CGにより機械の姿、大きな瞳と「マンガ的」に描いた「アリータ」(258)

【ケイシーの映画冗報=2019年3月7日】全世界での映画興収第1位「アバター」(Avatar、2009年)と第2位の「タイタニック」(Titanic、1997年)を監督したジェームズ・キャメロン(James Cameron)は、日本のマンガやアニメの熱心なファンとしても知られています。実際に日本のマンガ「子連れ狼」やアニメ「マッハGoGoGo」(英語圏ではSpeed Racer)のTシャツを着ている映像があります。

現在、一般公開中の「アリータ バトル・エンジェル」((C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation)。制作費が1億7000万ドル(約170億円)で、興行収入が世界で3億5045万ドル(約350億4500万円)にのぼっている。

そんなキャメロンが20年以上前から映画化権を獲得していた企画が、日本人の木城(きしろ)ゆきとによるSFコミック「銃夢」(がんむ)でした。「銃夢」は常にキャメロン監督の予定作品として記されてきましたが、自身の成功作「アバター」のシリーズを優先せざるを得なくなり、宙に浮いたかたちとなっていました。ところが、SF映画と相性の良いロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)によって映画化されたのが本作「アリータ バトル・エンジェル」(Alita:Battle Angel)です。

300年前の大戦で天空に浮かぶ理想郷“ザレム”とそこに物資を送っては廃棄物を返される“アイアンシティ”とに二極化された世界。“アイアンシティ”でサイバー医師として活動していたイド(演じるのはクリストフ・ヴァルツ=Christoph Waltz)博士は、“ザレム”から落とされた廃棄物の中から少女の頭部を発見します。

イドは少女にメカの体をあたえ、アリータ(演じるのはローサ・サラザール=Rosa Salazar)と名付けます。アリータは、すべての記憶を失っていました。犯罪が横行する危険な“アイアンシティ”で、父親がわりとなったイドや少年ヒューゴ(演じるのはキーアン・ジョンソン=Keean Johnson)たちとの交流で感情や愛情を持つようになったアリータでしたが、その一方で自身に秘められた破壊衝動に戸惑います。

本来の彼女は、300年前の戦いで失われたテクノロジーで作られた戦闘用サイボーグだったのです。

“アイアンシティ”で最大の娯楽であるモーターボールでチャンピオンになれば“ザレム”に行けるということ知ったアリータは、記憶の手がかりを求めてモーターボールに参加します。全員が敵という状況で戦い抜くアリータ。しかし、アリータだけでなくヒューゴにも危険が迫っていました。

日本発の作品がハリウッドや他国で映画化されることは、さほど珍しいことではなくなってきましたが、それでも文化や生活習慣など、日本産の作品を他の文明圏にスムーズに移行させていくことは難事となっています。

かつて、左側で綴じる本がほとんどの英語圏では、本の右を綴じる日本のコミックは、左右反転した状態の英訳でした。ニンジャもサムライもみんな左利きになっていたのです。これは日本の作家や出版社が努力して、現在では日本と同じ右綴じの英訳本が出されています。

主人公アリータは、演じたサラザールの容姿がCG映像で機械の姿に置き換えられ、とくのその瞳は、ディフォルメされた大きなものとなっています。「漫画的で違和感を感じる」という意見もありますが、人間とサイボーグの混在した世界間の構築には効果があったと思います。

「漫画のスタイルに従った。目を通して、いろいろな感情が伝わる。大きい分、クローズアップでなくても彼女が感じていることがわかる」(2019年3月1日付「読売新聞」夕刊)とロドリゲス監督がコメントしています。

演技や表現という世界には、強調したり縮小させたり、あるいは省略してしまうといった“現実から離れた描写”の存在は当然といえます。そこに演者の個性や演出の意図がふくまれることによって、作品全体が形作られていくのですから。

「舞台はさまざまな人が集まった人種の坩堝(るつぼ)のような都市」(前掲紙)と語るロドリゲス監督の言葉どおり、“アイアンシティ”は異国というより、多国籍(無国籍?) な世界となっています。

日本人としては戦後の闇市がイメージされるのではないでしょうか。実際、焼け野原となった日本の子どもたちが憧れたある食べ物を、アリータが頬張るシーンがあることから、まったくの的外れではないと思うのですが。

原作は日本、製作と共同脚本のキャメロンはカナダ出身のスコットランド系、ロドリゲス監督とアリータ役のサラザールはアメリカ生まれのラティーノ(ラテン系)で、イド博士役のヴァルツはオーストリア出身と、こちらもバラエティー豊かで多国籍な世界となっています。

「日本生まれのハリウッド超大作」、こうした作品は、今後も生まれてくるはずです。映像作品としての評価とは別な意味で、ひとつのフォーマットとして、本作は記憶されることと思います。次回は「グリーン・ブック」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「銃夢」は集英社「ビジネスジャンプ」で1990年から1995年にかけて連載され、単行本は全9巻が発売された。1998年からB5判の愛蔵版(全6巻)が発行され、愛蔵版には作品完結後に発表された外伝3本が収録されている。

続編「銃夢 LastOrder」への流れに合わせて、結末部分が差し替えられている。2010年6月には新装版(全7巻)が発売されたが、集英社とのセリフ問題により、続編の連載は終了し、講談社に移り、講談社「イブニング」の2014年22号より、「銃夢」の前日談と「銃夢 LastOrder」の後日談を描く「最終章」と銘打たれた続編「銃夢火星戦記」を連載している。