終了後に観客席から拍手が起こるほど期待大の新「ゴジラ」(380)

【ケイシーの映画冗報=2023年11月9日】いまから69年前の1954年11月3日、世界の映画史に残る作品が公開されました。「ゴジラ」(Godzilla)です。

11月3日に一般公開された「ゴジラー1.0」((C)2023 TOHO CO.,LTD.)。初日から3日間で動員64万8600人、興収10億4100万円、興行通信社の映画ランキングで初週1位となった。2016年に興収82.5億円を記録した「シン・ゴジラ」との初日から3日間対比では、動員114.7%、興収122.8%と上回った。

元来は予定されていた日本の東宝とインドネシアとの合作映画が、撮影直前になって外交問題から消滅したことにより、急遽立ち上げられた企画で、社内での前評判も芳しいものではありませんでしたが、結果的には大ヒットを記録し、同年公開の邦画として「七人の侍」(Seven Samurai)に匹敵する知名度と評価を確立しています。

ゴジラ映画はハリウッドでもつくられ、2024年4月にもハリウッドのシリーズ作品の新作が予定されています。

日本での実写映画としては2016年に大ヒットした「シン・ゴジラ」に続くのが本作「ゴジラー1.0」で、邦画シリーズとしては30本目、11月3日に公開という、原典につらなる日付けとなっています。

第2次世界大戦(1939年9月1日から1945年9月2日)の末期、南海の孤島である大戸島に不時着した日本海軍のパイロットである敷島浩一(しきしま・こういち、演じるのは神木隆之介)は、その夜、上陸してきた巨大な生物に遭遇します。この島に伝わる“呉爾羅(ゴジラ)”に襲われた基地は壊滅し、生存者は敷島たち数人だけでした。

やがて終戦となり、復員した敷島は、焼け野原となった東京で、家族が亡くなったことを知ります。そして大石典子(演じるのは浜辺美波=みなみ)と、彼女が託された赤子と知り合い、共同生活を送ることになりました。

海軍軍人としての経験から、危険だが報酬の良い、日本近海に残された機雷の処分にあたっていた敷島は、原爆実験の影響で巨大化したゴジラに遭遇します。やがてゴジラは復興をはじめた東京に上陸し、その巨体と口から出す熱戦で破壊のかぎりをつくします。

機雷処理で一緒だった技術者の野田健治(演じるのは吉岡秀隆)の提案でゴジラを無力化する「海神(わだつみ)作戦」が立案され、敷島もパイロットとして参加する決意をします。敗戦のため、軍事力を失った日本の総力を結集して開始される海神作戦ですが、そのなかでも、敷島は非情な決意を秘めて、ゴジラと対峙するのでした。

前作が大ヒットした「シン・ゴジラ」ということで、本作の監督・脚本とVFX(視覚効果)を担当した山崎貴は、70年にわたる“ゴジラワールド”のどの位置に本作を置くか、思考を巡らせたそうです。

「『シン・ゴジラ』は東日本大震災を背負って描かれた作品で、災害としてのゴジラを描いた点でも本当に素晴らしかった。(中略)差別化という意味でも自分の得意な時代にゴジラを連れて行こうと。」(2023年11月2日付「スポーツ報知」)

山崎監督は、これまで戦前の戦争への行程を「アルキメデスの大戦」(2019年)で描き、大東亜戦争を「永遠の0」(2013年)で見せ、終戦後の復興を「ALWAYS(オールウェイズ)三丁目の夕日」シリーズ(2005年から2012年)で表現してきており、その経験を生かせる舞台として、大東亜戦争の末期からはじまるストーリーを選択したのでしょう。

歴史に詳しい友人によると、主人公の名字である“敷島”は、“日本国の別称”であり、かつて彼が配属されていた「神風特別攻撃隊」にもつながるのだそうです。

「ゴジラをCGで表現する」のは、69年前では不可能なことです。オリジナルのゴジラの映像を創出した円谷英二(つぶらや・えいじ、1901-1970)らは、短い準備期間のなか、試行錯誤をくり返して巨大な怪獣をスクリーンに登場させ、世界を驚かせたのです。

当時のキャスト・スタッフの大多数が戦時を体験していますし、実戦経験のある御仁も幾人も残っていたのですから、現在とはまるで違う状況下での撮影ということで、「ゴジラ」はまさに時代に沿った作品だったのです。

現在の視点で70年以上も前の世界を舞台としたこともあってか、「作中の設定や表現に違和感をおぼえた」といった感想も散見されますが、“ゴジラ”というビッグ・ネームを手がけるかぎり、厳しい意見が寄せられるのは必定でしょうし、山崎監督にも、その“覚悟”は充分にあるはずです。

「今回の劇中に『誰かが貧乏くじ引かなきゃいけねえんだよ』というセリフがありますけれど(後略)」(パンフレットより)と語る山崎監督ですが、決して“貧乏くじ”ではないはずです。鑑賞したのは封切り当日でしたが、映画の終了後に観客席から、少なからず拍手が寄せられました。

通常の上映では希有な出来事でしたので、1本の映画作品としての価値は、充分にあると確信しています。次回は「マーベルズ」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:2024年3月にアメリカで公開される「ゴジラvsコング」の続編「Godzilla x Kong:The New Empire」は東宝が2024年中に公開するが、タイトルを含め、詳細は決まっていない。2014年の「GODZILLA ゴジラ」から始動した「モンスターバース」の長編5作目にあたる。監督は2021年に公開された前作と同様、アダム・ウィンガード(Adam Wingard)が続投する。前作が「vs」だったのに対して、新作は「x」となっている。