多様な人種で、古きよき西部劇を描いた「マグニフィセント」(206)

【ケイシーの映画冗報=2017年2月9日】ハリウッド創世記から人気ジャンルであった西部劇ですが、近年では国内に入ってくる作品は減少傾向にあります。日本に持ち込むには超大作か大スターの主演でなければ、興行的にむずかしいという理由があるようです。

現在、公開中の「マグニフィセント・セブン」。制作費が1億800万ドル(約108億円)で、興行収入がこれまでのところ、世界で1億6044万ドル(約160億4400万円)。

本作「マグニフィセント・セブン」は、黒沢明(くろさわ・あきら、1910-1998)監督の傑作時代劇「七人の侍」(1954年)とこれを原作としたハリウッド西部劇「荒野の七人」(The Magnificent Seven、1960年)の2作品を原案としており、制作費1億ドル(約100 億円)以上という、知名度とスケールの大きさが、日本での公開実現にに寄与したのではないでしょうか。

1879年、アメリカ西部の町ローズ・クリークは、強欲な資本家ボーグ(演じるのはピーター・サースガード=Peter Sarsgaard)に立ち退きを求められていました。町の人々は教会に集まり、対応を協議していましたが、そこにあらわれたボーグの一味が暴れ回って人々を銃で撃ち、ついには教会に火を放ったのです。

ボーグに夫を殺されたエマ(演じるのはヘイリー・ベネット=Haley Bennett)は、町を守るための用心棒をもとめ、旅に出ます。最初に出会ったのが賞金稼ぎのチザム(演じるのはデンゼル・ワシントン=Denzel Washington)でした。政府の執行官でもあるチザムは、町を守るのは自分の仕事ではないと応じませんでしたが、闘う相手がボーグと知ると、用心棒の仕事を引き受けるのでした。

チザムとエマは仲間を集めていきます。ギャンブラーでトランプと拳銃を巧みにあやつるファラデー(演じるのはクリス・プラット=Chris Pratt)を筆頭にナイフ使いや狙撃の名手、肉弾戦にめっぽう強いマウンテンマン(山男)、メキシコ系の荒くれガンマン、そしてネイティブ・アメリカン(インディアン)のはぐれ戦士といった合計七人が、ローズ・クリークへと向かいました。

町に陣取るボーグの手下を打ち倒した七人は、予想されるボーグの逆襲に備え、使い慣れない銃を手にした人々に射撃の手ほどきをし、町全体を要塞にかえて、決戦に備えます。100人をこえるボーグの私兵と戦うチザムたち七人とローズ・クリークの人々。激しい銃弾の応酬と白兵戦のあと、チザムとボーグは焼け落ちた教会で対峙します。チザムが語る、ボークとの因縁とは。

監督のアントワーン・フークア(Antoine Fuqua)は、子どものころ、深夜放送で「七人の侍」を観て、「とてつもない衝撃を受けた」結果、「オレが映画監督になったのは。そういうクロサワとの出会いがあったからなんだ」(「映画秘宝」2017年2月号)と原典への思いを語っています。こうした感覚はキャストにもあり、ファラデー役のクリス・プラットも「荒野の七人」を「西部劇ファンとしてのお気に入りの1本」(パンフレットより)と述べています。

なお、本作の骨子は「七人の侍」、「荒野の七人」と同様ですが、異なっている部分も多々あります。

最大の差異は「七人」の人選でしょう。「七人の侍」は自称「侍」という人物もいますが、全員が日本人。「荒野の七人」にはメキシコ系はいますが、白人が中心です。本作の7人は、主人公でまとめ役のチザムが黒人であるように、メキシコ系やネイティブ・アメリカンといった「アメリカ大陸の先住者」から東洋人(設定は多分、中国系)といった人物で構成され、「人種のるつぼ」といわれたアメリカの人種構成を具現化したかのようです。

1950年から1960年代の全盛期、ハリウッド西部劇ではカウボーイ全体の3分の1が黒人だった(ガンマンはほとんど登場しません)、という主張も存在します。また、1869年に開通した大陸横断鉄道の敷設には、労働者として中国系移民が多く参加していたので、東洋人ガンマンの存在も不自然ではないわけです。

