多人種の俳優で構成され、女性が中心を担った「マーベルズ」(381)

【ケイシーの映画冗報=2023年11月23日】世界でもっとも成功した映画シリーズがアメリカの「マーベル・シネマティック・ユニバース」(Marvel Cinematic Universe、以下MCU)であることは間違いありません。

11月10日から一般公開されている「マーベルズ」((C)Marvel Studios 2023)。「キャプテン・マーベル」(2019年)の続編で、「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)の33作品目にあたる。

2008年の「アイアンマン」(Iron Man)からスタートした「マーベル・ブランドの作品を映像化し、同一の世界をつくり上げる」というアイディアで製作された映画群の、2021年までの27作品を合計した興行収入は全世界で250億ドル(1ドル=120円換算で約3兆円!!)と大きなものとなっていて、最新作がこの「マーベルズ」(The Marvels、2023年)となっています。

元はアメリカ空軍の女性パイロットで、圧倒的なパワーを持つ“キャプテン・マーベル”となったキャロル・ダンヴァース(演じるのはブリー・ラーソン=Brie Larson)は、たったひとりで宇宙空間にいました。強すぎるパワーは平時には必要とされないのでした。

そんな宇宙に遠く離れた空間を結合して、瞬間移動させる“ホール”ができ、キャプテン・マーベルも巻き込まれます。光のパワーを使うと、瞬時に空間を移動し、地球上空の宇宙ステーションや、地球上の一般的な家に送り込まれてしまうことになります。

キャプテン・マーベルは旧友の娘で、成長して宇宙飛行士になったモニカ・ランボー(演じるのはテヨナ・パリス=Teyonah Parris)と、アメリカに住むヒーロー好きの女子高生カマラ・カーン(演じるのはイマン・ヴェラーニ=Iman Vellani)と、パワーを使うたびに、お互いが入れ代わってしまうという状況になってしまいました。

キャプテン・マーベルは突然出来上がった“チーム”に困惑を隠せません。懐かしいながらもずっと音信不通だったマーベルに再会して混乱を隠せないモニカ。そして、カマラは憧れのスーパーヒーローとの対面で感動に包まれていました。孤独だったキャプテン・マーベルはその状況に困惑しながら、共闘を決意します。

相手は滅びつつある惑星クリーの指揮官ダー・ベン(演じるのはゾウイ・アシュトン=Zawe Ashton)。彼女は過去の因縁から、強い憎悪をキャプテン・マーベルに抱いています。ひとつの惑星の存亡を賭けた戦いの行方は。

本作でもっとも気を引かれたのが、白人男性のメイン・キャラクターが存在していないことです。主人公のキャプテン・マーベルのブリー・ラーソンは白人女性、モニカ役のテヨナ・パリスはアフリカ系ですし、カマラを演じたイマン・ヴェラーニも役柄と同じパキスタン系で、作中でも家族間のコミュニケーションの一部は母国語となっています。

本作の作品世界において、1980年代からキャプテン・マーベルと交流しているニック・ヒューリー役のサミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)もアフリカ系男性で、地球を守る防衛機関のリーダーです。マーベルズの女性3人と戦うダー・ベンも女性であり、配役されたゾウイ・アシュトンもアフリカはウガンダの血を引き、母方の祖父がウガンダの国家元首だったそうです。

さらには、キャプテン・マーベルと“政略的に結婚している”ヤン王子も韓国映画界の俳優パク・ソジュン(Park Seo-jun))が演じています。

ここしばらく、ハリウッドでは、多様な人種を描いた作品が増加傾向にあります。アメリカのアカデミー賞でも、2015年にネットを中心に“白すぎる(=白人ばかり)オスカー(#OscarSoWhite)”と否定的なコメントが出され、それからは変化を感じます。実際、今年のアカデミー賞では、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(Everything Everywhere All at Once)が、監督・脚本、そして主演した夫婦も出自が中国系として、主要7部門で受賞しています。

今日では、女性監督やアフリカ系監督もアカデミー賞の常連となっており、変革を見せていますが、「まだまだ」という意見もあります。

とはいえ、15年にわたるMCUシリーズの作品で、ここまで徹底してマイノリティ(少数者、アメリカでは非白人の要素が強い)が主要なキャラクターとなっていることは、現代の世相を投影しているのでしょうか。

世界には学閥や派閥といった比較的小さなものから民族や宗教、人種や世代間といったさまざまな摩擦や対立、抗争があることは周知の事実ですし、それが悲劇に繋がることもめずらしくありません。

先だってハリウッドの映画界でも今後の映像作品の製作について、脚本家や俳優陣によるストが決行されました。現在では一定の解決をみたようですが、あらたな軋轢が生じる可能性は否定できません。せめてエンターテインメントの世界では、争いが解決する状況を観たいと、願ってやみません。次回は「首」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:「MCU」については、2022年11月24日の【ケイシーの映画冗報】(https://ginzanews.net/?page_id=60837)を参照。