【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2023年6月20日】6月2日から4日、金沢市では恒例の金沢百万石まつり(第72回)が開催された(前夜祭の子ども提灯太鼓行列は雨で中止)。
そもそもは、加賀藩祖・前田利家(1539-1599)が1583(天正11)年に金沢城入りして礎を築いた偉業をしのんでの行事で(起源は大正時代の金沢市祭に遡り、終戦後は尾山まつり、1948年から現在の名前となる)、武将やお姫さまに扮した関係者一団が金沢駅東広場から出発して金沢城公園まで練り歩き(14時から18時)、豪華絢爛な百万石行列を沿道に集った大観衆に披露するのだ(消防団による加賀とびはしご登りも見どころだが、私は今年は見逃した)。
華麗な時代絵巻のパレードの主役となる前田利家役を演じたのは、歌舞伎役者の市川右團次(1963年生まれ)。去年の竹中直人(1956年生まれ)に比べると、大衆の受けは今ひとつで、サービス精神旺盛に馬上から手を振り愛想を振りまいた前任者に対し、白馬に跨った利家らしき武将が現れたと思ったら、ちょっと手を振っただけで、あっという間に通り過ぎてしまった(後で義妹に聞いてわかったことだが、生中継リポートでゲスト参加していたコメディアン・みやぞんに人気を横取りされたらしい。そういえば、赤い派手なジャケットの芸能人らしき男性が通り過ぎたとき、沿道の若者から黄色い歓声が上がり沸き返っていたことを思い出した。海外帰りの私には、今の芸能界はよくわからないのだ)。
一方、利家の正室・お松(1547-1617)の方を演じたの紺野まひる(元宝塚歌劇団・雪組のトップ姫役だった、1977年生まれ)。主君登場前に、それらしきお姫さまがオープンカーで通過したが、沿道からは歓声すらあがらなかった。利家&お松登場のアナウンスがまったくなかったこともひとつの理由と思うが、やや拍子抜け(ちなみに、私は大和香林坊店の少し先の路上で見学)。
しかし、昨年の栗山千秋(1984年生まれ)が撮影禁止騒動で不評を買ったのに対し、今年は撮影OK、sns投稿も許可とあって、みな思うがままにスマホを向けていた。
もうひとつ、今年は企業・団体グループ約6000人の参加による踊り流しがあり、最後は百万石音頭に合わせて色とりどりの和装で舞う男女の輪が路上を埋め尽くし壮観、4年ぶりということで盛況を呈した。3日間の人出は、水際対策解除の効果もあり、外国人観衆も目立ち、昨年を5万上回るおよそ39万人を記録した。
恒例の金沢城公園・三の丸広場で行われた薪能(19時から21時)にも去年同様参加したが、仕舞いや狂言のあとの能の出し物(鵺=ぬえ、加賀宝生流)が今ひとつで、私はただライトアップしたお城(50間長屋)と、闇に火の粉を散らす篝火(かがりび)と、満月というムード満点の雰囲気だけに酔いしれて、肝心の舞台にはあまり身が入らなかった。
☆インド速報/オディシャ州で今世紀最悪の列車衝突事故発生
6月2日の現地時間18時55分(日本時間22時25分)、インド・オディシャ(Odisha)州のバラソール(Balasore地方のバハナガ・バザール=Bahanaga Bazar駅で、カルカッタ=現コルカタ=Kolkataの南270キロ)で、2列車と貨車の3本が絡む衝突事故が発生した(客車は脱線し横転・大破)。日本のニュースでも報道されたくらいの大事故で(死者288人、負傷者1200人)、私自身も現地の家族の安否確認に急いだ。
ラッパーとして各地のライブに飛び回る息子(芸名Rapper Big Deal)は移動手段はもっぱら飛行機なので、たぶん大丈夫と思ったが、列車のひとつ(Howrah Super Fast Express)がバンガロール(Bangalore=現Bengaluru)発ハウラー(Howrah=Kolkata)行きと現地報道にあったため(もうひとつは西ベンガル州シャリマール=Sharimarから南のチェンナイ=Chennai=旧マドラス行きのCoromandel Express)、ワッツアップで連絡、すぐにベースのある南のバンガロール在中とわかり、無事を確認できた。
なお、インドではこの手の鉄道事故は珍しくなく、過去何度も死者が出る脱線事故が発生していた。が、近年減少していたところに今回の大惨事発生で、インド政府は緊急に安全対策の見直しを迫られそうだ。
〇書評「おらおらでひとりいくぐも」(若竹千佐子著、河出書房新社、2017年)
