三菱美術館でラファエル前派展、ターナー、モリスら150点

【銀座新聞ニュース=2019年3月12日】不動産業界国内3位の三菱地所(千代田区大手町1-1-1、大手町パークビル、03-3287-5100)が運営する三菱一号館美術館(千代田区丸の内2-6-2、03-5777-8600)は3月14日から6月9日まで「ラスキン生誕200年記念ラファエル前派の軌跡展」を開く。

三菱一号館美術館で3月14日から6月9日まで開かれる「ラスキン生誕200年記念ラファエル前派の軌跡展」のフライヤー(作品はダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」(1863年から1868年頃、ラッセル=コーツ美術館(C)Russell-Cotes Art Gallery&Museum、Bournemouth)。

19世紀英国で結成された芸術家グループ「ラファエル前派(Pre-Raphaelite Brotherhood)」の作品約150点を展示する。風景画のJ.M.W.ターナー(Joseph Mallord William Turner、1775-1851)をはじめ、エドワード・バーン=ジョーンズ(Sir Edward Coley Burne-Jones、1833-1898)、ウィリアム・モリス(William Morris、1834-1896)らビクトリア朝の英国を代表する芸術家の作品を展示する。

1848年にダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti、1828-1882)らが結成した「ラファエル前派兄弟団」は、英国美術の全面的な刷新をめざして世の中に衝撃をもたらしたとされている。その作品は、「観る者の心に訴えかけ、広く共感を呼び、人々は、社会の基盤が移りゆくなかで、彼らの芸術に大きな意義を見出した」としている。

その精神的な指導者であるジョン・ラスキン(John Ruskin、1819-1900)は、あらゆる人にかかわる芸術の必要性を説く一方で、彼らとエドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリス、風景画家J.M.Wターナーとを関連づけて考察した。

今回は、英米の美術館に所蔵される油彩画や水彩画、素描、ステンドグラス、タペストリ、家具など約150点を展示し、彼らの功績をたどる。

同じく出品されるエドワード・バーン=ジョーンズ「赦しの樹」(1881年から1882年、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー(C)National Museums Liverpool、Lady Lever Art Gallery)。

ウイキペディアによると、ラファエル前派はビクトリア朝(Victorian era、ビクトリア女王が統治していた1837年から1901年の期間)の英国で活動した美術家、批評家などから成るグループで、19世紀後半の西洋美術において、印象派とならぶ一大運動であった象徴主義美術の先駆と考えられている。

ラファエル前派は、1848年、ロイヤル・アカデミー付属美術学校の学生であったダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti、1828-1882)、ウィリアム・ホルマン・ハント(William Holman Hunt、1827-1910)、ジョン・エヴァレット・ミレイ(Sir John Everett Millais、1829-1896)の3人の画家によって結成された。

少し後にダンテ・ゲイブリエルの弟、ウィリアム・マイケル・ロセッティ(William Michael Rossetti、1829-1919)、ジェームズ・コリンソン(James Collinson、1825-1881)、フレデリック・ジョージ・スティーヴンス(Frederic George Stephens、1827-1907)、トーマス・ウールナー(Thomas Woolner、1825-1892)が加わった。これがラファエル前派のメンバーという。

「ラファエル」とはイタリア・ルネサンスの古典主義の完成者であり、その後のアカデミズムにおいて規範とされたラファエロ(Raffaello Santi、1483-1520)を指している。「ラファエロ以前」という言葉には、19世紀のアカデミーにおける古典偏重の美術教育に異を唱える意味があり、彼らはラファエロ以前の芸術、すなわち中世や初期ルネサンスの芸術を範とした。

「兄弟団」とは、元々宗教的結社を指すもので、これは日本語の「派」よりも、かなり限定的な意味を持つ言葉で、この美的な信条を共にする集団という着想をナザレ派から得た。1849年から自らの絵画に頭文字からなる「P.R.B.」と署名したが、当初、これが何を意味するのか、周囲にはわからなかった。ここにも、彼らの秘密結社性を確認することができるとしている。

ウィリアム・マイケル・ロセッティは、後年、結成当時の理念を以下のように整理している。1)表現すべき本物のアイディアをもつ、2)このアイディアの表現の仕方を学ぶために、自然を注意深く観察する、3)慣習、自己顕示、決まりきったやり方で身につけた型を拒絶するために、過去の芸術のなかの率直で、真剣で、誠実なものに共感を寄せる、4)最良の優れた絵や彫刻を制作する、というものだ。

しかし、ジョン・エヴァレット・ミレイは芸術性の違いから、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティとウィリアム・ホルマン・ハントはモデルをめぐる私情から、互いに散り散りとなった。

ラファエル前派の絵画の特色としては、主題としては中世の伝説や文学、さらに同時代の文学にも取材している点が新しい。従来のキリスト教主題を扱うにしても、伝統的な図像を無視する場合が多い。画風は、初期ルネサンスや15世紀の北方美術を真似て、明暗の弱い明るい画面、鮮やかな色彩、細密描写に特色があるという。

ラファエル前派は自然にとっての真実性を追求することを徹底していた。その作品群には、人物モデルを可能な限り忠実に描いて作品空間に取り込む姿勢が見られる。ラファエル前派の作品に共通する女性像は想像力の産物というよりも、現実のモデルの自然な姿を映したものといえる。自然な姿を忠実に取り込むことに関しては、背景となる風景や事物にも同様の姿勢で貫かれており、室内制作ではなく、野外で自然を観察しながらの制作が行われた、としている。

ラファエル前派に思想的な面で影響を与えたのは、同時代の思想家であり美術批評家であったジョン・ラスキンで、ラスキンの美術に対する考えは、「自然をありのままに再現すべきだ」ということだった。この思想の根幹には、神の創造物である自然に完全さを見出すというラスキンの信仰がある。

しかし、明確な理論をもった芸術運動ではなかったラファエル前派は長続きせず、1853年にミレイがロイヤル・アカデミーの準会員になったことなどをきっかけとして、数年後にはグループは解散した。

開場時間は10時から18時(祝日を除く金曜、第2水曜、4月6日、6月3日から7日は21時)。入場料は一般1700円、高校・大学生1000円、小・中学生は無料。障がい者は半額。月曜日は休み。ただし、3月25日、4月29日、5月6日、27日、6月3日は開館。