丸善丸之内で川瀬巴水「初期摺り新版画」展、4者協業の息吹

【銀座新聞ニュース=2024年3月17日】大手書籍販売グループの丸善CHIホールディングス(新宿区市谷左内町31-2)傘下の丸善ジュンク堂書店(中央区日本橋2-3-10)が運営する丸善・丸の内本店(千代田区丸の内1-6-4、丸の内オアゾ内、03-5288-8881)は3月20日から26日まで4階ギャラリーで「新版画の美-川瀬巴水 木版画展」を開く。

丸善・丸の内本店で3月20日から26日まで開かれる「新版画の美-川瀬巴水木版画展」に出品される「鯉のぼり(香川県豊浜)」(1948年、税込99万円)。

日本の浮世絵版画を復興するため新しい浮世絵版画「新版画」を確立した、近代風景版画の第一人者として知られる川瀬巴水(1883-1957)が1910(明治44)年に日本画家の鏑木清方(かぶらき・きよかた、1878-1972)に入門を許され、本格的に画業に取り組み、2023年に生誕140年を迎えた。

今回も約30点の初期摺り版画を展示販売する。1906(明治40)年に創業した渡邊木版美術画舗(中央区銀座8-6-19、03-3571-4684)が選んでおり、画舗では「制作当時の弊社の初代渡邊庄三郎(1885-1962)、川瀬巴水、彫師、摺師(すりし)の四者協業による創作の息吹を感じることが出来」るとしている。

「アートスケープ」によると、2013年12月15日に放送されたNHK「日曜美術館」でアメリカ・アップル・コンピュータ社の創業者、スティーブ・ジョブズ(Steven Paul“Steve”Jobs、1955-2011)が新版画、とくに川瀬巴水作品のコレクターであったことが紹介されたという。

スティーブ・ジョブズは1983年、28歳のときに銀座の画廊で川瀬巴水や橋口五葉(1881-1921)の版画を購入し、1984年にアップルが初代マッキントッシュを発表した際に、そのプロモーション写真の3台のコンピュータのうち、中央の画面には、橋口五葉の版画「髪梳ける女」(1920年)が写されていたという。

単行本「最後の版元 浮世絵再興を夢みた男・渡辺庄三郎」などによると、スティーブ・ジョブズは渡邊木版美術画舗や兜屋画廊(中央区銀座8-8-17、伊勢万ビル、03-3571-6331)などで川瀬巴水らの作品を購入していた。

アメリカの鑑定家、ロバート・O・ミューラー(Robert O.Muller、1911-2003)の紹介によって川瀬巴水は欧米で広く知られ、国内よりも海外での評価が高く、浮世絵師の葛飾北斎(1760-1849)や歌川広重(1797-1858)らと並び称されるほどの人気がある。

ウイキペディアなどによると、「新版画」は1897(明治30)年前後から昭和時代に描かれた版画のことで、江戸時代に流行した浮世絵版画が1894(明治27)年の日清戦争を描いた戦争絵の一時的なブームを最後に、急速に力を失い、廉価な石版画、写真、大量印刷の新聞、雑誌、絵葉書などといった新商品の人気に押され、売れ行き不振となり、衰退していった。

そのような中で、従来の浮世絵版画と同様に、絵師、彫師、すり師による分業の制作方式に興味をもったのが、1899(明治32)年に来日したヘレン・ハイド(Helen Hyde、1868-1919)や1900(明治33)年に来日したエミール・オルリック(Emil Orlik、1870-1932)ら外国人だった。

その後、橋口五葉らが新版画に着手し、日本画家のみならず、洋画家や外国人作家の参画によって、1923(大正12)年に発生した関東大震災以前の新版画がもっとも華やかで、実験的な作品を生み出す時代を迎えた。それらは現代的なデッサンの美人画、役者絵、陰影のある風景画や花鳥画などが描かれたという。

川瀬巴水は1883(明治16)年東京都生まれ、10代から画家を志して日本画を学び、1908年に25歳で父親の家業を継ぐが、画家になる夢を諦めきれず、妹夫婦に商売を任せて日本画と洋画を学んだ。1910(明治44)年、27歳で日本画家の鏑木清方に入門し、「巴水」の画号を与えられる。

1918(大正7)年に風景版画を制作し、1920(大正9)年に「旅みやげ第一集」を完成、1921(大正10)年に「東京十二題」と「旅みやげ第二集」を完成、1923年(大正12)に関東大震災で被災しながらも、1926(昭和元)年に「日本風景選集」、1929(昭和4)年に「旅みやげ三集」、1930(昭和5)年に「東京二十景」、1936(昭和11)年に「日本風景集東日本編」を完成させた。

1939(昭和14年)年に「朝鮮八景」を完成させ、1944(昭和19)年には栃木県塩原に疎開、1948(昭和23)年に東京都大田区内に引越し、1957(昭和32)年に自宅で胃ガンのため74歳で死去した。衰退した日本の浮世絵版画を復興すべく、新しい浮世絵版画である新版画を確立した人物として知られる。

開場時間は9時から21時(最終日は16時)まで。初日は8時45分より丸善丸の内本店1階正面入口前で、作品購入整理券の抽選をする。購入に際しては1人(1家族)3点まで。作品はすべてUVカットアクリルを使用した額縁付き。