インド、2重株で世界最悪、酸素欠乏で司法が行政に戒告、再封鎖も(67)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年5月11日】予想通り、インドの1日当たりの新規感染者数が4月22日、アメリカで1月に観測された29万7430人の最多記録を抜いて、31万4835人と世界ワーストに躍り出た。

バーラト・バイオテックが開発したインド国産ワクチン、コバキシン(Covaxin) は、トリプル変異株にも有効といわれるが?ワクチン不足を受けて、目下増産中。値段は州政府向けに1回600ルピー(1ルピー=約1.4円)、私立病院には1200ルピー。ちなみに、モディ首相が2回接種完了したのは、国産のコバキシンだった。

24日現在は新規34万7000人(累計1660万人、死者19万人、新規死者2624人)と勢いは止まらず、これは1分間に陽性者240例、1時間に死者100人という恐るべき割合だ。60日内に新規ミリオン超の予測もなされており、空恐ろしい限りである。

首都デリー(Delhi、累計98万1000人、死者13541人、新規2万4331人)では、医療酸素不足でパニック状態、州政府が中央政府に緊急要請するも、ガンガー・ラム・ホスピタルで25人、ジャイプール・ゴールデン・ホスピタルで20人ほか、計6病院で多数の死者が出た。

医療機能が麻痺寸前で、病床逼迫(ICU99%占有)、患者2人が1つのベッドに横たわっての酸素吸入や、廊下にもストレッチャーや簡易ベッドが溢れ出している。各州の病院や個人からの酸素供給のSOSが殺到し、未曾有の緊急事態に瀕している。

グジャラート州(Gujarat、累計46万8000人、死者6019人、新規1万3804人)のアーメダバード市(Ahmedabad)の市民病院前には、80台もの救急車が列をなして順番待ち、赤信号点滅の各州はまさしく、カオス状態だ。

野党・国民会議派(congress I)の前総裁、名門政治家一家の長男(暗殺されたラジブ・ガンジーとイタリア出生未亡人かつ現総裁ソニアの息子)、ラフール・ガンジー(40歳)の陽性が発覚。先にマンモハン・シン前首相(88歳)が感染を公表していたが(改善中)、接触関連か。与党・インド人民党のコロナ敗戦は、2016年の廃貨失策と並んで、格好のサンドバッグだ。

最悪州マハラシュトラ(Maharashtra、累計416万人、死者6万3252人、新規6万6836人)では21日、州都ムンバイ(Mumbai)の北200キロに位置するナシック(Nashik)のザキール・フセイン病院で、駐車中の車両から酸素漏れ事故が起こり、コロナ重症患者の人工呼吸器への供給が絶たれ、22人が死亡した。

一方、マハラシュトラ、ケララ(Kerala、累計135万人、死者5055人、新規2万8447人)、カルナータカ(Karnataka、累計127万人、死者1万4075人、新規2万6962人)に次いで、タミルナドゥ(Tamil Nadu、累計105万人、死者1万3395人、新規1万3776人)、ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh、累計101万人、死者1万0737人、新規3万6605人)がミリオン州にランクインした。

各州でワクチンやレムデシベル(Remdesivir)薬剤が不足しているが、製造会社がこっそり貯蔵していたり、ストックして値を釣り上げる闇市場の横行が憂慮されている。中央政府は、各州に闇売買の監視を強化するよう強く要請した。

政府は急遽5月1日から、18歳以上の全国民にワクチン接種を認可、また各州が直接製造会社からワクチンを買い付けることを許可した。

ここまで爆発しては、開発まもないワクチンに頼るしかなく、接種加速に向けての、自由化である。今現在1億3000万回超に達したが、2回完了したのは、13億5000万人以上という膨大な人口からすれば、わずか1.4%だ。

マハラシュトラ州政府は、18歳から45歳までの全州民に無料接種を実施中で、当オディシャ州(Odisha)政府も25日、2000クロール(約280億円)の予算で同様の無料接種を5月から開始することを公表した。

ハイデラバード(南隣のアンドラプラデシュ州都)のフセイン・サガール湖で夜の遊覧船ツアーを楽しむ亡父と息子(2017年3月)。2019年11月に逝去したダッドは今も、折々夢に現れて、愛息を諭す。

ワクチン不足が深刻化する中、自国優先でワクチンの原材料の輸出を渋っていたアメリカ政府も、インドよりの批判の声が高まるにつれ、モディ(Narendra Damodardas Modi)首相曰くコロナストーム、荒れ狂う感染の嵐を見過ごせず、ようやく原材料はじめの医療機器や防護服の輸出支援に乗り出した。

誰もが予想だにしなかったメガ第2波に、全土は大わらわだ。第1波中は、膨大な人口の割に、日当たり新規数が奇跡的に最多10万人を超えず、致死率も低く、欧米に比べると、健闘していたため、油断したのである。

TSUNAMI(ツナミ)級再拡大の裏には、ワクチン開始以降の大幅な緩和政策(クンブメーラなどの大型宗教行事や政治集会の許可)やルール無視の気の緩みもあるが、二重変異種(B.1.617)というインド特有の変異株の感染力の強さが主因との見方が最近になって有力視されている。ひとつのウイルスにふたつの変異が起こる二重どころか、トリプル株も西ベンガル州(West Bengal)で見つかっており、感染力が増強、歯止めが効かない状態た。

酸素不足問題については、見かねた司法が介入し、行政を叱咤、最高裁の詰問に中央政府が返答に窮するひと幕もあった。首都デリーの高等裁判所でも、中央政府と州政府が責任のなすり合いをしている場合でなく、酸素不足を喫緊に解消し、人命を尊重するよう厳しい戒告を垂れた。

