金沢ジャズ祭、前夜祭で若いYuccoのサックスパワーが炸裂(138)

【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2023年10月10日】異常に暑かった夏も、9月も下旬に入り、ようやく矛先を緩めようとしている。

9月15日、「金沢ジャズストリート2023」の火蓋が切って落とされた。前夜祭で、華麗なるサックスパフォーマンスを披露するYucco Miller(石川四校記念館裏公園の野外ステージ)。

さて、まだ残暑のなごる9月、15日(前夜祭)から18日にかけて、金沢市では恒例のジャズフェスティバル、「金沢ジャズストリート2023」が開かれた。

ジャズ愛好家の私は今年も、前夜祭から駆けつけた。金沢市広坂にある石川四校記念館裏の公園に設けられた野外ステージには、大勢の観客が集まっていた。17時の開演から1時間以上を経過して、熱気がこもった会場は、キッチンカーも何台か出て、賑わっていた。

簡易椅子が並べられた観客席は埋まっており、私は立ち見の人に混じって観ていたが、後ろの花壇の縁に腰を下ろして鑑賞、Kanazawa Cooking Band(カナザワ・クッキング・バンド)が2人の外国人ゲスト奏者と繰り広げるジャズナンバー、特にアメリカ人フルート奏者がスペイン留学中に作曲したという哀愁に満ちたバラードがよかった。

20時から始まったステージでは、若くキュートな女性サキソフォ二ストがピアノやドラム、ギターのバンドを従え、堂々のソロサックス演奏、ベテラン顔負けの名演で酔いしれた。入口でもらったパンフレットを見ると、Yucco Miller’s(ユッコ・ミラーズ)とある(プロフィールは末尾)。

とにかく、この女性奏者がすごかった。男性顔負けの迫力で、パワフルな演奏に圧倒された。そのうち、最前列の席が空いたので移ったが、スピーカーの前で、炸裂するサックスパワーに鼓膜が破れそうだった。ともかく、演奏は素晴らしいの一言に尽きた。

9月16日、尾山神社の境内で、前夜祭とは違うカラフルなステージ衣装で、パワフルなサックスを披露するYucco Miller。モデルも兼ねるだけにルックス抜群、若きスターサクソフォ二ストの炸裂するパワーに観客は酔った。

昨年もコロナ後の3年ぶりの開催で、奏者にも熱がこもり、素晴らしかったが、今年は初日からこの迫力、辺りを席巻するサックスパワー、きらきらと光るシルバーのミニワンピースに長い髪をポニーテールにゆわえた華のある若い美女サキソフォ二ストは疲れも知らず、立て続けに演奏。ポップなジャズからオリジナルバラードまで、自在にこなし、可憐なルックスに似合わぬパワフルな演奏で、会場を沸かせた。

何度かジャズフェスに来ているが、前夜祭と最終日のファイナルステージが盛り上がるので、中日は見逃しても、前と終わりだけ観とけば間違いないというのが持論、素人のリスナー観である。

それにしても、今年はオープンニングが予想以上で、特にトリを務めたYuccoの大迫力には吹き飛んだ。50分の大熱演に会場は沸き、口笛やヤンヤヤンヤのはやし声、歓声、ブラボーの喝采が飛び交った。

翌16日は、17時から開催の尾山神社境内のステージに1時間遅れて着いたが、すごい人出で座れず、立ち見に甘んじた。昨夜のYuccoの迫力に魅了された若者が18時からの再演を狙って押し寄せているらしい。かくいう私もYucco目当てだったが、前日たっぷり聞かせてくれたのと違って、たったの4曲しか披露してくれず、がっかり。

次のグループのジャズが始まったが、ボーカルが下手くそなので退座、石川四校記念館に河岸(かし)替え、Manhattan(マンハッタン)という男性バンドのジャズ演奏を聞いた。男性サクソフォ二ストはそれなりにうまかったが、やはりYuccoの迫力には負ける。が、ベテランバンドらしく、そつのない演奏で鑑賞には充分耐えた。

残念だったのは、翌17日18時30分から尾山神社で催される予定だったスペインのサンセバスティアン(San Sebastian)からのバンド(Oreka=オレカ=TX)の来日が中止になったこと。バスク地方の幻の伝統楽器といわれる、チャラパルタ(Txalaparta、すりこぎ状の棒で板を打ち鳴らしリズムを奏でる)の演奏を楽しみにしていただけに、キャンセルにはがっかりさせられた。

尾山神社の3層の神門の高窓のステンドグラスが、斜陽に虹にきらめく。夕日の下のジャズステージは限りなく、ロマンチックだ。

金沢市はスペインのサンセバスティアン市とジャズフェスで姉妹提携、スペインのジャズ祭にならって、金沢ジャズ祭は始まったと聞く。尾山神社の境内に落ちる夕日を背景の外国人バンドの伝統楽器演奏を期待していただけに残念だった。

