時代遅れの主人公に、不思議な感覚になる「新インディ」(371)

【ケイシーの映画冗報=2023年7月6日】前回の「探偵マーロウ」に主演したリーアム・ニースン(Liam Neeson)は70歳でアクション・シーンをこなしていました。昨年、大ヒットした「トップガン マーヴェリック」(Top Gun: Maverick、2022年)では、体力的に40代が限界といわれるジェット戦闘機での高速飛行を、撮影当時56歳だったトム・クルーズ(Tom Cruise)がこなしています。

現在、一般公開されている「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」((C)2023 Lucasfilm Ltd.&TM.All Rights Reserved.)。

本作「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(Indiana Jones and the Dial of Destiny)の主役であるインディ・ジョーンズを演じたハリソン・フォード(Harrison Ford)は、79歳でアクションの撮影を見事にこなしています。さらには1981年にスタートした「レイダース/失われたアーク(聖櫃)」(Raiders of the Lost Ark)でスタートした「インディ・ジョーンズ」(Indiana Jones series)の劇場版全5作で主役となっています。実写作品で40年以上にわたって、同一の人物が主演をこなすというのは、ちょっと記憶になく、偉業というレベルではないでしょうか。

1944年、戦乱のヨーロッパ。ナチス・ドイツが収奪した考古学上の遺物をめぐり、考古学の教授であり、冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は潜入活動をしていましたが、目的を果たすことなく、なんとか戦地を離れることとなります。

1969年、人類初の月面着陸の成功に沸くアメリカの大学で、70歳となったインディは教授としての定年を迎えます。家族や友人たちとはなれ、孤独な彼のもとに旧友の娘だというヘレナ(演じるのはフィービー・ウォーラー=ブリッジ=Phoebe Waller-Bridge)が訪ねてきます。

ヘレナの父が第2次世界大戦(1939年9月1日から1945年9月2日まで)中にインディとともに探していた“運命のダイヤル”の手がかりをもとめていると彼女は言い、インディの助力を求めます。

最初は断ったインディでしたが、武装した集団に襲われたことから、冒険の旅に出ることを決意します。そのふたりを追うのは、アメリカ政府の後ろ楯をもった科学者フォラー(演じるのはマッツ・ミケルセン=Mads Mikkelsen)、かれは1944年、ナチス側の人物としてインディと対峙しており、自身の野望のために“運命のダイヤル”を追っていたのです。“運命のダイヤル”の真の力を解明したインディは、フォラーと対決する決意をかため、闘うことになるのでした。

1935年(2作目の「インディ・ ジョーンズ/魔宮の伝説(Indiana Jones and the Temple of Doom)」)から本作の設定である1969年までの35年間と同様に、第1作目から本作の完成まで、42年という年月が経過しています。

同じく「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」の別シーン。アメリカの興行収入は最初の3日間で6000万ドル(1ドル=140円換算で約84億円)。

1981年の「レイダース」から4作までの監督であり、本作では製作のスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)には、シリーズの当初からこんな発想があったそうです。2作目の「魔宮の伝説」のパンフレットでスピルバーグはこう語っています。
「ロマンチック・アドベンチャーとして、より単純に、より論理的に、より信じやすくするために、1935年という時代、すなわちロマンスがロマンスであった時代に物語を持ってきたのです」

製作時のおよそ50年前が作品の舞台であるということは本作にも通じるものがあります。若手ではありませんが、気鋭の学者だったインディが、教育者としての立場を離れるまでの時間と、演じるハリソンの重ねてきた年輪が作品内でもシンクロしており、自分のように1作目から劇場で見ている観客には、なんとも不思議な感覚を抱くとともに、時の流れを実感することになるでしょう。

1作目から伝承された設定や“お約束”もキッチリ、描かれています。陸海空と連続活劇を繰り広げながら、インディは馬を巧みに乗りこなしています。自動車もロケットもある時代にです。そもそも初登場のときからインディというキャラクターは、フェルト製でツバ広の帽子をかぶり、ムチをふるい、乗馬も巧みということから、西部開拓期のカウボーイを想起させるもので、すでに過去のイメージとなっていました。1935年の時点ですでに、インディは、クラシックな存在だったのです。

演じ続けたハリソン・フォードも語っています。
「インディはいつも時代に適合しません。彼の心と魂は、過去と、過去の謎、そして謎を発見する魅力に注がれているから」ということなので、私の見立てもそれなりに合致している、と勝手に考えています。

「40年以上に及んだインディアナ・ジョーンズの旅路は、とても幸せだった。このシリーズの撮影はすごく大変だったから、ついに終りを迎えられて嬉しいよ。後悔することは一切なく、観客にふさわしい作品を制作できたことに大きな喜びを感じている」(いずれもパンフレットより)

次回は「君たちはどう生きるか」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「インディ・ジョーンズ シリーズ(Indiana Jones series)」は1981年の「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」(Raiders of the Lost Ark)が第1作で、1984年の「魔宮の伝説」(Indiana Jones and the Temple of Doom)が第2作、1989年の「最後の聖戦」(Indiana Jones and the Last Crusade)が第3作で、2008年の「クリスタル・スカルの王国」(Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull)が第4作となる。

ジョージ・ルーカス(George Walton Lucas,Jr.、1944年生まれ)によって制作され、1作目の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」から4作目までスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg、1946年生まれ)が監督、ルーカスが製作総指揮を務めた。ハリソン・フォード(Harrison Ford、1942年生まれ)が演じる考古学者のインディアナ・ジョーンズ(愛称はインディ)を主人公とした冒険を描いている。

映像制作は「ルーカスフィルム・リミテッド(Lucasfilm Ltd. LLC)」(1971年設立)が手がけてきたが、2012年にウォルト・ディズニー・スタジオ(The Walt Disney Studios)に約40億ドル(1ドル=110円で約4400億円)で買収された。

5作目の「運命のダイヤル」ではジョージ・ルーカスが降板し、監督のスティーヴン・スピルバーグがプロデューサー(制作総指揮)を務め、ジェームズ・マンゴールド(James Mangold、1963年生まれ)が新たな監督に起用され、彼とジェズ・バターワース(Jeremy “Jez” Butterworth、1969年生まれ)、ジョン=ヘンリー・バターワース(John-Henry Butterworth、1976年生まれ)が共同脚本を務めている。

また、2013年にウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズがパラマウントより配給とマーケティングの権利を獲得し、第5弾からがディズニー配給となるが、前4作の権利はパラマウントに残り、第5弾以降の新作から製作協力として配当を受け取ることになっている。