インド、感染増も医療崩壊に至らず、過去の伝染病蔓延が功を奏す?(31)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年8月11日】東インド・オディシャ州(Odisha)プリー(Puri)のわが居住エリアが7月24日21時に完全封鎖されて、3日がたった。町は死んだように静まり返り、メインロード「C.T.ロード(ROAD)」のバイクの往来も激減、人影はほとんど見当たらない。

夕暮れの灯ともし頃、ロックダウン下賑わいもなく、静まり返ったC.Tロード。

漁村地帯(ペンタコタ=Penthakata)で集団感染が発生したことは、前回末尾に付記した通りて、初期のロックダウン(都市封鎖)とは、また違った緊迫感がある。メインロードを700メートルくらい東進したペンタコタエリアの25・26、31・32区画が封じ込めゾーンとして密閉され、住人はゾーン外に出ぬよう厳重な警戒体制にある。

当オディシャ州は7月25日、1日の感染者数が1500人を超える大幅増加、記録更新で、感染者数は2万6000人以上に上っている。

ワーストの西インドから、中南・東インドに蔓延しており、カルナータカ州(Karnataka、インドのシリコンバレーとの異名をとるIT州都ベンガルール(Bengaluru)=バンガロールでは7月17日から1週間再ロックダウンされた)とアンドラプラデシュ州(Andhra Pradesh)は、感染者8万人を超えた。当州の南隣がアンドラプラデシュ州で、懸念されるところだ。

屋上から夜空を仰ぐと、半月が煌々と白銀色に瞬いていた。軟禁生活中は、月見もひとつの楽しみである。

東インドのピークはまさにこれからというところで、一体、数字がどこまで伸びるのか、憂慮が募る。

インド全土の感染者数は150万人近く、1日5万人近い急伸で(1日当たりの検査数は50万回)、末には170万人台、このまま感染拡大に歯止めがかからなければ、来月末には、300万人台に膨張も十分ありえる予測となってきた。

●コロナ余話/医療崩壊が寸前で食い止められている理由

人口に比例して、日々膨大な数の感染者が出ているが、不思議なのは、医療崩壊危機が叫ばれこそずれ、現実にはワースト都市ムンバイ(Mumbai)ですら、何とかなっている事情である。

何故だろうと考えていて、ふっと思いついたことがあるので、この欄を借りて述べてみる。

インドはいまだに、赤痢、チフス、マラリア、肝炎などの伝染病が蔓延している国で、狂犬病、破傷風、治療薬のないデング熱まではびこっている。その意味では、感染症対策や受け入れ施設が比較的整っているともいえ、体験から来る実践療法で、新型コロナにも、いたずらにパニックに陥らずに対処できているのではなかろうか。

世界でもトップクラスの医療制度が完備されたはずの日本で、感染症対策部門に関しては、脆弱ぶりを懸念されるのは皮肉なことだが、無菌環境に等しい、衛生観念の発達した先進国ならではの弱点ともいえよう。

夕暮れどき、薄くオレンジに色づいた曇り空に伽藍のシルエットが浮かび上がる。

インドの医療制度は全体を通して見ると、確かに脆弱なのだが、近年は地方の州都にも、最新設備の整った近代的な私立病院がチェーン展開しており(その代表例がインド内外に70支所、1万床のアポロホスピタルで、本部はチェンナイ=Chennai、1983年創立の国内最大チェーン)、経済発展に伴い、改善されてきている。

●コロナ余話2/デリーの4人に1人が感染

インド国立疫病対策センターの調査でわかったことだが、首都デリー(Delhi、感染者数13万人)の住民のほぼ4人に1人が感染者とのことで、驚くべき結果だが、ここまで広がっていると、かえって集団免疫ができているのではとの希望もある。

それに、回復率が他州に比べ高く、実質的な陽性者は2万人を切っている(ムンバイの実質陽性者は3万人強)。

私の推測では、西インドの都市部の感染者はそろそろ頭打ち傾向にあり、今後は東へと広がりを見せていくに違いない。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

8月6日現在、インドの感染者数は196万4536人、死亡者数が4万0699人、回復者が132万8336人、アメリカ、ブラジルに次いで3位になっています。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。また、タージ・マハルも開放する方針を撤回して、引き続き閉鎖されています)