インド、コロナ回復率93%に、新規を超える州も、邦人が感染(51)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年12月11日】インドの総感染者数は11月20日に900万人を突破し、1日当たり4万5000人前後で推移し続けている(5万人以下は16日連続)。23日は914万人(死者数13万4000人)だが、実質数は50万人台、回復率が93.68%と目覚ましいせいで、欧米の方がはるかに深刻だ。

3階の私邸のベランダで、亡夫の一周忌のプジャ(祈祷儀式)のための準備にいそしむヒンドゥ僧。

既にインド全土の検査数は1億3000万回と、10人に1人が受けた計算になり、回数面でも、世界の先進国に引けを取らない。来月半ばには、総感染者数は1000万人を超えるだろうが、世界のワースト5カ国中、実質陽性者数と死者数は1番少ない。そういう意味では、インドのコロナ対策はある程度は成功を収めたと言えるかもしれない。

当オディシャ州(Odisha)も30万人突破で、死者数も1600人超だが、実質数は7000人台と縮小、回復率が極めて高い。だが、知事夫人がコロナで3週間の入院の末、23日74歳で永眠した。ガネーシュ・ラル(Ganes Lal)知事はじめの7人家族が感染していたのだが、1人だけ重症に陥り、帰らぬ人となった。要人の配偶者の訃報に、州首相はじめ地元政界の重鎮からお悔やみの声が次々と寄せられた。

ほぼ全土鈍化傾向だが、首都デリー(Delhi、感染者数53万人、新規6746人)が第3波で、ここ数日、1日あたりの感染者数が8000人前後と急増している。しかしながら、再ロックダウン(都市封鎖)は今のところないようだ。

火を炊くヒンドゥ独自の祭式が始まった。木杓子でギー(純製バター)を火中に注いで、火力を強める。お経のマントラ(真言)が風に乗って朗々と響き渡る。

あと、ケララ州(Kerala、56万3000人、新規5254人)も第3波だが、回復者数が新規感染者数を上回るのが救いだ。北西インド・グジャラート州(Gujarat、総数19万7000人、新規1495人)の最大都市アーメダバード(Ahmedabad、総数4万7309人)も、11月14日のディワリー祭(diwali、西インドでは旧正月祭)後急増、スーラト(Surat)、ラジコット(Rajkot)、バドーダラ(Vadodara)3地域と共に20日から23日の21時から6時まで夜間外出禁止令が敷かれた。禁止令は、違反者350人以上が検挙されたせいで、12月7日までの延長が決まった。

日系企業の在留邦人も何人か感染し、アーメダバード市内の病院に入院したと伝えられている。グジャラート州は、現モディ首相(Narendra Damodardas Modi)が、過去州首相を務め、外資系の企業誘致に人一倍力を入れたため、インド有数の発展州でもあるのだ。陽性率4.5%と、国内5位(デリーが10.1%でトップ)、致死率も1.5%と過去最高を記録、集中治療室(ICU)の空きも逼迫しているのが懸念される。

感染最悪州のマハラシュトラ(Maharashtra)は、これを受け、第2・3波地帯(デリー、ラジャスタン=Rajasthan、ゴア=Goa、グジャラート)からの旅行者の入域は、陰性証明書なしに禁止する措置を早急に打ち出した。総感染者数175万人弱の同州は(唯一のミリオン突破州)、回復率も他州に比べると低く、実質陽性者数はいまだ13万人台であるだけに、緊急の警戒心を持っても致し方ない。

プジャ終了後の光景。手前から、椰子の実が焼かれて黒焦げになった残骸。悪が焼き払われた意味を持ち、後刻、中の香ばしい白い実を戴く。バナナの葉に盛られた米菓子やフルーツのお供え物、3角屋根の下に当地プリーのシンボル、ジャガンナート神(化身のひとつがブッダの宇宙の主)をはじめとする三位一体神の肖像画、1番奥に亡夫の遺影。

