過去の主役をスタッフにし、猿をリアルにした新「猿の惑星」(394)

【ケイシーの映画冗報=2024年5月23日】「猿の惑星:キングダム」(2024年、Kingdom of the Planet of the Apes)は知恵を持った猿のリーダーであったシーザーが世を去って300年。鷲と生活するチンパンジー“イーグル族”の若者ノア(演じるのはオーウェン・ティーグ=Owen Teague)は、ゴリラの一族に集落を襲われます。

5月10日から一般公開されている「猿の惑星:キングダム」(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.)。

父は殺され、母や仲間たちはそのゴリラの軍勢に連れ去られます。そのゴリラたちを追うノア。途中でオランウータンのラカ(演じるのはピーター・メイコン=Peter Macon)と出会い、書物と過去からの知恵を教えられます。人間の女性であるノヴァ(演じるのはフレイヤ・アーラン=Freya Allan )も加わり、異種族の旅となりました。

ゴリラの一族を率いるのはボノボ(チンパンジー属)のプロキシマス・シーザー(演じるのはケヴィン・デュランド=Kevin Durand)は、かつての指導者「シーザー」を勝手に継承し、自身の王国(キングダム)を築いていたのです。そして、わずかに残る、旧人類の文明を知るため、過去を知るノヴァを追跡していたのです。

プロキシマスの王国で、母や仲間と再会するノア。プロキシマスの目的は、旧人類の“遺跡”を開き、そのテクノロジーを手にしようという野心を持っていました。仲間を救うため、プロキシマスにかつての文明を渡さないため、ノアとノヴァは共同歩調を取ることに。

1963年にフランス人の作家、ピエール・ブール(Pierre Boulle、1912-1994)の小説「猿の惑星」(Planet of the Apes)を映画化した同名作品は、1968年に公開され、全世界で大ヒットしました。

リアルに表現された猿たちの見事なメーキャップや、当時の世相(核戦争への恐怖や人種問題など)をたくみに描いた作品としても、高く評価されています。続編も4年間で4本が生み出され、少々ムリヤリな展開もありましたが、一定の成功を見せたといえるでしょう。

21世紀に入り、新たな3部作として2011年の「猿の惑星:創世記」(Rise of the Planet of the Apes)からのシリーズでは、医薬品で高い知能を得たチンパンジー“シーザー”をリーダーとして猿たちが蜂起し、人類にかわって地球を支配するようになる過程を描いています。

本作の監督であるウェス・ボール(Wes Ball)は、ネット上で公開した短編作品を評価されたことで、大きな劇場作品に関わるようになりました。50年にもわたるシリーズ作品であり、最初の作品で、人類の滅亡を一瞬で表現した、映画史に残る衝撃的なラスト(本作の後世にあたります)があることや、過去のシリーズで通呈している禁忌「猿は猿を殺さない(ape shall never kill ape)」といった部分にどう、アプローチしていくのか。

ボール監督は積極的に教えを請うことを選択したのでした。2011年からの前3作の主役であった“知恵のある猿”のシーザーを演じた俳優のアンディ・サーキス(Andy Serkis)にコンサルタントとして作品づくりに参加してもらったのだそうです。

SFやホラー作品では、奇抜な衣裳やメイクをキャストに求めることがあります。かつて、あるハリウッド・スターが、自分の素顔を隠すキャラクターを演じることを嫌って、全身のコスチュームを拒否したこともあります。

近年では、衣裳やメイクはコンピュータで作り、動きや表情など、キャストの演技をトレースするモーション・キャプチャーにより、こうした問題はクリアになりましたが、モーション・キャプチャーでの映像製作は、撮影用の特殊なスーツを着込み(先述のスターがそのスーツ姿を嫌がるというシーンが、映画作品でネタにされたことも)、なにもない空間での演技となり、キャスト陣の意欲を減じてしまうこともあるそうです。

