TPP推進で太平洋の自由貿易のルール作りに参加を(13)

【銀座新聞ニュース=2013年7月31日】7月23日から25日までマレーシアで日本にとって初のTPP会合が開かれた。TPPのマレーシア会合自体は18回目で、15日から開かれていたが、日本が参加できたのは、アメリカの議会の承認との関係もあって、23日午後からになった。

25日の終了後、TPP交渉日本代表の鶴岡公二(つるおか・こうじ)さんが「実質的な議論に加わることはまだまだ可能」と語っているように、最大の争点となる関税引き下げ交渉をはじめ、多くの難しい分野で、実質的な進んでいないことがわかってきた。

マレーシア政府はTPP協定文29章のうち、14章が合意していると発表しているが、主に技術的な詰めにとどまっており、朝日新聞がマレーシア首相の会見記事で、マレーシアが政府調達分野の市場開放で、アメリカに厳しい要求を突きつけられ、憲法で定めている「ブミプトラ政策(マレー人優先政策)」の問題から離脱の可能性さえ示唆している点からも、多くの難しい分野で合意からほど遠い状況にあることが見えてくる。

日本国内からはTPP参加反対の声や、すでにTPPが終盤に入っており、今さら参加するのでは遅すぎて意味がないという反対論が根強くあるが、もっとも難しい関税引き下げ交渉は2012年12月からようやくはじまったばかりで、2カ国間交渉さえほとんど進んでいないことは、鶴岡さんの発言からうかがえるだろう。

とにかく、TPPが参加各国内の団体や市民から反対論が根強くあるのは、秘密主義に徹しており、合意後も一定期間の守秘義務まで求められているからだろう。しかも、アメリカがTPP本交渉とは別に、2カ国間交渉を求め、TPPに含まれない分野まで取り上げるという姿勢に、多くの人たちが疑問を投げかけるのは当然だろう。

ただ、TPPの位置づけはWTOに代わる新しい貿易体制の構築という側面があり、21世紀の太平洋の貿易自由化の枠組になる可能性が大きい。当然、大西洋では、アメリカとEUが貿易の自由化を話し合っており、太平洋がTPPなら、大西洋はアメリカEUのFTAが新しい貿易の枠組になるわけだ。

もし、太平洋に位置する日本がTPPから離脱して、不参加となり、後にTPPが合意されて、その後、参加国が増えた場合、反対派の人たち=離脱賛成派=は日本の貿易の自由化、輸出促進について、どうするのだろうか。

すでに、韓国はアメリカ、EUとFTAを結んでおり、関税面で韓国企業は有利になっている。日本は農業を守るために、TPPから離脱しても、現在の農業の減反政策では生産額が減る一方で、農家を守れないのは明らかなのだ。その上で、鉱工業品の輸出で韓国企業との競争で負けるとなれば、大手製造業の選択は、アメリカ、EUへの工場進出、あるいはアジアのTPP加盟国での現地生産しかなくなるだろう。それは日本国内の雇用低下を招き、貧富の差がいっそう拡大するだけだ。

あるいは現在進めているEUと同じく、アメリカと個別に貿易の自由化交渉をすればいいと考える人も多いだろう。しかし、アメリカはTPPで太平洋における貿易の自由化の枠組を構築したら、おそらく日本との2カ国間FTAには関心をもたないだろう。それよりは、日本がTPPへの再度の参加を要求するだろう。その方がアメリカにとっては安易だからだ。

つまり、日本が世界最大の貿易国、アメリカとの貿易の自由化を促進しようとすれば、今からTPPに参加することが不可欠であり、しかも、アメリカの強引な要求を抑えるには、他国と協調できる余地がある多国間の枠組であるTPPの方が日本にとっては有利なのだ。

TPPと並行して進められる日米交渉でも、TPPとの関連性が少ない場合は、拒否できるし、TPP交渉の場でアメリカの強引な要求にも他国の力を借りて抑えることができる。混合医療の問題も、中身が正確にわかっているわけではないが、ニュージーランドが危機感を強めていることは知られている。つまり、医療サービス分野でもまだ決着していないことを示している。

アメリカとEUは明らかにWTOの機能不全により、独自に現状よりも自由化した貿易のルール作りに取り組もうとしており、それが太平洋と大西洋の新しい貿易ルールであり、その新しい貿易ルールが21世紀の貿易体制の基盤となる可能性が大きい。その中に、関税分野以外の領域が入るのは、金融、通信をはじめ、多くの分野で世界中の国が双方で影響を受けるところまで拡大しているからだ。そうした新しい分野に貿易のルールを作るという試みは自然の流れだろう。

外国企業には市場を開放しないというやり方では、今や国の成長はついていけなくなっている。たとえば、ベトナムの最大の成長産業は通信機器であり、それは世界最大の携帯電話メーカーである韓国の三星電子の携帯電話を生産しているからだ。当然、そのことはベトナムにおける携帯電話機器市場の開放につながる。しかも、ベトナムの国力の増大をもたらしている。

他方、農産品、とくにコメの貿易量は世界の生産量のわずか5パーセント程度、2500万トンから3000万トンとみられており、しかも90パーセント以上がインディカ米なのである。コメが関税がゼロになると、国内のコメ農家は壊滅的な打撃を受けるとして、TPP参加に反対している人たちは、日本人のほとんどがインディカ米を購入すると予測しているわけだ。果たして、そんなことがあるだろうか。

インディカ米とわれわれ日本人が食べているジャポニカ米の大きな違いは、インディカ米がべとつかず、パサパサしていることで、寿司やおにぎりには向かないが、チャーハンなど油で炒める場合には適しているという点だ。逆に、ジャポニカ米はベトベトして寿司やおにぎりには最適で、お茶漬けにも適している。つまり、日本人の食文化が大きく変化しない限り、インディカ米がわれわれ日本人の食卓を飾ることはほとんどないのだ。

それよりも減反政策により、日本国民が世界でもっとも高い米を買わされている現状を変えて、価格を半値にして、10キロあたり2000円以下にまで下げれば、国内のコメ需要も増えるはずだ。コメからパンに手を伸ばしている人たちが、コメが2000円以下となると再びコメに回帰すると思われるからだ。

そうした農業政策を変更により、国内市場の需要拡大を図れば、コメの関税を10年後、15年後にゼロに引き下げても、インディカ米の価格にも対抗できるだろう。そうした展望を明確にして、減反政策からの転換により、安いコメを市場に供給できるようになり、需要が増えれば、農家の収入増につながるだろう。

TPPに反対したり、参加が遅すぎるという批判を繰り返すよりも、太平洋の新しい自由貿易の枠組つくりに日本も参加するという姿勢をもつべきだろう(銀座新聞ニュースではTPPなど貿易の自由化に対する取り組みを中心に随時掲載します。基本的には リードと本文の一部を公開し、全文は会員のみ有料でお届けします。詳細はお知らせをご覧ください。今回は全文を公開します)。