帰国後、親族の医者とコロナ論議、インド産ワクチンは効く?(101)

(著者がインドから帰国したので、タイトルを「インドからの帰国記」としています。連載の回数はそのまま継続しています)
【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2022年7月8日】3月23日、2年3カ月ぶりに会った長弟と、1時間余りコロナについての互いの意見交換、専門家の弟は私の比でなく、徹底したリサーチからメッセンジャー(m)RNAワクチンの有効性を強調、が、治験未了で地球規模の人体実験という私の説には、100%安全を保障できない以上、反論できないはずだ。

アラブ首長国連邦(UAE)の最大都市(人口約331万人)、ドバイの摩天楼。

ただ、いろいろ話してみて、もっと綿密に連絡を取り合って、ワクチン肯定派の身内の専門家の意見を聞いておくべきだったと後悔した。超多忙の身上を気遣うあまり、記事もたまにしか送らなかったし、医療現場の立場から接種は免れ得ないことは承知していたので、我が未接種の立場を明らかにして、無用ないさかいを招きたくないと、控えたのである。

身内ゆえのおもんぱかりは、今思えば無用な遠慮で、もっとガンガン議論をふっかけて、こんな近くにいる専門家に疑問を解消しておくべきだったかもしれない。その上で、相容れないところはそれなりに受け入れて、自分なりに消化すれば、私のワクチン論にも深みや厚みが出たかもしれない。

それにしても、常々、日本ではみな、なぜこんなに簡単に感染してしまうんだろうかと思ってきたが、疑問をぶつけてみると、私がインドで我が身に課してきた厳格な隔離は、文明先進国で社会生活を成り立たせている以上、不可能だということ、緊急事態宣言も、インドの厳格なロックダウン(都市封鎖)に比べると、骨抜きのゆるゆる、都内の通勤電車はコロナ下も最大密、社会活動が制限されない以上、感染は避け得ない、インドの場合、日頃から不衛生な環境で感染症に対する免疫ができていることが、無菌環境の日本より強い。

デルタ大爆発てインドの都市部は集団免疫が獲得され、オミクロンにも強かったということ、第3波がひと月とたたないうちに収束、今は第1波の収束時を上回るほぼ終息モード(3月25日の新規陽性者数は1600人台、日本の11倍の人口のインドが日本の陽性者数の30分の1だ)、まことオミクロンを屁ともしない鉄壁のたくましさ、したたかさ、庶民の強靭ぶりは、やわな日本人の比ではない。

ドバイモールの1階に入っているJoe’s Cafeにて。世界一高いタワー(828メートル)、「Bruj Khalifa(ブルジュ・ハリファ)」をはじめ、摩天楼を背景に彼女とお茶を楽しむ息子のRapper Big Deal。

ちょっと熱が出たくらいで、誰も日本のように発熱外来に殺到したり、検査場に駆けつけたりしない、自宅療養して5日ほどで回復、がために、第2波のときのようなパニックに陥ることもなく、速やかに収束したのである。

感染症に強いインド人の勝ち、である。またインドは、中進国にしては、ワクチン接種も進んでおり、1回目71%(インド政府の公表数字は90%)、2回目60%、3回はまだまだだが、既に集団免疫ができているのだから、相乗効果で強い。

私の周囲のインド人は1人として、感染していない。ただし、州外の都市部の息子の友人とか、遠い親戚とかは感染体験者だが。

あと私自身、インドで打つなら、国産(バーラト・バイオテック=Bharat Biotech)の「コバキシン(COVAXIN)」がよいのではないかと思っていたが、弟によるど、英国製の「アストラゼネカ(AstraZeneca)」より効き目があるらしい。モディ首相(Narendra D.Modi、1950年生まれ)が打ったことで、私のコバキシンに対するトラスト度はぐんと跳ね上がった。インド国産ワクチンの喧伝だけでなく、それだけの実効があったのだと思う。90代の高齢の首相の尊母(今年6月で100歳)も打たれたくらいだ。

