海の描写と表現が圧倒的な質感で観客に迫る新「アバター」(357)

【ケイシーの映画冗報=2022年12月22日】先月、高級時計ブランドのロレックスが、“ディープシー・チャレンジ”という新作を発表しました。防水性が1万1000メートルという、市販品としては有数の防水性を持っているそうです。

現在、一般公開中の「アバター ウェイ・オブ・ウォータ」((C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.)。制作費が3億5000万ドル(1ドル=140円換算で約490億円)、興行収入が今のところ4億ドル(約560億円)。

このタフな腕時計の原型は、2012年に世界最深のマリアナ海溝に潜水した潜水艇“ディープシーチャレンジャー”の外部につけられた試作品で、そのとき潜水艇を操縦していたのは映画監督のジェームズ・キャメロン(James Cameron)でした。

今回の「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」(Avatar:The Way of Water)の監督、脚本、原案という、まさに作品世界の創造主です。

キャメロン監督の前作「アバター」(Avatar、2009年)は興行収入世界歴代1位、1997年の「タイタニック」(Titanic)でも当時の世界興行収入1位をとり、アメリカのアカデミー賞にて14部門にノミネート、作品賞、監督賞をはじめ11部門で栄誉を受けました。次作の「アバター」も3部門で受賞しています。

大ヒット映画はいわゆる“大衆受け”を希求していて、批評家たちへの受けはイマイチ、という視点がありますが、キャメロン監督の作品には合致しないようです。

前作から時間を経た惑星パンドラ。先住民ナヴィの一員として生きる決意をした地球人のジェイク(演じるのはサム・ワーシントン=Sam Worthington)は現地の女性ネイティリ(演じるのはゾーイ・サルダナ=ZoeSaldana)や子どもたちと平穏な生活を送っていました。

ところが、一度はパンドラを離れた人類が、豊富な資源をもとめて姿をあらわします。そのなかには、ジェイクとネイティリによって死に至ったクオリッチ大佐(演じるのはスティーヴン・ラング=Stephen Lang)の姿も。

新生クオリッチは生前のデータから再生され、ナヴィの強靱な肉体を持った新たな存在となっていましたが、ジェイクへの復讐心はその胸に刻みこまれていました。

ジェイクへの復仇(ふっきゅう)に燃えるクオリッチは、自分の部隊を率いてナヴィの村々を襲撃します。危険が集落と家族に及ぶことをおそれたジェイクは、家族とともに集落を離れ、海岸に住むメトケイナ族の村に身を寄せるのでした。

しかし、海洋資源をもとめる人類とジェイクを追うクオリッチがメトケイナ族に迫り、ジェイクとネイティリは家族を守るための決断をしなければならなくなります。前作の「アバター」に前半は豊かな森林地帯が舞台でしたが、本作の後半では、海と海岸での物語となります。

その海の描写と表現は、圧倒的な質感で観客に迫ってきます。先述のように映画クリエイターでありながら、海洋学者、冒険家の側面もあるキャメロン監督の描く自然はみごとのひとことでした。

たとえば、メトケイナ族の暮らす海岸と、巨大なクジラ型の生物“トゥルクン”の遊弋(ゆうよく)する外洋との波や海水の違いなど、緻密に作りこまれていて、これまでの映像作品とは一段、違う濃密な世界となっています。キャメロン監督の志向と映像が合致した、美しい情景でした。

「鑑賞というより、体験」と表現するべきかもしれません。キャメロン監督の盟友でプロデューサーのジョン・ランドー(Jon Landau)も、「映画を『見た』ではなく『経験した』と感じてほしい」と語っているので、的外れな感想ではないでしょう。

その一方で、古典的というか今日的なシークエンスも登場します。前半でジェイクらが人類の操る列車を襲うシーンは西部劇でしょうし、銃器を手にした(ナヴィ族は基本的に弓や槍)クオリッチのチームが村を焼き払い、現地人を厳しく詰問するシーンは、ベトナム戦争を想起してしまいます。

ただし、歴史的な事実ではなく、私たちが映画や作品で見てきたものであり、過去の告発ではなく、映像としての寓話という意味だと感じました。

最新の技術と古典的な描写が渾然一体となった「架空の惑星で繰り広げられる叙事詩」というのが本作の根幹ではないでしょうか。キャメロン監督はこう語っています。
「私たちの世界、海は素晴らしい。ファンタジーやSF作品を通し、その素晴らしさやありがたさを知ることができる。架空の星の話ではなく、この地球が大切だと伝えたい」(いずれも2022年12月17日付『読売新聞』)

「アバター」のシリーズは全5作の予定で、3作目も最終段階とのことです。森、海、ときて今度は砂漠が舞台でしょうか?どんな世界だとしても、とてつもない映像が提供されるのは間違いないことでしょう。現代の映像体験として、ぜひ、劇場の大スクリーンでお楽しみください。

次回は「フラッグ・デイ 父を想う日」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「アバター」(Avatar)シリーズは、ジェームズ・キャメロンが監督し、ライトストーム・エンターテインメントが製作、20世紀スタジオが配給するSF映画のシリーズで、2009年12月18日に公開された第1弾「アバター」の公開1週間前の2009年12月11日に、20世紀フォックスからシリーズ化が発表された。

「アバター」の続編4作品は惑星パンドラを舞台としつつ各々で完全に独立した物語が展開される。第2作が「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」で、第3作が「アバター3」で2024年12月20日アメリカで公開予定とされている。

「アバター4」は2026年12月18日公開予定、「アバター5」は2028年12月22日公開予定とされ、監督は全作ともジェームズ・キャメロン。脚本が2作目がジェームズ・キャメロンとジョシュ・フリードマン(Josh Friedman)、3作目がジェームズ・キャメロンとリック・ジャファ(Rick Jaffa)&アマンダ・シルバー(Amanda Silver)夫妻、4作目がジェームズ・キャメロンとシェーン・サレルノ(Shane Salerno)、5作目が未定とされている。