最終日、私は四校記念館のファイナルステージ(石川ジャズオーケストラ)に駆けつけたが、大抵は下手くそで聞くに耐えないジャズボーカルが、なかなかうまく、音程も狂わず、安心して伸びのある柔らかな声音に酔いしれた。

甘やかな「スターダスト」が会場を流れる。生憎の雨で星空は見えなかったが、観客は傘を差しながら、ラストナンバーの「L-O-V-E」(ナット・キング・コール=Nat King Cole、1919-1965=の1964年の大ヒット作)まで、手拍子を打ちながら、盛り上がった。最初と終わりが肝心、そういう意味では、今年の金沢ジャズストリートは去年以上に、大成功であった。

9月16日、石川四校記念館裏の公園ステージでジャズを披露するManhattanバンド。サックスの迫力はYuccoに劣るが、危なげない演奏を繰り広げた。

※以下は、去年のジャズフェスの模様をリポートしたもの。今年と比べてみていただきたい。

〇金沢ジャズストリート2022(9月17日から19日)
3年ぶりに開催された金沢最大のジャズイベント、ジャズ愛好家の私は、前夜祭から駆けつけ、四校記念館裏の公園広場で開催された野外コンサートを楽しんだ。ニューヨークベースのジャズピアニスト、山中千尋の生演奏も無料で聴けたが、ハイライトは2日目の尾山神社(加賀藩祖前田利家が祀られる)で催されたもので、高台にあるせいか、自然の音響効果が素晴らしく、小西佑果トリオの熱演、特にオーケストラアンサンブル金沢(OEK、石川県金沢市が本拠地のオーケストラで外国人8人含む団員33人、1988年から活動)のオーストラリア人バイオリニスト、ヴォーン・ヒューズ(Vaughan Hughes)が飛び入り参加したナンバーがよかった。

小西のコントラバス、他メンバーのピアノ・ドラムと共演、ジャズを奏でるバイオリンの美しい音色に聴き惚れた。勝るとも劣らない熱演を繰り広げたのが、我が郷里福井ベースのステップ・バイ・ステップ(Step by Step)というベテランバンド、MC(マイクコメント)の時間も惜しんで、渡辺貞夫ナンバーを立て続けに繰り広げ、酔った。

折しも、サンセットタイム、斜陽が社(やしろ)の3層神門(1875年に建てられた擬洋風建築は重要文化財)の最上階のギヤマン、中国風竜宮城式の建物にくり抜かれたステンドグラスに反映し、赤や緑にきらめく高窓を背景に、耳に染み入るジャズバラード、なんとも贅沢な時間であった。

後でわかったことだが、金沢のジャズフェスは14回目とかで(2023年は15周年)、スペインのサン・セバスティアンの国際ジャズフェスティバル(ジャサルディア、1966年開始のスペイン最古の歴史あるもので、毎年7月の第3週に5日間開催)と姉妹提携しているらしい。クオリティの高い野外演奏を日本の地方都市で無料で聴けるのは(有料の室内コンサートを含め、金沢市内の7会場から9会場で日替わり開催)、ジャズファンにはありがたくうれしく、客席には白髪混じりの中高年男性が目立ち、足踏みしたり、肩をゆすったり、軽快なリズムに乗っていた。

●ユッコ・ミラーのプロフィール
ユッコ・ミラー(Yucco Miller)は三重県伊勢市生まれ、2016年9月にキングレコードよりメジャーデビューし、テレビや雑誌を賑わす実力派のサックス奏者。3歳よりピアノを習い、高校で吹奏楽部に所属しアルトサックスを始める。在学中よりパリやウィーンなど、海外で演奏旅行をし、数々のコンテストにてグランプリなどを受賞している。

サックス奏者の河田健さん、ジャズ・サックス奏者の川嶋哲郎さん、アメリカのサックス奏者、エリック・マリエンサル(Eric Marienthal)さんに師事し、2015年にオランダのサックス奏者のキャンディー・ダルファー(Candy Dulfer)さん本人から演奏を気に入られ、キャンディー・ダルファーさんのブルーノート東京公演で異例のスペシャルゲストとして出演した。

2016年にグレン・ミラー・オーケストラ(Glenn Miller Orchestra)のジャパンツアーにスペシャルゲストとして出演を果たすなど国内外で活躍するトップミュージシャンと数多く共演した。韓国やマレーシアなどの海外でのジャズフェスティバルにも出演するなど、世界的に高い評価を得ている。

(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からはインドからの「帰国記」として随時、掲載します。

モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子の「Rapper Big Deal」はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2023年9月4日付で「CoronaBoard」によるコロナ感染者の数字の公表が終了したので、国別の掲載をやめます。編集注は筆者と関係ありません)