて話したい」

私の拙い英語と知識でしたが、懸命に伝えたので、喜んでいただけかと。そんな彼、ジェフくんも、もう立派な大人になっているはずです。本作に関わっているやも。次回は、「バッドボーイズ RIDE OR DIE」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。