先達作品との最大の差異は、最後の決戦シーンの豪快さでしょう。過去の作品をはるかに超えています。地面にしかけたダイナマイトや手製の巨大散弾銃を駆使する七人と町の人々に対し、ボーグ陣営は「悪魔の銃」と呼ばれる当時の最新だった手動で連射するガトリング・ガンを繰り出し、戦争映画に近い、恐ろしいまでの闘争が繰り広げられるのです。

スイッチひとつで多人数を吹き飛ばすダイナマイトや、一連射で数十人をなぎ倒す銃器が登場することで、西部劇の象徴のような早撃ちや、銃を回転させてホルスターに納めるといったガンプレイが、この頃から過去のものになりつつある時代を表現したと感じたのは、自分だけでしょうか。個人的にはあまり好きな言葉ではないですが、「古き良き」という一語が似合う一作だと思います。次回は「ナイスガイズ」を予定しています。

編集注:「七人の侍」は1954年4月26日に公開された日本映画で、東宝が制作・配給を手がけ、監督が黒沢明、主演が三船敏郎(みふね・としろう、1920-1997)と志村喬(しむら・たかし、1905-1982)、白黒、207分(オリジナル版)の上映時間だ。制作費が2億1000万円、興行収入が2億6823万円だった。

当時の通常作品の7倍ほどに匹敵する制作費をかけ、何千人ものスタッフ・キャストを動員、1年余りの撮影期間がかかったが、興行的には成功し、700万人の観客動員を記録した。日本の戦国時代(劇中の台詞によると1586年)を舞台とし、野武士の略奪により困窮した百姓に雇われる形で集った七人の侍が、身分差による軋轢(あつれき)を乗り越えながら協力して野武士の一団と戦う物語となっている。

黒沢明が初めてマルチカム方式(複数のカメラで同時に撮影する方式)を採用し、望遠レンズを多用し、ダイナミックな編集を駆使して、豪雨の決戦シーンなど迫力あるアクションシーンを生み出した。さらにその技術と共に、シナリオ、綿密な時代考証などにより、アクション映画、時代劇におけるリアリズムを確立したとされている。

島田勘兵衛(志村喬)、菊千代(三船敏郎)、岡本勝四郎(木村功=きむら・いさお、1923-1981)、片山五郎兵衛(稲葉義男=いなば・よしお、1920-1998)、七郎次(加東大介=かとう・だいすけ、1911-1975)、林田平八(千秋実=ちあき・みのる、1917-1999)、久蔵(宮口精二=みやぐち・せいじ、1913-1985)が「七人」を演じた(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:「荒野の七人」は1960年に公開されたアメリカの映画で、「七人の侍」の舞台を西部開拓時代のメキシコに移して描いたリメイク作品で、上映時間が128分だ。当時の興行収入が2億9640万円で、後に第2作「続・荒野の七人」(1966年)、第3作「新・荒野の七人 馬上の決闘」、第4作「荒野の七人・真昼の決闘」(1972年)などの続編が制作された。

監督はジョン・スタージェス(John Sturges、1910-1992)で、「勘兵衛」に相当するクリス・アダムス(ユル・ブリンナー=Yul Brynner、1920-1985)、「五郎兵衛」と「七郎次」に相当する、ヴィン(スティーブ・マックイーン=(Terence Steven “Steve” McQueen、1930-1980)、7人の最年少メンバーで「勝四郎」と「菊千代」に相当する、チコ(ホルスト・ブッフホルツ=Horst Buchholz、1933-2003)。

「平八」に相当する、ベルナルド・オライリー(チャールズ・ブロンソン=Charles Bronson、1921-2003)、「久蔵」に相当する、ブリット(ジェームズ・コバーン=(James Harrison Coburn3、1928-2002)、相当する役柄のないオリジナルのハリー・ラック(ブラッド・デクスター=Brad Dexter、1917-2002)、相当する役柄のないオリジナルのリー(ロバート・ヴォーン=Robert Francis Vaughn、1932-2016)の7人。