自らダメ男を演じ、実子も出演させ、監督した「フラッグ・デイ」(358)

【ケイシーの映画冗報=2023年1月5日】明けましておめでとうございます。本年も映画の話題をお届けまいりますので、よろしくお願いいたします。

ハリウッド・スターには、自分が出演するだけではなく、監督業や脚本、映画プロデューサーとして映画界に関わる人物が少なくありません。

現在、一般公開中の「フラッグ・デイ 父を想う日」(((C)2021 VOCO Products, LLC)。これまでの興行収入は世界で129万8000ドル(1ドル=130円換算で約1億6874万ドル)。今作が監督しながら、主演した初めての映画となった。

前者は2度のアカデミー監督賞に輝くクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)、後者では、自身がチャレンジする、どんな危険なスタントでも“プロデューサー権限”で実行してしまうトム・クルーズ(Thomas Cruise)が代表格といえるでしょう。

本作「フラッグ・デイ 父を想う日」(Flag Day、2021年)を監督し、主人公も演じたショーン・ペン(Sean Penn)も、俳優として精力的に活動する一方で、自身の監督作品を30年間で7本、生み出しています。

1992年、アメリカ最大のニセ札事件の犯人であるジョン・ヴォーゲル(演じるのはショーン・ペン)は、裁判をまえに逃亡という暴挙に出ます。それを知った娘のジョニファー(演じるのはデュラン・ぺン=Dylan Penn)の脳内に残る父の記憶が、一気にフラッシュバックします。

ジェニファーの幼少期、父ジョンは彼女と弟を一心に愛する一方で、気ままな自由人として振る舞っていました。そのため周囲との軋轢(あつれき)も多く、突然、姿を消してしまうこともしばしばでした。

享楽的に過ごす日々があるかと思えば、姉弟を残してどこかに行ってしまうジョンに、高校生となったジェニファーは身を寄せます。新しい家族との関係がぎこちなくなったのが原因でした。

自分を頼ってくれた実の娘に、人生の成功を誇示するジョンでしたが、そのすべてが欺瞞であり、ついに犯罪に手を染めたジョンは刑務所に入ってしまいます。

その後、社会人としてジャーナリストをめざすジェニファーの前に、「刑期を終え、新しい事業をやっている」とジョンが姿をあらわします。その仕事というのは“印刷業”とのことでした。

タイトルのフラッグ・デイというのは、アメリカの国旗制定記念日(1777年6月14日)のことで、独立記念日(1776年7月4日)につぐ、アメリカ合衆国の記念日となっていますが、作品内でジョンの母(ジェニファーの祖母)は、「国旗制定日に生まれた男はダメだ」と、実の息子を突き放すような言葉を発します。

たしかにジョンは「やりたい放題の放蕩三昧」です。ですが、単なるダメおやじではなく、演じるショーン・ペンの力量もあって「どこか憎めない天真爛漫さ」を漂わせています。家族のためを思ってか、すぐバレるような中身のない嘘を並べるのですが、「イタズラを見とがめられた子どものよう」なジョンが極悪人にはどうしても見えないのです。

数年前の主演作「ザ・ガンマン」(The Gunman、2015年)では、心と体に深い傷を負いながら、自分の人生を取り戻そうとする元雇われ兵を、還暦前とは思えぬ精悍な肉体とキレのある動きで演じていたのですが、本作ではうってかわって、肉体もダブつき、動きもどこかぎこちない初老の男性を、違和感なく表現しています。

この振幅の広さは、ショーン・ペンの俳優としての能力にも直結しているのではないでしょうか。ときおり、演じているうちに役柄と俳優が合体してしまうようなことがあり、周囲を困惑させる例が存在します。俳優は「演じ、表現する」のが本分であり、仕事をはなれれば、余計な気負いや思い込みは無用です。演者の素養は、一般的な生活を送るにはかえって有害になることもあります。

少なくない表現者がこうした「虚像と実像」との乖離(かいり)や一体感に囚われ、社会や家族との軋轢に苦しみます。

本作の困った父親を演じ、監督するショーンの実子であるデュラン・ペンが娘のジェニファーを、その弟ニックも、ショーンの息子でデュランの弟であるホッパー・ジャック・ペン(Hopper Jack Penn)が演じていますが、子どもたちが出ているこの作品について、監督と主演のショーンはこうコメントしています。
「この映画は娘と父親の間にある物語なんだけど(中略)この愛の繋がりが異様に強く、リアルであって、同時に完全に崩壊しているんだ」

自分の家族を愛し、奮闘努力をするも結果が出ないジョンは、実社会ではただの“迷惑な存在”ですが、劇中は魅力的でもあります。ただし、ショーン曰く、「ジョン・ヴォーゲルは誰のヒーローでもないと」(いずれもパンフレットより)

ジョンのようなパースンは、虚構の世界だけの存在であってほしいのですが、本作は実話がベースとなっているそうです。次回は「カンフースタントマン 龍虎武師」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、ショーン・ペンが監督した作品は1991年の「インディアン・ランナー」(The Indian Runner、主演はヴィゴ・モーテンセン=Viggo Mortensen)、1995年の「クロッシング・ガード」(The Crossing Guard、主演はジャック・ニコルソン=Jack Nicholson)、2001年の「プレッジ」(The Pledge、主演はジャック・ニコルソン)、2002年の「11’9”01/セプテンバー11」(11’09’01-September 11、主演はアーネスト・ボーグナイン=Ernest Borgnine、1917-2012)。

2007年の「イントゥ・ザ・ワイルド」(Into the Wild、主演はエミール・ハーシュ=Emile Hirsch)、2016年の「ラスト・フェイス」(The Last Face、主演はシャーリーズ・セロン=Charlize Theron)、2021年の「フラッグ・デイ 父を想う日」(Flag Day、主演はショーン・ペン)の7本。