スタントの歴史的な「影」の部分に触れた「スタントウーマン」(307)

【ケイシーの映画冗報=2021年1月21日】ベテランのスタントマンが主役のアメリカ映画「グレートスタントマン」(Hooper、1978年)の冒頭は、撮影の準備を整える主人公のシーンからはじまります。

現在、一般公開中の「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」((C)STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020)。

タフなキャラクターで人気を得たバート・レイノルズ(Burt Reynolds、1936-2018)が演じるフーパーが、バイクのスタント撮影にのぞみ、テーピング、コルセット、パッドで身体中の古傷をカバーしていくというその姿は、まさに満身創痍で、ウィスキーをあおって仕事に向かう姿は、悲壮感すらただよわせていました。

自身もスタント経験者で、レイノルズのスタントも経験しているハル・ニーダム(Hal Needham、1931-2013)監督による説得力のある情景となっています。

前回の「燃えよデブゴン」のドニー・イェン(Donnie Yen)やハリウッドではトム・クルーズ(Tom Cruise)らが、危険なシーンにも自身でのぞんでいますが、撮影の状況などで、スタントマン(ダブル)やボディダブル(代役)といった“ふきかえ”は存在しています。

トム・クルーズも自身のヒットシリーズ「ミッション:インポッシブル」(Mission:Impossible)シリーズのパロディ映像で、ボディダブルの存在を(実像ではないでしょうが)コミカルに伝えています。

しかし、映画の登場人物は成人男性だけではありません。女性や子どもも出演しますし、ストーリー上の特別扱いということはないのです。かつてのハリウッドでは、女装した男性が女優のスタントを担当していましたし、小柄な男性スタントマンは女性や子どものスタントシーンに欠かせない存在だったといいます。

本作「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」(Stuntwomen:The Untold Hollywood Story、2020年)は数々の名作、大作、話題作に出演し、危険なアクションに身を投じる女性たちの姿を過去と現代にわたって伝えるドキュメンタリー映画です。

パニックのなか逃げまどう人々、ハードなドライビングで火花を散らすカークラッシュ、爆炎をくぐり抜けての脱出といった、だれにでも理解しやすいシーンだけでなく、格闘や馬に飛び乗るシーン、動き出した列車への駆け込み乗車といった“素質によっては俳優本人でもなんとかなりそう”な場面でも、スタントは使われています。

ハリウッドで活躍するミシェル・ロドリゲス(Michelle Rodriguez)は、高い評価を受けた初主演作「ガールファイト」(Girl Fight、2000年)から一貫してアクション作がおおく、自身のスタントをふくめ、スタントウーマンたちとの交流があり、本作でもガイド役として出演しています。

そのなかで興味深いエピソードがありました。カー・アクションのヒット作「ワイルド・スピード」(The Fast and the Furious,2001年から)シリーズの一作で、女子プロ格闘家であるロンダ・ラウジー(Ronda Rousey)とはげしい格闘をするのですが、そのシーンにおいて、ラウジーにもスタントがあったとコメントしているのです。

ロドリゲスは当然として、オリンピックの柔道銅メダリストでアスリートであるラウジーにもスタントがあったということは、“適材適所”が徹底されているハリウッド・メジャーのシステムが実感されます。なお、何度見返しても、同一人物が戦いを繰り広げているようにしか見えませんでした。

この作品で興味深いのは、スタントとスタントウーマンの“影”の部分にもふれている点です。初期のスタントウーマンは、映画ではなく、一段下に見られていた1970年代のテレビドラマでの活躍がメインであったこと。男女差別だけでなく、人種による差別も存在していたこと。

そして、どうしても避けることができない事故。とくに撮影中に死亡事故が発生した「ジェット・ローラー・コースター」(Rollercoaster、1977年)に参加し、大きな怪我を負ったというスタントウーマンの証言にな感銘を受けました。「(死んだのは)自分だったかもしれない」という恐怖は、スタントに直接かかわる人物にしか、生まれない感覚なのでしょうから。

最後にスタントについてのエピソードを。あるスタントマンは、自身で危険なシーンを演じるハリウッドスターの“スタント”をこっそり撮影したそうです。完成した映画を観たスターは「自分ですべて(スタントを)こなした」と断じていたそうですが、本人の顔が映るシーン以外はスタントマンの映像だったのです。
「本人にもバレない演技だったんだ。スタントマン冥利だよ」

なお、記憶だけの記述なので、精緻な筆致ではないことをご了承ください。次回は「ヤクザと家族 The Family 」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。