さて、私事ながら、11月22日は亡夫の一周忌だった。あいにく私が日本に帰国中に心筋梗塞で急死されたため、死に目にもあえず、葬儀にも参列できなかったが、折りしもコロナ下という大変な時期、何とか近親者3人と、僧1人のみの少人数のプライベートな儀式を済ませることができて、ほっとした。ヒンドゥ暦で12月10日に大規模な儀式を控えているが、まずは日本はじめの大方の世界の慣習に則っての一周忌を一足先に終えてひと息である。

長いようで短かったこの1年、訃報を受けたのは、ついこの間のことのようにも思えるのに、もう1年もの歳月が流れてしまったのだと、感慨深い。悲しみはいまだ癒えぬが、年内には、気持ちの整理をつけて、来年は再生へのスタートを切りたい。

まだ、進退がはっきりせず、迷いの中にあるが、来春には帰国を予定しているし、今後の方向性だけでも見定めておきたい。

コロナ禍で、人生の歯車が予期せぬ方向に狂ったが、試練の中で、かえって思索を深められて、よかったような気もする。こういう災難時こそ、人間の真価が問われるし、鍛えられるものだ。

インドの片田舎に依然封じ込められているが、コロナ囚人の枷から解かれて、自由に羽ばたける日を夢見ている。

●極私的動画レビュー/映画「銀座の恋の物語」

石原裕次郎(いしはら・ゆうじろう、1934-1987)主演の往年の映画にハマっていることは、お伝えした通りだが、前回の「陽の当たる坂道」に続いて、レビュー第2弾をお届けする。

浅丘ルリ子(あさおか・るりこ)とのゴールデンコンビの「銀座の恋の物語」(日活、1962年)。主演の裕次郎自らが歌う主題歌(1961年、牧村旬子=まきむら・じゅんこ=とのデュエットでテイチクレコードから発売)が、いまだに人気カラオケソングとして健在なので、題名を聞いただけでピンと来る、若めの世代もあろう。

裕次郎全盛期とは若干ずれる年配の私も、かの有名なデュエットソングが、翌1962年同名映画の主題歌になっていたとは、全く知らなかった。

裕次郎扮する売れない絵描きと、浅丘ルリ子扮する美人お針子の純愛物語は、1960年代の銀座の街並み、和光の時計台や、松屋デパート、銀ブラする男女の往時のファッションなども楽しめて、興味深い。

若かりし頃の浅丘ルリ子は、化粧も濃くなく、清楚なキュートさ、肌白のきめ細かなナチュラル美で新鮮だ。そのくせ、この時期やはり裕次郎とのコンビで人気を博した清純派・芦川(あしかわ)いづみと比べると、華があり、今でも通用するモダンさも備えている。やはり、裕次郎とのコンビの「夕陽の丘」(日活、1964年)では、ヤクザの女と、清純な妹の1人2役で見せる。

1960年のジャズブームを反映して、ライブシーンがあり、ジェリー藤尾(じぇりー・ふじお)のピアノが、古き良き時代を偲ばせる。

〇銀恋こぼれ話

定番カラオケソング、「銀恋」が日比谷線の銀座駅の発車メロディ(発車サイン音)に用いられていることをご存じだろうか。2015年に東京地下鉄のホームページで発車メロディに使う楽曲をリクエストしたところ、銀恋が1位に選ばれ、2016年から3秒バージョンが日比谷線銀座駅で使われだし、2020年からは、北千住駅と中目黒駅を除く全駅で7秒バージョンが流れているそうな。

銀恋にまつわるエピソードをもうひとつ、1990年には、銀座連合会と、西銀座通り会と、テイチクの3者により、ゆかりの地である銀座に、歌碑も建立されたとのこと、銀座通でも、意外に知らない事実なのではなかろうか。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

12月2日現在、インドの感染者数は946万2809人、死亡者数が13万7621人、回復者が888万9585人、アメリカに次いで2位になっています。アメリカの感染者数は1371万4024人、死亡者数が27万0532人、回復者が522万6581人です。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)