【ケイシーの映画冗報=2019年6月13日】日本の生み出した「水爆大怪獣」(公開当時のコピー)である「ゴジラ」をハリウッドの超大作として映画化した「GODZILLA-ゴジラ-」(2014年、監督・ギャレス・エドワーズ=Gareth Edwards)は世界興収5億ドル(約500億円)をこえるヒットとなりました。
日本でも勧進元の東宝で、「シンゴジラ」がつくられ、マニアックな作風ながら2016年の邦画実写部門で興収第1位(82億円、総合で3位)を記録しました。そのほか、日本の怪獣映画をモチーフとした「パシフィック・リム」((Pacific Rim、2013年)や続編の「アップライジング」(Uprising、2018年)もハリウッド製です。
かつては「お子さま向け」という扱いだった「怪獣モノ」も、現在ではしっかりと定着している感があり、このジャンルを好む自分としてはハッピーな状況です。
2014年の「GODZILLA-ゴジラ-」から5年後の世界。ゴジラ対ムートーの怪獣対決はゴジラの勝利で終わったものの、人類はおおきな被害を受けていました。
本作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(Godzilla: King of the Monsters、2019年)で、怪獣を研究する国際機関「モナーク」が世界各地に持つ秘密基地のひとつが襲われ、怪獣を音響でコントロールする装置「オルカ」を研究する女性学者のエマ(演じるのはヴェラ・ファーミガ=Vera Farmiga)と娘が、武装集団にさらわれてしまいます。
モナークの芹沢博士(せりざわ、演じるのは渡辺謙=わたなべ・けん)は、オルカをとりもどすため、この装置の共同開発者である動物学者のマーク(演じるのはカイル・チャンドラー=Kyle Chandler)に協力を求めます。マークとエマはもと夫婦で、5年前のゴジラ出現によって息子を喪ったことから、マークは妻や娘と疎遠になっていたのです。
武装集団は「地球最大の厄災は人類」という過激な思想で動くテロリストで、オルカによって世界各地に眠る怪獣を復活させることで人類をリセットするという、恐ろしい計画を実行に移すのでした。
中国で「モスラ」、メキシコで「ラドン」(ロドン)を出現させたテロ集団は、南極に眠る「モンスターゼロ」(キングギドラ)を覚醒させますが、行く手をはばむようにゴジラが出現します。
しかし、キングギドラはゴジラをはるかに超える力を持っていました。勝利したキングギドラは飛び去り、ゴジラは姿を消してしまいます。キングギドラの危機に直面した人類。ゴジラはふたたび姿をあらわすのか。
前作のエドワース監督からシリーズのバトンを引き継いだ(兼脚本)マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)もゴジラや怪獣映画の大ファンで、「ものすごくうれしかったし、ワクワクしました」(「映画秘宝」2019年7月号)と、本作への参加を喜んだそうです。
大ファンを公言する人材がその作品に参加することは、「熱心さのあまり暴走する」という懸念があります。熱狂と冷静さをうまくブレンドすることが、上質な作品を仕上げることには欠かせません。
ドハティ監督はこのあたりのサジ加減が絶妙だと感じます。ゴジラをのぞく主要な3怪獣は翼で飛翔するのですが、個性がしっかりと映像に投影されているのです。
モスラは昆虫なので軽やかで、羽ばたきも柔らかいものとなっています。ドハティ監督によれば「怪獣の女王」なので女性的な動きも意識されているのでしょう。ロドン(日本ではラドン)は、高速で飛び、全身にマグマをみなぎらせた姿で登場し、飛び方も荒々しく、あまり羽ばたかずに、獲物を狙って突進する鳥のような動きです。
ドハティ監督はこう語ります。
「これまでのゴジラ作品に敬意を払いつつ、(中略)自然界から自然に生まれてきたものという感じを出したかったんです」(前掲誌)
こうした感性はゴジラ最大のライバルであるキングギドラに顕著です。3つの龍のような頭と2枚の羽をもつ、生物学的にありえそうにない存在ということもあってか、圧倒的な力で、自然法則を無視して強引に飛び立つような表現となっています。
このあたりも見事という他なく、怪獣たちの激闘もそれぞれの個性を生かした見応えのあるもので、まさに「怪獣映画の本道」といってもさしつかえないはずです。
なお、自分がはじめて劇場で鑑賞した映画は「モスラ」で、テレビ画面の最古の記憶は「ラドン」、ビデオで最初に録画した映画はキングギドラの登場する「怪獣総進撃」でした。
自身の映像体験の原典にたちかえった(たちかえらせた?) という点で、とくに感慨深い鑑賞となりました。次回は「メン・イン・ブラック インターナショナル」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。