そこに経験豊富なサーキスが入ることで、
「そこで役者には猿のマネをするんじゃなく、全力で猿になってもらわなきゃなりません。アンディはそういった面も含めて、この映画の猿を作り出すために欠かせないことを教えてくれました」(パンフレットより)

前3部作の主役“シーザー”は、1968年からのシリーズ3作目から登場するキャラクターです。その息子が本作の主役とおなじ、ノアと名付けられます。ノヴァという女性キャラクターも、オリジナルのシリーズで登場しています。

継承しつつも、新たな要素を加えていく。「とっくに衰退していたはず(「創世記」からの3作では、人間だけが罹患するウィルスによって、人類は言語能力を喪失していったのです)の人類にも知性を有した者が生き残っていた」というのは、その一つでしょう。続編の展開にも、興味を惹かれますね。次回は「マッドマックス:フュリオサ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「猿の惑星」はピエール・ブールが1963年に発表した小説「猿の惑星(フランス語、La Planete des singes)」を原作とする映画化で、1968年に公開された「猿の惑星」はフランクリン・J・シャフナー(Franklin James Schaffner、1920-1989)が監督し、大ヒットし、制作費が580万ドル(1ドル=200円換算で約11億6000万円)、興行収入が3259万ドル(約65億円)で、その後、シリーズとして全5作が製作された。

1970年に第2作「続・猿の惑星」(BENEATH THE PLANET OF THE APES)が公開され、監督はテッド・ポスト(Ted Post、1918-2013)で、制作費が468万ドル(約9億3600万円)、興行収入が1900万ドル(約38億円)だった。1971年に第3作「新・猿の惑星」(Escape from the Planet of the Apes)が公開され、監督はドン・テイラー(Don Taylor、1920-1998)で制作費が206万ドル(約4億円)、興行収入が1235万ドル(約25億円)だった。

1973年に4作目の「猿の惑星・征服」(Conquest of the Planet of the Apes)が公開され、監督がJ・リー・トンプソン(John Lee Thompson、1914-2002)で制作費が170万ドル(約3億4000万円)、興行収入が904万ドル(約18億円)だった。1973年に「最後の猿の惑星」(Battle for the Planet of the Apes)が公開され、監督がJ・リー・トンプソンで制作費が171万ドル(約3億4200万円)、興行収入が884万ドル(約17億円)だった。

これらの作品は、最初の作品のような高い評価を得ることはできなかったが、商業的には成功し、1974年と1975年には2つのテレビシリーズが制作された。

2001年に「リ・イマジネーション」(再創造)として「PLANET OF THE APES/猿の惑星」(Planet of the Apes)が公開され、監督はティム・バートン(Tim Burton、1958年生まれ)が手がけ、制作費が1億ドル(1ドル=120円で、約120億円)、興行収入が世界で3億6221万ドル(約435億円)だった。

2011年に新たなシリーズの起点(リブート)とし「猿の惑星:創世記」(Rise of the Planet of the Apes)が公開され、監督はティム・バートンで、制作費が9000万ドル(1ドル=120円で、約108億円)、興行収入が4億8180万ドル(約578億円)だった。

2014年には続編となる「猿の惑星: 新世紀」が公開され、監督はマット・リーヴス(Matt Reeves、1966年生まれ)で、制作費が1億2000万ドル(1ドル=120円で、約144億円)、興行収入が7億1064万ドル(約853億円)だった。2017年には「猿の惑星:聖戦記」(War for the Planet of the Apes)」が公開され、監督はマット・リーヴスが手がけ、制作費が1億5000万ドル(1ドル=120円で、約180億円)、興行収入が4億9072万ドル(約588億8640万円)だった。

2024年公開の「猿の惑星:キングダム」(Kingdom of the Planet of the Apes)は「猿の惑星」シリーズとしては10作目で、リブートシリーズの第4作にあたる。監督はウェス・ボール(Wes Ball、1980年生まれ)で、制作費が1億6000万ドル(1ドル=140円で、約224億円)。