主役の必死さと監督の確かな力量が発揮された「ファイナル・プラン」(320)

【ケイシーの映画冗報=2021年7月22日】トム・カーター(演じるのはリーアム・ニースン=Liam Neeson)は、アメリカ各地で12の銀行を襲い、完璧な仕事をこなしてきた“姿を見せない犯罪者”でした。

現在、一般公開中の「ファイナル・プラン」((C)2019 Honest Thief Productions, LLC)。アメリカでは2020年10月に公開されて、世界の興行収入は2639万ドル(約26億3900万円)。

そんなトムにマドンナがあらわれます。心理学の博士号をめざすアニー(演じるのはケイト・ウォルシュ=Kate Walsh)と出会ったトムは、愛する彼女との新生活のため、自分の罪をつぐなう決意をします。FBIに連絡し、犯行で得た全額を返却するのと引き換えに、自身の刑を減免してもらう司法取引をもちかけます。

あらわれた捜査官のニベンス(ジェイ・コートニー=Jai Courtney)は、証拠品の札束に目がくらみ、現金の隠し場所を聞くため、トムに銃を向けます。その現場に上司であるベイカー(演じるのはロバート・パトリック=Robert Patrick)が来たことから、ニベンスはベイカーを射殺、その罪をトムに負わせようとします。ニベンスがアニーまで襲ったことで、逆襲を決意するトムでした。

個人的にリーアム・ニースンという俳優には好感を抱いています。劇場のスクリーンで記憶しているのは「ダーティハリー5」(The Dead Pool、1988年)で、連続殺人事件に関わる映画監督役でした。ハリー役のクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)にひけをとらない長身(両人とも190センチ以上)で、印象に残っています。ニースンの好漢さがうかがえる演技でしたか、役柄もあり、強烈なインパクトを感じることもありませんでした。

個性のある脇役のおおかったニースンに、演技者としての注目が集まったのが、「シンドラーのリスト」(Schindler’s List、1993年)でした。スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の作品で、多数のユダヤ人をすくったオスカー・シンドラー(Oskar Schindler、1908-1974)を演じ、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。ニースン当人は受けられませんでしたが、作品はアカデミー12部門にノミネートされ、作品賞、監督賞など主要7部門を受賞しています。

ここで一気に大スターへの階梯を駆け上がるとおもいきや、佳作、良作の出演はあっても、自身のフィルモグラフィーに、大きな看板が加わることはありませんでした。転機が訪れたのが、2008年、もと特殊工作員が異国で誘拐された娘を助けるため、人身売買組織を徹底的に追い詰めていく「96時間」(Taken)でした。ニースンは50代なかばで、はげしいアクション作品にいどんだのです。

アマチュア・ボクサーの実力者だったというニースンですが、本格的なアクションにはさほど縁がありませんでした。じつはこのころ、ニースンは最愛の妻を事故で喪っており、その気分転換の意味もあって、肉体的負荷の高い作品をあえて選択したとも伝えられています。

「96時間」は合計して3作のシリーズとなり、遅咲きのアクション・スターとなったニースンに、“戦うと強いオジサン”というイメージの役が増えていきます。おおくのスポーツの選手寿命でもわかるように、生物としての人間における運動能力のピークは20代から30代なかばぐらいまでですが、全盛期ではなくとも、一定のレベルを維持することは可能です。

アクション・スターのジャッキー・チェン(Jackie Chan)も66歳で、押さえ気味ながらアクションを披露していますし、来年には還暦となるトム・クルーズ(Tom Cruise)の予定作をみても、アクションからの引退はしばらくはなさそうです。

本作「ファイナル・プラン」(Honest Thief、2020年)でのニースンは、爆弾処理に熟達した元軍人で、爆破や爆薬の知識は豊富でも、格闘や射撃のウデはそこそこ・・・といった風情です。したがって“とっさに”“無我夢中で”といった状況でのアクションという映像表現で組み立てられています。

「ダーティ・ハリー」のような“絶対安定の強さ”ではなく、“生存への欲求”や“恋人を守るため”というエネルギーが、ニースン=トムの強さなのだというアピールがスクリーンから伝わってくるのです。

これにはプロデューサーとして多くのアクション作品を手がけてきた監督(兼脚本)のマーク・ウィリアムズ(Mark Williams)と、これまで18本もの作品でニースンとタッグを組んでいるスタント・コーディネーターのマーク・ヴァンセロー(Mark Vanselow)のたしかな力量もプラスされているのは間違いありません。

「(前略)アクションは、可能な限り俳優自身が演じるように努力しました。特に格闘シーンは」と語るヴァンセロー。そして、ニースンもこう述べています。
「私たちは徹底的にリハーサルをやっていますから、誰もケガをしません」(いずれもパンフレットより)。撮影現場でも、安全第一は正しいことです。いえ、本来ならすべての環境がそうであってほしいものですが。次回は「ジャングル・クルーズ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。