自己の体験と重なり、映画を超えた存在の新「ブラックパンサー」(355)

【ケイシーの映画冗報=2022年11月24日】アメリカのコミックブランドである“マーベル”が母体となって展開されている“マーベル・シネマティック・ユニバース”(以下・MCU)は、コミックを原作とした実写映画を中心として、ネット配信の連続ドラマやアニメといったジャンルにも進出しており、世界最大の映画(映像)フランチャイズとなっています。

現在、一般公開中の「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」((C)Marvel Studios 2022)。

ヒット作もかなりあり、大作、話題作の一角を占めることもMCUシリーズは増しており、映画界での地歩も獲得してきました。その一方で、原作がコミックであり、CG映像が中心となった映像シーンの多さから、「単なるコスプレ映画」や「マンガが元ネタの薄っぺらい作品」と否定する声もあがっています。

スーパーヒーローという存在自体が荒唐無稽であるのは確かですし、ストーリー的にもこんなにしょっちゅう、“地球存亡の危機”が現出しているのでは、一般人にはタマッタものではありません。ですが、これはオハナシですから、気にしていてはキリがないでしょう。

個人的には「映画は面白くてナンボ」であり、作品の出来がすべてだと考えています。そして、“MCU”の作品群は、失敗が許されない大作(映画1本あたり2億ドル=約280億円)でありながら、挑戦的な作品を生み出しています。そのひとつが主役をはじめ、登場人物が黒人である本作「ブラックパンサー」(Black Panther、2018年)で、ある意味で人種的に隔たったキャスティングながら、世界興収7億ドル(当時で約700億円)のヒットを記録しました。

監督、共同脚本のライアン・クーグラー(Ryan Coogler)も黒人であり、黒人による監督と主演ということでも、エポックメイキングな事例となりました。

その「ブラックパンサー」の続編が本作「ワカンダ・フォーエバー」(Wakanda Forever)です。大変残念なことに、本作に前作の主人公ティ・チャラこと“ブラックパンサー”(演じたのはチャドウィック・ボーズマン=Chadwick Boseman、1976-2020)は出演していません。前作の撮影中から闘病中だったボーズマンは夭逝してしまったのです。

アフリカの内陸国ワカンダ。国際社会では小国としてふるまっていましたが、実際には宇宙からもたらされた驚異の金属“ヴィブラニウム”を豊富に埋蔵することから、超絶的な科学技術を持った世界最高の先進国でした。

そのワカンダ国王でブラックパンサーであったティ・チャラの死と送別に国中が喪に服しているなか、事件が起こります。アメリカがひそかに開発した探知装置で、メキシコ近海に沈むヴィブラニウムを発見し、入手を試みますが、海中から姿をみせた人々によってチームは全滅します。

かれらは、かつての迫害から海中で生きることを選択し、海底に「タロカン」という王国を築き上げた海生人類でした。タロカンを率いるネイモア(演じるのはテノッチ・ウエルタ・メヒア=Tenoch Huerta Mejia)は、おなじヴィブラニウムを保有するワカンダへ敵対の意志を示します。そして、ヴィブラニウムの探知装置を作った女子学生のリリ(演じるのはドミニク・ソーン=Dominique Thorne)を狙っていることを知った、ティ・チャラの妹であるシュリ(演じるのはレティーシャ・ライト=Letitia Wright)は、リリとワカンダを守る決意を固めます。

緊張状態だったワカンダとタロカンの関係は激突必至という状況になり、ワカンダの守護神である“ブラックパンサー”がついに姿をあらわすことに。本作でも前作同様に監督、共同脚本をつとめたライアン・クーグラーは、本作が予定されていたストーリーではないことを語っています。

主演であるボーズマンを欠いてしまったという現実が、その変化を起こしたことも。「当初は、ティ・チャラは欠かせないキャラクターだったので、完全に別の映画となり」ということでしたが、結果的には「大事な人を失うことと、その悲しみと、そこから前進していくというテーマが見えてきました」(パンフレットより)

本作の冒頭、亡くなったティ・チャラを送るシーンがしっかりと描かれています。映画や演劇にひとの死は奇異な出来事ではないのですが、劇中の映像がそのまま、出演者のセレモニーに重なるということに感情を強く、動かされました。

じつは前作「ブラックパンサー」を鑑賞したころ、家族が病に臥せっていたのです。そして、ティ・チャラと同じように旅立っていきました。個人的な出来事なので、映画の中身や品質に関連はないのですが、自分のなかではどうしても重なってしまうのです。自分にとって、本作は、単なる映画ではないのでしょう。

次回は「ブラックアダム」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)」はアメリカン・コミックの「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーローの実写映画化作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う作品群をいう。マーベル・スタジオが制作するシェアード・ユニバース作品で、現在では短編映画、テレビシリーズなどに拡大している。

MCU初の公開作品は「アイアンマン」(2008年公開)で、時系列のまとまりである「フェーズ」の第1段階をスタートさせ、この「フェーズ1」は2012年公開の「アベンジャーズ」でピークに達する(全部で6点)。

「フェーズ2」は「アイアンマン3」(2013年公開)から始まり、「アントマン」(2015年公開)で終了する(全部で6点)。「フェーズ3」は「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年公開)で始まり、「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」で終了する(全部で11点)。これらのフェーズ1から3の23作品をまとめて「インフィニティ・サーガ」と呼ぶ。

世界でもっとも大きな興行的成功を収めている映画シリーズであり、2位の「スター・ウォーズ」シリーズに大差をつけ、世界歴代1位の興行収入を記録している。

フェーズ4は2021年1月配信の「ワンダヴィジョン」(WandaVision)から2022年7月に公開された「Thor: Love and Thunder(ソー: ラブ・アンド・サンダー)」までの映画7作品、ドラ11作品の計18作で構成される。「Black Panther: Wakanda Forever(ブラックパンサー: ワカンダ・フォーエバー)」はそのひとつで、フェーズ4から6(2025年から2026年に公開予定)までを「マルチバース ・サーガ」と呼んでいる。