インド、感染者数がブラジル抜いて2位も、心境は「台風の目」(38)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年9月18日】雨季も終盤に入り、雨がほとんど降らず、夏日のぶり返し、蒸し暑い日が続く。9時30分、浜に出ると、日は既に高く、カンカン照り、サンダル履きの素足に砂が熱い。波打ち際で潮に浸して人心地、9月に入ってからずっとこんな調子で、冷房タイムもアップ、日が沈んでから浜に出た方がいいかもと思い直す。

2014年10月、お参りしたラクシュミー女神(吉祥天)の華麗な偶像。ヒンドゥ教では、富をもたらす女神として人気がある。

コロナ禍で密な時間帯を避けてのことだったが、炎天下の散歩は体力を消耗する。それでも、ひと汗かいて帰ってくると、すっきりするのだが。

ホテル街はかれこれ5カ月半、休業要請を強いられており、閑散としているが、小さな食料雑貨店は営業、旅行代理店もちらほら営業再開し始めている。もっとも、観光客が皆無で、トラベルエージェンシーは開店休業状態だが。

当オディシャ州(Odisha)は9月8日、感染者数が13万人を超え(死者556人)、先日は1日3800人超と最多記録を更新、ピークで天井が見えてこない中、ホテルの営業再開も年内は厳しい見通しになってきた。いまや、感染ワースト10に入る州になってしまった体たらくだ。

10月下旬には、「プジャ(Puja)」と言われる大きなお祭があり(東インドでは特に盛大に祝われるドゥルガー=Durga=女神のヒンドゥ=Hinduism=大祭で10日間催行、日本の盆と正月をミックスしたような民族移動が発生)、例年ならホテル街は、全土から押しかける家族連れ旅行者で溢れかえり満室になるのだが、今年は異例のがら空きになることだろう。

2014年8月のガネーシャ祭時、参拝した象の頭に太鼓腹を持つ知恵と繁栄の神様。今年はコロナ禍で、偶像が祀られることはなかったが、ホテル業者にとっては、商売繁盛のご利益のある有難い神様だ。

さて、一昨日、インドはブラジルを抜いて総感染者数が世界2位に躍り出た(9日現在、インド428万人、ブラジル417万人だが、死者数は7万2775人と、ブラジルの12万8000人よりずっと少ない)。既に予想済みで驚きはなく、世界ワーストの予見も遠からず当たりそうで、ここまで来たら、安全で実効性のあるワクチンの登場を待つしかない。

ロシアや中国は早々と開発、医療関係者に打っているようだか、インドも、バーラト・バイオテック(Bharat Biotech)が人体実験中のコヴァクシン(covaxin)をはじめ、他6社が開発中、年内供給を目指している。

前にも述べたが、インドは世界有数のワクチン製造大国で、2009年流行した豚インフルエンザやロタウイルスのワクチン開発にも成功、世界に40億万本提供してきた。WHO(世界保健機関)のワクチン配分計画コヴァックス(COVAX)は、ワクチン製造に豊富な経験を持つインドの参加を調整中とも聞く(ポリオ、結核、肺炎、はしか、風疹のワクチンもインドが開発)。WHOの同計画は、ワクチンの購入支援と公平な配分を目指すものという。

私個人は、初期のようにパニックに陥ることもなく、比較的落ち着いた日々を送っている。ここまでま来たら、じたばたしたって始まらない。うなぎ上りの数字がどこまで伸びるか、最後まで見届ける義務があるようで、疼く帰巣本能を抑えつつ、課せられた使命を全うするつもりでいる。

●コロナ余話/日本の報道とのギャップ

インドの感染者数がブラジルを抜いて世界2位になったとのニュースは日本でも大きく報じられたようだが、渦中にある当人としては、さほど狼狽しているわけでない。

まったくひどいと親族・友人から大袈裟に心配されるのだが、当事者は案外ケロリとしているものである。

とにかく、ここまで来たらじたばたしたって始まらない。13億人以上という膨大な人口、年内に1000万人を超す予測はおのずとつくし、400万人で慌てていたら、身が持たない。

私の現在の心境は、台風の目、だ。外部の大騒動に、気持ちを取られることなく、目の前のこなさなければならない仕事に集中、その上で、今後どうしたいのか、どう生きていきたいのかに、思いを馳せる。

世界の見え方は千差万別、個々人がどう反応するかによって、現れ方が違うのだから、なるたけ内面を平静に保って、世界的大変事に、必要以上に影響されることなく、安定した気持ちで過ごしたい。

激動の時代を抜けた後に待っているのは、真っ暗闇のトンネルの出口に見える、一筋の光明であってほしい。明るい未来を信じて、内面を極力ポジティブに保つのみだ。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

9月11日現在、インドの感染者数は456万2414人、死亡者数が7万6271人、回復者が354万2663人、アメリカに次いで2位になっています。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)