シュリデヴィの魅力溢れる「マダム・イン・NY」、長すぎる130分

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【銀座新聞ニュース=2014年4月24日】今頃、何を言っているの と、笑えられるかもしれないが、インドのボリウッド映画を初めて観た。6月にシネスイッチ銀座で一般公開が予定されている「マダム・イン・ニューヨーク」 で、主人公の主婦「シャシ」を演じたシュリデヴィ(Sridevi)さんの魅力を余すところなく表現しており、インド映画のファンで、往年の名女優シュリ デヴィさんを知っている人には、とても興奮する映画だろう。

6月から一般公開される「マダム・イン・ニューヨーク」(C)Eros International Ltd)。インドの女性の美しさと魅力を教えてくれる映画だ。

6月から一般公開される「マダム・イン・ニューヨーク」(C)Eros International Ltd)。インドの女性の美しさと魅力を教えてくれる映画だ。

とにかく、ストーリーよりも、シャシが夫の何気ないひとことで傷つく場面、自ら作ったデザートが売れて喜ぶシーン、ニューヨークで英会話学校で輝くところ、すべてのシャシの表情が観客の胸にスーと入ってくるので、とくに女性は同感する人も多いだろう。

15年ぶりに映画に出演したシュ リデヴィさんはまだ50歳だが、日本でいえば、吉永小百合(よしなが・さゆり)さんクラスのトップ女優のようだ。とにかく「シャシ」の喜ぶ表情を観るとう れしくなり、悲しんでいる場面になると、胸が苦しくなるほどに観客を引き付ける演技力は出演者の中でも群を抜いている。

シャシに恋する若者と2人で屋上から眺めるニューヨークの町並み。この後、2人はさらに接近してしまうのだが。

シャシに恋する若者と2人で屋上から眺めるニューヨークの町並み。この後、2人はさらに接近してしまうのだが。

夫の「サティシュ」 のアディル・フセイン(Adil Hussain)さんの演技も悪いわけではないが、天真爛漫に妻を傷つける役回りが難しかったせいか、今ひとつ妻への遠慮が見えてしまうのが少し残念な気 がした。もっと無邪気に妻を傷つける夫を演じれば、それだけシャシの苦しみ、喜びが倍加するので、一層輝いて見えただろう。

また、英会話学 校で知り合う男性から恋されて、気持ちが落ち着かなくなるところはひじょうに演技が難しい場面だが、シュリデヴィさんがその場面をきちんと演じているの で、思わず観ている方が恋愛の行方はどうなるのだろうと気になってしまう。夫のいない間に深い関係になるのだろうか、それとも淡い恋で終わってしまうのだ ろうか。日本やアメリカ映画なら、間違いなく前者を選ぶだろうけど、やはりインド映画なので、国民が安心できるように筋道を考えている。

とにかくストーリーは単純で、主婦専業のシャシのところに、ある日突然、ニューヨークに住む姉マヌから連絡があり、マヌの娘が結婚するという。そのため、結婚式に出席することと、式の準備を手伝うために5週間前にニューヨークに訪れるという話だ。

英語ができないシャシがニューヨークの姉の家で暮らし、街中にひとりで出ても、カフェでサンドイッチひとつ買えない自分に情けなさを感じ、偶然のことから短期間で学べる英会話学校に通うことになる。そこで出会った男性がシャシに恋をして、話が少しややこしくなる。

後 から夫、娘、息子と家族がニューヨークに来て、姉に内緒で通っている学校に行くのも難しくなる中で、ニューヨーク見物に家族と一緒に出かけ、その途中でひ とりだけ抜け出して学校に行く。ところが、学校に行っている間に、まだ小学生ぐらいの息子がケガをしてしまい、そのことで夫に責められ、息子のケガを見 て、学校をやめてしまう。

しかし、最終日には英会話学校でのスピーチ試験があり、その最終日が結婚式の日に当たってしまう。試験が午前中、 式は午後なので、試験だけでも受けようと午前中、なんとか準備を終えて学校に行こうとする直前に、息子のいたずらで式に出す予定のデザート(「ラドゥ」) をダメにしてしまい、もう一度作り直す。当然、学校の試験を受けるチャンスがなくなる。

