「善悪」で説明できない社会を描いた「スーサイド・スクワッド」(196)

【ケイシーの映画冗報=2016年9月22日】「これは二人の殺人者の戦いである。一人はバッジを付けている」-“刑事アクション映画の古典”ともいえる「ダーティーハリー」(Dirty Harry、1971年)が公開当時にかかげたキャッチコピーでした。

現在、一般公開中の「スーサイド・スクワッド」((C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.,RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT,LLC)。制作費は1億7500万ドル(約175億円)。

現在、一般公開中の「スーサイド・スクワッド」((C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.,RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT,LLC)。制作費は1億7500万ドル(約175億円)。

アメリカの西部開拓地代には、問題のある人物が“法の番人”たる保安官になることも珍しくありませんでした。「犯罪者には犯罪者を」という発想は、決して荒唐無稽(こうとうむけい)ではないのです。

本連載ですこしまえに取り上げた(4月7日)「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」(Batman v Superman:Dawn of Justice)と強い関連性を持っている本作「スーサイド・スクワッド」ですが、直訳すれば「自殺部隊」という殺伐(さつばつ)としたタイトルとなっています。

“マン・オブ・スティール(鋼鉄の男)=スーパーマン”が死去した世界で、数千年の生命を持つ強力な魔女エンチャントレス(演じるのはカーラ・デルヴィーニュ=Cara Delevingne)が復活、人類は存亡の危機にさらされます。政府はスーパーマンに代わる存在として、減刑を条件に犯罪者をチームとしてまとめ、重大事件に対処させる特殊部隊“タスクフォースX”こと“スーサイド・スクワッド(以下SS)”を結成し、エンチャントレスの野望を阻止させようとします。

非情かつ凄腕のスナイパーであるデッドショット(演じるのはウィル・スミス=Will Smith)、誰もが認める美貌の持ち主ながら中身は完全な社会不適合者であるハーレイ・クイン(演じるのはマーゴット・ロビー=Margot Robbie)らが集められます。指揮を執るフラッグ大佐(演じるのはジョエル・キナマン=Joel Kinnama)の手には、“SS”の犯罪者メンバーを爆殺する装置があるため、かれらはまさに「前進か死か」という、過酷な戦場へと身を投じていくのでした。

そして、また、ハーレイ・クインには秘密の目的がありました。彼女が熱烈に慕っている“最凶”の悪役ジョーカー(演じるのはジャレッド・レト=Jared Leto)がひそかに接触してきたのです。「助けに行く」と。とはいえ、裏切りや寝返りは悪党の常套手段です。本当にジョーカーはハーレイ・クインに救いの手を差し出すのか。そして、エンチャントレスの人類殲滅(せんめつ)をくい止めることを“SS”はできるのでしょうか。

「DCコミックスのヒーローであるバットマンやスーパーマンによって逮捕されたヴィラン(悪役)たちが、減刑を条件に政府のために一致団結して戦う」

本作はこう要約できるとおもいますが、正義感や使命感で戦い続けるヒーローとは真逆の存在(犯罪の多数は「したいことをする」という私利私欲)であるヴィランたちがどのようにチームを築いていくのかが問題です。

ここでクローズアップされるのはヴィランたちの内面なのです。暗殺者であるデッドショットが、ひとり娘に会うために“SS”に参加しており、その溺愛(できあい)ぶりは一般的な“ひとり娘のパパ”と変わりがありません。

ジョーカーへの愛に焦がれるハーレイ・クインも、彼を慕うあまり肌の質感まで同じにしてしまう究極のペア・ルックを実践しつつも、あまり報われていない様子で、見方を変えれば「(相手に)遊ばれている自称恋人」という解釈もできるほどです。チームを指揮するフラッグ大佐も、じつはエンチャントレスの復活を許してしまったという負い目がありました。

まさに寄せ集めで、規律もモラルもモラール(士気)もないメンバーが、果たして世界を救うことができるのか。

「彼らはたしかにBAD(ワル)がEVIL(邪悪)じゃない。(中略)彼らは社会から悪の烙印(らくいん)を押されたけれど、ハートがある」(「映画秘宝」2016年10月号)

監督、脚本のデヴィッド・エアー(David Ayer)は、極悪犯罪者チームのメンバーをこう述べています。さらに、「仲間として、ファミリーとしてひとつになろうとする“壊れた人たち”のストーリーを語りたいんだ。彼らはつながり、心を通わせることができるんだ」(DVDブルーレイでーたSPECIAL悪党ファイルより)と、アンチ・ヒーローたちの“正義活動の根幹”をこのようにとらえ、作品のテーマとしたそうです。

なお、本作にも登場するもうひとりのヒーローであるバットマン。一般的な認識では正義のヒーローですが、“SS”のメンバーからみれば“自由の敵”となります。デッドショットもハーレイ・クインも彼の手にかかって刑務所送りになっているのですから、犯罪者からは、バットマンこそ憎むべき敵という存在になります。

コミック原作のアクション映画ですが、「善悪二元論」でくくれない現代社会を描いた作品といえるでしょう。次回は「ハドソン川の奇跡」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。