主役の矛盾した性格を魅せる監督に次作期待の新「イコライザ」(378)

【ケイシーの映画冗報=2023年10月12日】ひとくくりに“アクション映画”と表現しますが、どんなジャンルでも差異が生じるものです。前回の「ジョン・ウィック」(John Wick)シリーズでは、銃弾を受けながらも戦い続ける理由として、“防弾スーツ”が2作目(2017年「ジョン・ウィック:チャプター2」原題John Wick: Chapter 2)から登場しています。“激痛だが無傷”という設定は、至近距離で銃弾が飛び交う世界に一定のリアリティを見せています。

現在、一般公開中の「イコライザー THE FINAL(ザ・ファイナル)」。

本作「イコライザー THE FINAL(ザ・ファイナル)」(The Equalizer 3)も主人公は、もとは特殊工作員であったマッコール(演じるのはデンゼル・ワシントン=Denzel Washington)が「過去を捨て平穏な生活を望みながら、悪を叩きのめすという」アクション映画のひとつの類型となっているのは事実ですが、「武器は身近なアイテム(お湯のポットやクレジット・カード)」や「ナイフや銃は相手から奪う」といった他作品にも共通する部分がある一方で「バスや電車で移動(第1作)」や「評価を気にするタクシー運転手(2作目)」のような市民的な部分、悪と戦いながら「悪の道に墜ちそうな若人を善に導く」といった正義感もみせてくれます。

このあたりは演じるワシントンの飾らない人柄が投影されていると感じます。さらに、それを生かすのが20年でシリーズ3作をふくめてワシントンと5回、タッグを組んでいる監督のアントワーン・フークア(Antoine Fuqua)との結びつきと強く意識されます。
「私が自分の仕事をちゃんとやることをデンゼルは知っていて、(中略)私もデンゼルにについて何一つ心配することはありません」(パンフレットより)
フークア監督のこの言葉からは、お互いがもつ、プロの映画人としての自負と信頼が伝わってきます。

イタリアのシチリアで犯罪集団を壊滅させた“イコライザー”のマッコール(デンゼル・ワシントン)は、一瞬の油断から銃弾を受け、傷の深さから意識を失います。マッコールが意識をとりもどしたのは、ベッドの上でした。美しい海岸の町アマルフィの警官ジオ(演じるのはエウジェニオ・マストランドレア=Eugenio Mastrandrea)に助けられ、町の医師エンゾ(演じるのはレモ・ジローネ=Remo Girone)により、手術と手当てを受けたのです。

彼らをふくめ、町の人々は傷を負ったマッコールを温かく受け入れてくれました。体力を回復させながら、マッコールは古巣のCIAQに大きな違法薬物の取引があることを伝え、若い女性職員エマ(演じるのはダコタ・ファニング=Dakota Fanning)を指名する形で、イタリアでの任務に引きこみます。

平和な町であるアマルフィにイタリア・マフィアが進出し、支配しようとします。地元の警察は操られ、警官であるジオが家族ごと襲われたとき、マッコールが封印した“イコライザー”がふたたび動き始めるのでした。

“普通の市民から破壊の使者”へ瞬時に転じるのが、主人公であるマッコールのポイントです。1作目ではホームセンターの従業員、2作目はタクシーの運転手と、どこにでもいる人物として社会に溶け込んでいるのに、周囲への警戒心は染みついています。本作でも監視カメラを避けるシーンがあり、プロの心得がチラリと見えます。

また、潔癖症で不眠気味、妻を亡くした喪失感をかかえたまま、人生を歩んでいくという葛藤もはらんだ、深みのある人物像を、アカデミー主演男優賞に輝いた「トレーニング・デイ」(Training Day、2001年)の悪徳警官から本シリーズのような正義の仕置き人まで演じきるワシントンの表現力と、「トレーニング・デイ」からコンビを組む、フークワ監督の丁寧な描写があり、こちらも魅力的です。

同一監督の主演俳優でアクション映画のシリーズとなると、前回の「ジョン・ウィック」との近似は確かにありますが、数十人を相手に向かっていき、バタバタとなぎ倒していくジョン・ウィックに対し、マッコールが一度に倒すのは多くて5人ぐらいです。戦いの実情が後者に近いことは、容易に想像できるでしょう。

戦いに身を投じる理由が自分ではなく、女性や子どもが危害を加えられることが原因というのは、シリーズを通じてマッコールの優しさを際立たせています。一方で、戦いにおいては容赦なく相手を叩きつぶし、とくにボス格の相手には、苦痛を刻みつけるような振る舞いをしており、“優しさと恐ろしさの同居”という矛盾した部分の映像化も見事だと思います。

この3作でマッコールを演じたワシントンも来年で70歳。本シリーズも終結するとアナウンスされていますが、映画の世界で“ヒーローの復活”へのハードルは高くありません。ご子息のジョン・デヴィッド・ワシントン(John David Washington)も人気スターです。“若き日のマッコール”の登場も勝手に期待してしまいますね。次回は「カンダハル 突破せよ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。