監督と妻の出身や多民族国家を背景にした「マイエレメント」(374)

【ケイシーの映画冗報=2023年8月17日】本作「マイ・エレメント」(Elemental)のエレメント・シティでは、火・水・土・風という4つの“エレメント(元素)”がおたがいのテリトリーのなかで生活し、シティ全体で共存していました。

現在、一般公開中の「マイ・エレメント」((C)2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.)。制作費は2億ドル(1ドル=130円換算で約260億円)で、興行収入がアメリカ内外合わせて4億4364万ドル(約576億7320万円)。

“火”のエレメントであるエンバー(声の出演はリーア・ルイス=Leah Lewis、吹替えは川口春奈)は、移民1世である両親の経営する雑貨屋の跡取り娘として、両親の作った雑貨屋を継承していくことを、人生の目標としていました。

そんなエンバーの欠点はすぐに癇癪を起こし、文字どおりに“火を噴いて”しまうことです。ある日、セール中の店で猛烈に忙しくなったことからエンバーは灼熱し、店の地下室で水道管を破ってしまうのです。

水びたしになった地下室に流れ込んできたエレメントがいました。水道局の職員である青年ウェイド(声の出演はママデゥ・アティエ=Mamoudou Athie、吹替えは玉森裕太)は、エンバーの店が違法建築であり、現状では営業できないということを告げます。

「両親の店がなくなってしまう」と困惑するエンバーにウェイドはある提案をしました。
「シティの水道トラブルを二人で解決して、営業停止を猶予してもらおう」

水漏れの部分を自分の“火力”で補修したエンバーの功績が認められ、当面の営業は許されました。そして、ウェイドの自宅に招待されたエンバーは、彼が両家に生まれ、生活に困ることのない立場であることを知ります。

と、同時に、ウェイドの家族から自分の持つ芸術面の才能について、それを開花させる援助も約束してくれます。家族とともに自由に生きるウェイドを知り、自身の才能に気づいたことで、エンバーのなかに大きな変化が生じます。「本当に自分は稼業を継ぎたいのか」。そして、火のエレメント・シティに迫る重大な危機。エンバーの人生の決断は。

本作の監督ピーター・ソーン(Peter Sohn)は、ニューヨーク生まれの韓国系2世で、カリフォルニア芸術大学での学生時代からアニメーション映画の仕事に携わり、脚本家や演出部門て活躍する一方、アニメ作品の声優としても演技を披露している才人です。

両親が1970年代に韓国から渡ってきた移民であることは、ソーン監督に多大な影響を与えているはずです。
「火と水について、まず妻との関係を下敷きに考えました。僕は韓国人で、彼女は米国人とイタリア人のミックスです。僕の両親は保守的で、結婚相手には韓国人をと考えていたため、最初は僕らの関係を隠していました」

移民の国であるアメリカは、いろいろな国からの移民を受け入れることで国土を発展させてきました。“人種のサラダボウル”と呼ばれる多種・多民族の国家ですから、さまざまな軋轢や摩擦、世代間の軋轢などは生じてしまいます。

エンバーの一族は儒教的な文化の強い韓国系に、花火を好むといった中華圏の文化がミックスされたものとなっています。ソーン監督のその幼少期が取り入れられているのでしょう。

エンバーと交流する水のエレメントであるウェイドの家柄は、大家族で食事をするシーンや親族の名前からイタリア系がモデルだと感じます。水のエレメント・シティの移動手段に運河とゴンドラが使われているので、水の都ベニスを連想しました。

上記のようにソーン監督の妻はイタリア系とのことで、自身の家族関係がこの主人公カップルに投影されていることは確実です。

「両親は70年代初めに韓国から移住し、僕はニューヨークで生まれたものの、育った環境は韓国の伝統や言語、文化が取り巻いていました」(いずれもパンフレットより)

本作では、エレメント・シティが移民の世界であることを想起させる部分が秀逸で、一気に作品の世界へと引きこまれました。移民1世のカップルが船でたどりつき、名前を訊かれ、入国のスタンプをおされます。

なかなか住居が決まらず、先に来ていた他のエレメントから迫害を受けることも。やがて古びた建物を修繕して店をはじめ、子どもを授かったことでさらに奮起、身を粉にして働いて、同郷の仲間とともに店を発展させていく。

しかし、それは、あくまで“火のエレメント”のコミューン内の発展であり、シティはウェイドのような水のエレメント、行政は風や土のエレメントも担っていて現実世界の投影としてしっかり描かれており、子ども向けのアニメ作品ではありますが、中身の濃い作品となっています。次回は「MEG ザ・モンスターズ2」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。