インド、歯止めかからない感染拡大、6月の日本便欠航に(15)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年5月22日】5月16日現在で、全土の感染者数は8万5940人(回復者3万0153人、死者2752人)、中国の公表数字を抜いて、さらに増大しそうな勢いである。1日4000人前後で推移をしているから、5月末までに15万人台に達することは間違いない。

私邸のベランダから見下ろすホテル街のメインロードに、パイプ資材を運ぶ労務者の姿が。自主緩和で人やバイクもちらほら、少しずつ日常の営みが戻りつつある。

西インドのマハラシュトラ州(Maharashtra、2万7524人)が最悪なのは変わらないが、2位だった西のグジャラート州(Gujarat、9591人)を抜いて、南のタミルナドゥ州(Tamil Nadu、9674人)が浮上、3月半ばに首都デリー(Delhi)で行なわれたイスラム集会の信徒が持ち帰り、南インド最大の感染拡大州となったいきさつがあった。

当オディシャ州(Odisha)も611人と急増、これは前回述べたように、グジャラート州のスーラト(Surat)をはじめ、都市部に出稼ぎに行っていた自州労働者を受け入れたせいで、隔離センターでの陽性反応続出の結果である。

感染拡大に歯止めがかからない中、17日で一旦終わるロックダウン(都市封鎖)の延長は必至で、まもなく、正式な発表があるはずである。

なんせ、広大な亜大陸、28州ある州政府の延長に対する受け止め方はさまざまで、感染率の高い州は5月末までのさらなる強化措置を求めているが、比較的コントロールされている州は、緩和要請、中央政府としても、ロックダウンについて意見がまちまちの州をまとめるのが大変だが、これまでのような厳格な措置は、レッド・ゾーンを除いては、若干緩められるのではないかと思う。

屋上から、隣のヒンドゥテンプルの伽藍が夕刻、シルエットになって浮かび上がるのを愛でる。今日もロックダウン下の暑い一日が終わった……

ただし、当州は例外、州首相の厳格な対応ぶりからも、全土に3日先駆けて3月22日から始まった完全封鎖措置が緩和されるとは思えない。グリーン・ゾーンを除いて情状酌量なしは間違いないどころか、コロナフリー地域も、自粛続行を強いられる可能性は高い。

ヒンドゥ教の4大聖地として名高い当プリー(Puri)は、前回で触れたように、感染者が3人出ているのでオレンジ・ゾーン、延長こそあれ、緩和はまずありえない。

とはいえ、中央政府が5月4日から段階的緩和を進めているので、これを受けて住民が自主的に緩和に走り、以前と比べて交通量や人通りも増えた。

買い出し以外の外出禁止という、完全封鎖が2カ月近くも続くと、人はさすがに疲れてくるし、元々がルーズな国民性のため、気も緩み、用がなくとも外に出たかるものだ。経済活動も少しずつ動き出している。

とにかく、貧困層が多いので、いついつまでも家にこもっていては、おまんまの食い上げである。政府の補償なんて、当てにならない。少しでも職にありつけそうなら、外に出てめぼしいところを当たるしかない。貧民だけでない、観光業も大打撃、死活問題である。

そんな中、案の定、私と息子が搭乗予定だった6月8日のムンバイ(Mumbai)発成田行きの全日空便が欠航、これで2度目、覚悟していたとはいえ、ショックを受けている。恐らく、商業便は2、3カ月は飛ばないのではないかと思う。

となると、コスト高の往路のみの臨時便を利用するしかないわけで、日本の友人の中には、早急に領事館にヘルプを求めた方がいいとアドバイスする人もいるのだが、私一人のことでなく、感染最悪州の息子をどうするかという問題もあるので、悩みは尽きない。

地元の缶ビール、写真右がかわせみラベルの「キングフィッシャー・ストロング」、左が同じ銘柄のラガービール。

ただ、制限本数はあるものの、12日から列車が動きだし、そろそろ国内便再開の動きもあり、北隣の西ベンガル州(West Bengal)都コルカタ(Kolkata)の国際線が一部復旧するとの情報もあるので、推移を見て、脱出ルートを探るしかない。

このところ、私の頭にこびりついて離れないイメージは、日本行きの機内で息子とアサヒスーパードライで乾杯している光景、つまみは柿の種、日本酒愛好家の息子の2杯目は宮城県産銘酒「一ノ蔵」である。

●現地コロナ余話

インドで、コロナ禍の予言を的中させたと話題になっている占星術師がいる。弱冠14歳の少年、アビギャ・アナンド君だ。昨年8月22日にリリースしたユーチューブ(YouTube)動画で、「2019年末にウイルスパンデミックが発生し、3月29日から4月2日にかけて状況悪化、5月29日に減少しだし、6月中は何ひとついいことが起こらないが、7月には収束する」とのことで、それがほんとならうれしい。

が、ぬか喜びするなかれ、12月20日にスーパー耐性菌が跋扈しだし、数時間内に人がバタバタ倒れ死に、2021年3月までの3カ月間猛威を振るうそうな。こちらは当たってほしくないが、一般見識でも、第2・3波が取りざたされているし、ありうる筋書きではある。ということは、新型コロナにサバイバルしても、近い将来、さらなる激闘が待ち構えているというわけで、まだまだ防御の手を緩めることはできないようだ。21世紀の人類と、未知のウイルスの闘いは当面続く。

●身辺こぼれ話

53日ぶりに缶ビールを飲んだ(ロックダウン中はリカーショップは休業要請で入手不可だが、3月半ばに買ってストックしてあったもの)。つまみは、焼きそば、ジャーマンポテト、チーズカナッペ、ゆで卵、冷やしトマトなど、久々に飲む現地製ビールはサイコーだった。かわせみラベルのキングフィッシャー・ストロングと同じ銘柄のラガービールがあり、ストロングの方がコクがあっておいしいが、私には強すぎるので、水割りにして飲むのが定番。

若い頃は酒豪で鳴らした私も、年とともにめっきり弱くなって、現地では、月一度ワインかビールを飲むくらい。コロナ禍でリカーショップ(インドではワインショップが通称)が閉まって、左党は辛い思いをしたようだが、私は非常事態に対処するのに精一杯で飲酒する気持ちの余裕がなかった。

やっとたまにはビールでも飲んで暑気払いするかというゆとりを取り戻したわけで、わが暮らしも少しずつ日常を取り戻しつつある。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日までに延長することを決めました。これにより延べ67日間となります。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

5月22日現在、インドの感染者数は11万8501人、死亡48553人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」と分類していますが、原稿では、日本向けなので、すべてを「ロックダウン」と総称しています)

著者注:インドの占星術は、誕生日時から精密に割り出し計算されるため、正確度が高いことで定評がある。