当座産業用の酸素で代用、埋め合わせることになったが、当オディシャ州首相、ナビーン・パトナイク(Naveen Patnaik)は、モディ首相に率先して酸素供与の申し入れを行なった。オディシャ州は資源豊富で、ラウケラ鉄鋼プラントらの産業用酸素をあてにしてのことだ。早速中央政府から軍用機で搬送された15台の空タンクに250トン満たされた酸素が、州外の6都市にトラック輸送された。

さて、他州の支援に乗り出した当オディシャ州(人口4600万人)とて、例外でなく、ハイペースで増えており、新規数は6600人超(全国17位、第1波の9月25日付最多4356人をはるかに凌ぐ)、実質陽性者数は4万人を超えている(累計40万人超)。それでも、全国の異常な急増に比べればましで、死者も依然少ない(1981人)。

今や、チャティスガール州(Chhattisgarh)との西部州境よりも、三重変異株が見つかった北隣の西ベンガル州との州境(既に封鎖)で厳重な警戒が続いているが、海路の侵入にも神経を尖らせている。

もうひとつ厄介なのは、移民労働者問題。ロックダウン(都市封鎖)州から早晩、60万人、70万人もの帰省者がなだれ込むと想定され、州政府は医療センターを備えた隔離施設の完備に臨戦体制で臨んでいる。コロナ専門病院(現在70カ所)の新設や、病床の補充(現在の1万2000床+新5万8000床)も着々と進められている。

当地プリータウン(Puri Town、プリー地方=1行政区画・11町・11ブロック・1722村=人口約170万人の実質陽性者2000人超)は、ついひと月前まで賑わっていたのが打って変わって嘘のような、異様な静けさが戻り、車の往来も途絶え、通りは閑散としている。週末すら人気がなく、ホテル街はがら空きだ(当聖地のシンボル、シャガンナート寺院=Jagannath Mandir=は5月15日まで閉鎖)。

プリーは、北隣の西ベンガル州民のお気に入りスボットで、日頃から愛顧されている当ホテル街だが、三重変異株を警戒して、陰性証明もしくはワクチン証明の提示がない限り、泊めないようにとのお上からのお達しが下った。

〇身辺こぼれ話/コロナ下の改築

メガ第2波中、改築工事を始めてしまった当ホテル(Hotel Love&Life, C.T.Road, Puri)だが、どうやらビルの屋上の欄干工事は終わった。2019年5月のサイクロンで一部崩落したものを、全策コンクリートの仕切りに作り替えたのだ。次は電気の配線工事が控えているが、お客さん不在のこの時期を利用して、やれる範囲で必要不可欠な小改築を進めるつもりでいる。

コロナ戦況が圧倒的に形勢不利なタイミング最悪のさなか、工事も何もあったものじゃないが、先代オーナーのたっての要請なのだから、従うしかない。

ひと月ほど前、息子の夢に現れた亡父は、遺族がホテルを野放しにしていることを叱咤、ホテルを守り継いでいくのは、後継者であるお前の義務と責任だと、発破をかけたのであった。

以後、息子のホテルに取り組む姿勢が変わり、真剣に対処するようになったというわけだ。私自身は今少し事態を静観したい思いもあったのだが、息子に、自分に任せてくれと言われて、折れた。

コロナ下客が入らないだけに、ホテルの老朽化が著しく、亡夫が荒廃ぶりを怒り嘆くのも無理はないと思ったからだ。しかし、先が見えない中、改築を進めるのは、精神的にも不安定で落ち着かない。

本日からウィークエンド・シャットダウン(オディシャ州の全30市町)が始まった。禁を冒して、夕刻30分だけ浜に出たが、途上の路も海辺もがらんとしていた。

少し後ろめたかったが、ミッドサマーて蒸し暑い中、磯の涼気に触れるのは心地よく、頭上を仰ぐと、逢魔時(おうまがどき)の紫青の闇に、輝かしいしろがねの円月がかかっていた。無人に近い波打ち際を滴るように照らし出す壮麗さに見とれた。

今日から2日間は、レセプションも閉められるのだ。既にこの2週間ほど、客は皆無とはいえ、開けているだけで気分が違うものだが、致し方ない。

レセプションの遺影、先代オーナーに、家族・スタッフの健康・安全と、将来の商売繁盛を祈願した。隣の神棚のジャガンナート神(当地のヒンドゥ教シンボルの宇宙の主、1化身が仏陀)に、パンデミック終息を改めて、お祈りすることも忘れなかった。

〇こぼれ話・おまけ

英字紙「The New Indian Express」は4月26日より、未曾有の危機を鑑みて、クリケット関連記事の削除を決意、試合観戦で浮かれている場合でなかろうとの警告のつもりだろうが、クリケット狂のインド男性ファンの落胆ぶりが目に浮かぶようだ。

代わりに、酸素マスクを付けて横たわるコロナ患者や、ワクチン接種に並ぶ住民、列を作って帰省バスを待つ移民労働者らの写真で埋められた。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年4月29日現在、世界の感染者数は1億4963万5392人、死亡者数が315万1064人、回復者が8686万2184人です。インドは感染者数が1837万6421人、死亡者数が20万4832人、回復者が1508万6740人、アメリカ、ブラジルに次いで3位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3222万9598人、死亡者数が57万4326人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1452万1289人、死亡者数が39万8185人、回復者数が1284万9663人です。日本は感染者数が58万3125人、死亡者数が1万0139人、回復者が51万2728人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。編集注は筆者と関係ありません)。