親友に決断を否定された世界を描いた新「シュガーラッシュ」(254)

【ケイシーの映画冗報=2019年1月10日】新年、はじめての「映画冗報」となります。本年もよろしくお願いいたします。間もなく終わりを迎える「平成」ですが、この30年間でもっとも社会を変えたのが、インターネットと携帯電話で間違いないでしょう。アメリカでインターネットの商用サービスがスタートしたのが1988年、平成が1989年からですので、ほぼ同時期でした。

現在、一般公開中の「シュガー・ラッシュ オンライン」((C)2018 Disney. All Rights Reserved.)。

ネットと携帯、この両者と密接に関わっているのがゲームの世界です。1989年の国内ゲーム市場はおよそ3500億円ですが、2017年には1兆5686億円に拡大しています。

ゲームセンターに並んだゲーム・マシンの中で活躍しているキャラクターたちが、ゲームの稼働していない時間をどう過ごしているのか?この問いかけを膨らませて、「プレイされていないゲームの世界」を描いて大ヒットを記録した「シュガーラッシュ」(Wreck-It Ralph、2013年)です。

その続編が本作「シュガーラッシュ オンライン」(Ralph Breaks the Internet)です。ゲームセンターのゲームマシンの中で活躍する少女レーサーのヴァネロペ(声の出演はサラ・シルバーマン=Sarah Silverman)は、ゲームで悪役を演じているが、本当は心の優しい大男ラルフ(声の出演はジョン・C・ライリー=John Christopher Reilly)と、無二の親友として「ゲーム以外の時間」を楽しんでいました。

ある日、ヴァネロペの活躍するレース・ゲーム「シュガーラッシュ」のゲーム機が壊れてしまいました。修理することができないため、ゲーム機ごと「シュガーラッシュ」もヴァネロペも処分されそうになります。ヴァネロペやラルフが調べてみると、インターネットのショップ内に補修部品があることを知ります。

「シュガーラッシュ」消滅の危機を救うため、ヴァネロペとラルフは、広大なインターネットの世界へと飛びこんでいくのでした。「なんでもあり、なんでもできる」インターネットの中で、新たな発見や出会いを経験するふたり。

インターネットの負の一面を知ったラルフは、安全なゲームセンターへの回帰をのぞみますが、「ゲーム」という強制的なルールに縛られない世界を知ったヴァネロペにとって、ゲームセンターは退屈な日常でしかなくなり、「シュガーラッシュ」の世界に戻ることを拒否します。

決裂してしまうヴァネロペとラルフ。仲直りのためにラルフのとった行動が、やがてネット全体の危機へと発展してしまうのでした。

前作は、「限定された世界で決められた役柄を演じ続けるのはどういうことか?」というテーマで描かれていました。「ゲームの中のキャラクターは固定された役割をはなれてはならない」、この原則にあらがったラルフとヴァネロペの行動で、ストーリーが展開していきました。

本作のテーマは「新しい世界に遭遇したとき、ひとりなら勝手にできるが、友達が一緒ならどうするのか?」ということだと感じました。人の一生にはさまざまな転機が訪れますが、無二の親友に自分の決断を否定されたら、どう判断するのか?

前作の監督(兼ストーリー)であるリッチ・ムーア(Rich Moore)とともに本作で共同監督(脚本・ストーリー)をつとめたフィル・ジョンストン(Phil Johnston) は、「僕は短所のあるキャラクターが大好き。欠点があるからより大きくなれるし、面白い物語を紡げる」(2018年12月14日付「読売新聞」夕刊)と述べています。

優しい大男であるラルフは、やもすると〈やりすぎ〉てしまい、破壊と混乱を巻き起こしてしまいますし。ヴァネロペもレーサーという設定からか、〈一直線に〉つき進み、周囲が見えなくなってしまうことがあります。

両者が飛びこんだインターネットの世界は、「じつに魅力的だが、恐ろしく危険」という二面性を持っています。「ネットは機能的だが、人を傷つける負の側面もある。2人の友情を描く上でも、そうしたネガティブな要素を描かないわけにはいかなかった」(前掲紙)。

いま、大作や話題作への出演が決まったハリウッドスターが、一番やってはいけないのが、「ネット上での評価を確認する」いわゆる〈エゴ・サーチ〉なのだそうです。悪口雑言の集中砲火を覚悟しなければならないそうで、作中でもラルフが似たような経験をしています。

その一方、ヴァネロペは歴代のディズニー作品のヒロインたちから、困難を乗り越えるヒントを得ます。これはインターネット上でのやりとりから救われた事例をあつかったのでしょう。いまのところ、集合知という意味で、ネットが斎場であるのは間違いありませんから。

「子ども向けアニメ作品」ではありますが、現代社会や人生にも真正面から向き合った良作で、おすすめします。次回は「MILE(マイル)22」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。