パキスタンのイムラン・カーン首相(4月に失脚、Imran Khan Niazi、1952年生まれ)がファイザー(Pfizer)製を打って、早期にブレイクスルー感染したのとは大違いだ。インド自国産というのは、プライドなのだ。植民地化の歴史があったから、インド人は愛国心が強く、自治、自産、スワデシ(Swadeshi、ヒンディー語で自国産の意味)にこだわる。英コロニー来の地名が現地語読み、1例がオリッサ(Orissa)がオディシャ(Odisha)に変わったごとく、あまねく変更が行き渡る近年だ。

あともうひとつ、弟は、現場でオミクロン患者を診てきた専門家として、巷に伝わる軽症説を却下、肺にはいかないけど、インフルエンザよりしんどい、無症状と言っても熱は出る、39度まで上がると言っていた。

治癒後の体力低下のリハビリが必要とのこと、高齢者は重症化リスクもあるということで、見くびってはいけないということだろう。

「イベルメクチン(ivermectin)」に関しては、勝手に服用して黄疸が出た患者もいたという。拙記事でも、大量投与は副作用の危険があると述べたが、たぶん、分量を誤ったのではないかと思う。やはり、専門家の処方のもとに適量を服用すべきで、尼崎の長尾クリニックなど、患者の同意のもとに適応外使用していて、副作用はほとんどないし、治癒効果を得ているとのことなので、未接種者で感染し、イベルメクチンにトライしたい向きは、くれぐれも慎重に、医師の処方のもとに行って頂きたい。

有効な治療薬は未だないとのことで、唯一ファイザー製の効験あらたかな薬があるようだが、併用禁忌があるため、たいていは使えないとか(ちなみに、重症者用のアメリカ・メルク社のモルヌピラビル=molnupiravir(日本名ラゲブリオ)=はあまり効かないと言っていた)。塩野義製薬のまだ認可されていない新薬(軽症者用飲み薬「ゾコーバ」)に、期待したいところだ。

〇ミニコラム/息子、コロナ下海外へ

わが日印混血息子サミール(ラップミュージシャン・Rapper Big Deal)が5月上旬、ドバイ(Dubai)在住のガールフレンド(エミレーツ航空のCA)に会うために、インド国外に出た。

ドバイまでは、南インドのIT都市バンガロール(Bangalore)の国際空港から約5時間、遠距離国内線よりちょっと長めという、海外といっても、行きやすい距離だ。

私自身は20代の若い頃欧州ツアーの途上、ドバイ空港にのみ立ち寄った過去がある。往時でも、ドバイのフリータックスショップは規模と品揃えで有名だったのだ。

息子の海外旅行歴は、タイ(Thailand)3度、ネパール(Nepal)2度、ブータン(Bhutan)1度、日本3度と少なく、それにこのたびのアラブ首長国連邦(United Arab Emirates、UAE)が加わったわけで、経験を積むためにもよかったと思う。

世界は未だコロナ禍の影響下にあったが、インドはほぼ終息、出国に問題はなかったようだ。出入国に陰性証明は必要だが、インドも、ドバイも、街中ではマスクフリー、正常に戻っており、彼女との時間をエンジョイしたようだった。

高層ビルやモールが立ち並ぶモダンな街並みには、それなりにインパクトを受けたようだったが、インド移民も多く、息子にとっては、インフラが整備され発展した未来のインドと感じたようだ。ただ、物価が高く、インドの10倍というのが難だったらしい。

インド在住知人の情報によると、インドでは国内線の乗務員ですらマスクを外しているようで(しててもあごマスク)、これまでの反動か、街にはひじょうに活気が戻っているらしい。

ちなみに6月に、日本入国時の72時間前陰性証明書が簡素化されたものの、未だ日本フォーマット採用で、どうにかならんかともどかしいが、撤廃までには時間を要しそうだ。

※ビッグディールのドバイ旅行については、号を改めて本人へのインタビュー記事としてアップ予定なので、お楽しみに!

(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からインドからの「脱出記」で随時、掲載します。

モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2022年6月27日現在、世界の感染者数は5億4360万3557人、死者は632万9064人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が4340万7046人、死亡者数が52万5020人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。編集注は筆者と関係ありません)。