ここからは女性監督で、脚本を書いたガルリー・シン デー(Gauri Shinde)さんの手腕がひときわ目立った。姉の次女で大学生のラーダ(プリヤ・アーナンド=Priya Anand=さん)が英会話学校の仲間に知らせて、式に招待する。最大の見所は、シャシが結婚する2人に贈るスピーチだ。英語ができないと思われていた シャシが英語でスピーチし、しかもとても感動させるスピーチになる。筆者も英語で聞いていて、とても感動した。

それを聞いた学校の英会話教 師が合格点を出すというシャレたところは、ご愛嬌だ。このボリウッド映画のご愛嬌の場面が随所にあり、もっともニギニギしくあるのが、ニューヨークに向か う機内で、隣の席の男性客を演じたボリウッドの大スター、アミターブ・バッチャン(Amitabh Bachchan)さんのうるさい演技だ。

夜、 客が寝ている場面で、英語がわからないシャシの横で、ハリウッド映画のセリフをイヤホンを使わずに見せて、シャシに大声で翻訳し、ほかの客から大ヒンシュ クを買う役だ。インドの大スターが機内やニューヨークの空港で「自分に自信をもつことだ」と何度もシャシに繰り返すセリフがあまりに臭いので、思わず笑え てしまう。

それと、このシャシが体験するニューヨークのシーンは実は筆者が学生時代に英語がまったくできない中で、ひとりでサンフランシス コに行ったときを思い出してしまった。シャシは一般の英会話学校に行くが、筆者はサンフランシスコでアダルトスクールに通った。相違はアダルトスクールが アメリカ国民を対象にした英会話学校で、授業料が無料だったことだ。

最初に筆記試験があり、なぜか最上級クラスに入れられてしまい、1カ月 後に卒業試験(筆記)まであり、カリフォルニア州ではスタンフォード大学以外はUCバークレイも含めてどこでも入学できるというお墨付きをもらった。筆者 の苦しみは英会話ができないことで、筆記試験なら自分の言いたいことをいくらでも伝えられたので問題がなかった。もっとも、2カ月後に日本の大学に戻った ので、アメリカで進学しなかったのだが。

シャシと同じく、カフェに入っても、いったいどうやって注文するのかわからず、マックなどファース フトフード店ばかり利用したものだ(メニューが単純)。サンドイッチ店でサンドイッチを買おうにも、メニューの読み方がわからず注文ができないのであきら め、コーヒー店(カウンターだけの店で、昼はコーヒー飲み放題)も、はじめのうちは、まったく利用の仕方がわからず(一杯注文すれば、その後はお代わりは 自由などとはどこにも書かれていないし、カウンターなので、席に座ると同時に注文しないといけない)、アメリカ人と一緒に行くようになってから、利用の仕 方を覚えたほどだ。

なので、シャシがサンドイッチ店で恥をかく場面は、ひじょうに共鳴した。そうなんだよ、ああやって、次から次へと聞かれると、初めての客にはわからないんだよ、と思わず、胸のうちでうなづいてしまった。。

た だ、こういうニューヨーク入門(あるいは英語入門)という映画が今頃つくられたことには驚きだ。日本だったらさしずめ、地方から初めて上京した人が感じる とまどいで、20年前なら映画のテーマに適していたかもしれないが、21世紀の今に、こういう「初心者(この場合は英会話)」をテーマにした映画が作られ るとは、時代錯誤を覚えた。

もっとも、そうした違和感も、シュリデヴィさんの魅力が埋めてくれるし、なんといってもサリーしか着ないのに、まったく場違いを感じさせないシュリデヴィさんの着こなしは、見事というしかない。

とにかく、130分もの間、シュリデヴィさんの魅力がたっぷりと伝わってくる小品だ。ただ、ハリウッドならこの手の作品は長くても100分前後に収めるところで、2時間を超える長さとなると、途中で疲れてしまった。

シュリデヴィさんが最後にはあるアメリカの歌手の踊りをマネる場面まであり、飽きることはないのだが、映画を観て疲れるという体験を久々にした。果たして、単純な筋書きにもかかわらず、あまりの長さに、日本の映画ファンは耐えられるのだろうか。