遅ればせながら、5年半前(2018年)63歳の主婦が芥川賞を射止めたことで、話題になった小説を読んだ。「おらおらでひとりいくぐも」だが、2022年9月ドイツのリベラトゥール賞に輝いたことで(アジア・アフリカの女性作家に贈られ、日本作品は初選出)改めて見直され、私が購入した文庫(河出書房新社、2020年)の帯にも、外国の文学賞受賞の快挙を謳う宣伝文句が踊っていた。
先入観として、未亡人の老女が主人公で、岩手の方言が効果的に使われた実験的独白体ものと思っていたが、実際に読んでみると、印象はだいぶ違い、見えない世界との繋がりを描いたスピリチュアルな作品であることに感銘を受けた。
夫を亡くさなければ書けなかった小説で、自身も喪失体験を経ていただけに、何らかの共感があればとの思いで手に取ったものだが、読後の余韻は予想以上に強かった。
芥川賞受賞も納得の、技巧的にもよく計算された力作で、2年かかったというだけあって、入念に練られ、主人公が夫の死後体験する神秘現象も、我が体験に通ずるところがあり、自身も「見えない世界」をテーマに書いていこうと思っていたため、触発された。
内面の豊穣さを描いた作品でもあり、ベストセラーになって注目された新人作家のうわついたところはなく、大変真面目な生き方探求の、それも内面を探るインナートリップ作だが、外の世界ばかり追いかけている人には、目に見えない世界と当たり前のように会話する主人公は、認知症患者と映るかもしれない。
〇名画レビュー「離愁」(1973年、原題はLe train、仏伊合作映画、監督はピエール・グラニエ=ドフェール=Pierre Granier-Deferre、1927-2007)
戦争映画の名作との誉高い「離愁」を観た。原題「最後の列車」通り、時1940年、第2次世界大戦下ドイツ軍の侵攻を恐れ蒸気機関車で避難する北部フランスの村人たち、身重の妻と幼女を客車に残して貨車に乗り込んだラジオ修理工のジュリアン(ジャン・ルイ=トランティニャン、Jean-Louis Trintignant、1930-2022)は、途上の駅で乗り込んだドイツ生まれのユダヤ美女アンナ(ロミ・シュナイダー、Romy Schneider、1938-1982)と恋に陥る。
走行中の列車の、混雑する家畜車での絡み、戦時中とは思えない、フランスの田舎の牧歌的な風景を汽笛を鳴らしながらもくもくと蒸気をあげて駆け抜ける機関車、鉄道ファンにはたまらない魅力のロードムービーとしても楽しめる。
ごった返す車内では、食べたり飲んだり、愛し合ったり、人間臭い営みが繰り広げられるが、ドイツ軍の機銃掃射で日常が絶たれ、犠牲者が出たりと、改めて戦争の無惨さを思い知らされる。現代のロシア・ウクライナ(露宇)戦争に重ね合わせて、人間の愚かさを思わずにはいられなかった。
終始黒いドレス姿のロミ・シュナイダーは飾り気がないにもかかわらず、神秘的で気品に満ちた美しさで魅了した。衝撃のラストが、窮極の恋愛映画たる由縁、文句なしの名作、必見だ。
※昨年はロミ・シュナイダー没後40周年で、金沢市繁華街の香林坊にあるミニシアター・シネモンドでもロミ・シュナイダー映画祭と銘打って、10月22日から28日まで日替わりで7作品が公開された。「離愁」はいうまでもなく、ロミが元婚約者アラン・ドロン(Alain Delon、1935年生まれ)と組んだ「太陽は知っている」(1969年)も上映された。
(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からはインドからの「帰国記」として随時、掲載します。
モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子の「Rapper Big Deal」はラッパーとしては、インドを代表するスターです。
2023年6月20日現在(CoronaBoardによる)、世界の感染者数は6億8618万1641人(前日比2767人増)、死亡者数が688万7308人(47人増)、回復者数は6億1917万8613人(7149人増)。インドは感染者数が4499万3543人、死亡者数が53万1896人、回復者数が4445万9737人、アメリカに次いで2位になっています。
ちなみにアメリカの感染者数は1億0724万6335人(前日比2448人増)、死亡者数が116万7381人(47人増)、回復者数は1億0538万0329人(6187人増)。日本は5月8日以降は未公表。編集注は筆者と関係ありません)